相模原障害者施設殺傷事件
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相模原障害者施設殺傷事件 | |
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場所 |
日本・神奈川県相模原市緑区千木良476番地 神奈川県立の知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」[1][2][3] |
座標 | |
日付 |
2016年(平成28年)7月26日 午前2時頃 – 午前3時頃 (UTC+9) |
攻撃手段 | 刃物で刺す・切りつける |
武器 | 刃物(柳刃包丁やナイフなど) |
死亡者 | 施設入所者19人 |
負傷者 | 施設入所者・職員計26人 |
犯人 | 元施設職員の男A(犯行当時26歳、1990年1月20日生まれ)[4] |
対処 | 逮捕・起訴 |
管轄 | 神奈川県警察津久井警察署・横浜地方検察庁 |
相模原障害者施設殺傷事件(さがみはら しょうがいしゃしせつ さっしょうじけん)とは、2016年(平成28年)7月26日未明、神奈川県相模原市緑区千木良476番地にある、神奈川県立の知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」に[1]、元施設職員の男A(犯行当時26歳)が侵入し[5][6][7][8]、所持していた刃物で入所者19人を刺殺し、入所者・職員計26人に重軽傷を負わせた大量殺人事件[5][6][7][8][1]。
殺害人数19人は、第二次世界大戦(太平洋戦争)後の日本で発生した殺人事件としては最も多く[9][注釈 1]、戦後最悪の大量殺人事件として[注釈 2][11][12]、日本社会に衝撃を与えた[13][5]。
事件の概要[編集]
2016年7月26日午前2時38分[注釈 3]、相模原市緑区千木良の知的障害者施設「神奈川県立 津久井やまゆり園」[1][2]から神奈川県警察[1]・相模原市消防局にそれぞれ[15]、「刃物を持った男が暴れている」との通報があった。事件に気づいた施設の当直職員が、非番の男性職員にLINEを使って「すぐ来て。やばい」[14]と連絡を取り、連絡を受けた男性職員が電話で確認の上警察に通報した[16][14]。現場に駆け付けた医師が19人の死亡を確認し、重傷の20人を含む負傷者26人が6か所の医療機関に搬送された[1]。
死亡したのは、いずれも同施設の入所者の男性9人(年齢はいずれも当時41歳 - 67歳)、女性10人(同19歳 - 70歳)である[17][1][18]。死因は19歳女性が腹部を刺されたことによる脾動脈損傷に基づく腹腔内出血、40歳女性が背中から両肺を刺されたことによる血気胸、残り17人が失血死とされ、遺体の多くは居室のベッドの上で見つかっていたことから、Aが寝ていた入所者の上半身を次々と刺したとみられる[19][6]。また、負傷したのは施設職員男女各1人を含む男性21人、女性5人で[18]、うち13人は重傷を負った[17]。入所者24人の負傷内容は全治約9日 - 約6か月間の胸への切り傷や両手の甲への打撲などとされる[6]。被害者の名前について、神奈川県警は同26日、「施設にはさまざまな障害を抱えた方が入所しており、被害者の家族が公表しないでほしいとの思いを持っている」として、公表しない方針を明らかにしている[20]。そして被害者の家族の一人は公表しない理由を、「日本では、全ての命はその存在だけで価値があるという考え方が当たり前ではなく、優生思想が根強いため」と説明した[21]。
午前3時過ぎ、現場所轄の津久井警察署に、加害者の男A(犯行当時26歳、元施設職員)が、「私がやりました」と出頭し、午前4時半前[22]、死亡した19歳の女性入所者に対する殺人未遂[23]・建造物侵入の各容疑で、緊急逮捕された[1]。
Aは、正門付近の警備員室を避け、裏口から敷地内に侵入し[14]、午前2時頃[24]、ハンマーで入居者東居住棟1階の窓ガラスを割り、そこから施設内に侵入したとみられる[17][25]。起訴状によればAは、意思疎通のできない障害者を多数殺害する目的で、通用口の門扉を開けて敷地内に侵入し、結束バンドを使って職員らを拘束し、一部を結束バンドで縛り、その目の前で入居者の殺傷に及んでいたが、直接刃物で切りつけられた職員はいなかった[26]。Aは、職員らを拘束した上で、所持した包丁・ナイフを使用し、犯行に及んだとされ[17]、また凶器として、自宅から持ち込んだ柳刃包丁5本などを持っており[6]、切れ味が鈍るなどする度に取り換えながら使用していた[27])。事件後に施設内で刃物2本が発見され、Aは別の刃物3本を持って津久井署へ出頭した[27]。Aは侵入時にスポーツバッグを所持しており、刃物やハンマー、職員を縛った結束バンドなどをバッグに収納し、行動しやすくしていたとみられる[27]。Aは犯行時、鉢合わせした職員らに「障害者を殺しに来た。邪魔をするな」などと脅しており、入居者に声をかけつつ返事がない入居者らを狙って次々と刺していった[26]。前述のように、Aが裏口から施設に侵入したことから、Aは施設の構造・防犯態勢を熟知していたとみられる[14]。取り調べに対し、Aは「ナイフで刺したことは間違いない」などと容疑を認めた上で、「障害者なんていなくなってしまえ」と確信犯である持論を供述もした[28]。
同警察署の捜査本部は翌27日、殺人未遂の容疑を殺人に切り替えて、Aを横浜地方検察庁に送検した[29][24]。
事件で負傷して意識不明となった4人が入院していた病院は、翌27日の記者会見で、4人全員の意識が回復したと発表した[30]。そのうち、20代の男性は首を深く刺されたため、全血液量の3分の2を失い、搬送直後には脈をとれないほどの危険な状態だった[30]。この男性は、意識を取り戻して人工呼吸器を外されると、看護師に何度も「助けて」と繰り返し、容疑者としてAが逮捕されたことを知ると「生き返った」と答えた[30]。
入所者のうち、被害を免れた比較的軽度の入所者が、Aが殺傷前に職員に縛り付けた結束バンドを、はさみで切断し、職員を解放していたことが判明し、捜査本部はこの行為が被害を抑えた可能性もあるとみている[31]。
Aはさらに多数の入居者を襲う計画だったが、西棟2階を担当していた職員が、異変を察知して部屋に閉じこもり、そのまま出てこなかったことから、この職員が警察に通報するのを恐れ、襲撃を中断し、施設から逃走した[32]。
神奈川県立津久井やまゆり園[編集]
事件のあった「津久井やまゆり園」は、神奈川県が1964年(昭和39年)から設置し、2005年(平成17年)度から指定管理者制を導入し、社会福祉法人「かながわ共同会」が運営している知的障害者施設である[1][2]。相模湖駅から東に2kmほど離れた、山に囲まれた相模川に面する住宅地に立地している[33]。
入所定員は事件当時、長期入所者150人、短期入所者10人の計160人だった[1][2][3]。敷地の面積は3万890平方メートルの敷地内に2階建ての居住棟や管理棟、グラウンドや作業スペースなどがあり[34]、7月1日時点で職員数は164人、同日時点で入所していた19歳から75歳の長期入所者149人(男性92人、女性57人)全員が障害支援区分6段階のうち重い方の4から6に該当する重度の知的障害者(食事や入浴、排泄などの介助が必要)だった[1]。
1992年(平成4年)12月より、開所当時の施設・設備が老朽化したことを受けて、建て替え工事を実施した[35]。1994年(平成6年)6月、第1期工事(居住棟・厨房機械棟)が完成し、続いて既存棟の解体と、居住棟・作業訓練室やボランティア室などを備えた管理棟などを建設する、第2期工事が同年7月から行われ[36]、1996年(平成8年)4月に完成したことで、再整備工事が完了し全面開所した[37][38]。
園では、夜間も職員を1棟あたり少なくとも2人配置し、園の正門・居住棟の入り口は、それぞれ施錠されている上、建物内に入ったとしても、各ホームに自由に行き来することはできず、すべての鍵を開けられるマスターキーを持っている職員もいないという[17]。また、園には警備員が常駐しているが、午後9時半以降は正門近くの管理棟で仮眠してもよいことになっており、当直の警備員は侵入に気づかなかったという[14]。
捜査[編集]
捜査本部は7月27日の捜査で、新たに血痕の付いた包丁2本を発見した[16]。また、殺害された19人全員に、胸や首に複数の刺し傷があった[16]。27日までに12人の司法解剖が終了し、10人は負傷による失血死と失血性ショック、2人は腹と背中を刺されたことが致命傷となった[16]。傷の深さから、Aには明確な殺意があったものとみられる[16]。
取り調べの中で、Aは犯行時、職員から奪った鍵で居住区画を仕切る扉を解錠して移動しながら、入居者の実名を叫んでいたことも新たに判明し、犠牲者には名前を呼ばれた入居者も含まれていたという[39]。神奈川県警は、Aが特定の人物を標的にした疑いがあるとみている[39]。
神奈川県警は8月15日、園内の東側居住棟1階で、刃物で切りつけたり、突き刺したりして、26歳から70歳の女性9人を殺害したとして、殺人容疑でAを再逮捕した[23]。同日、横浜地検は当初の逮捕容疑である、19歳の女性に対する殺人容疑については処分保留とした[23]。県警は8月17日午前、Aを横浜地方検察庁に送検した[40]。
神奈川県警は9月5日、園西棟の1階と2階で、41歳から67歳の男性9人を、刃物で切りつけて殺害したとして、殺人容疑でAを再逮捕した[41]。逮捕は3回目で、これまでの逮捕容疑について横浜地検はいずれも処分保留とした[41]。これで、東棟1階の女性10人と合わせ、死亡した19人全員について、殺人容疑で立件され、Aはいずれも容疑を認めた[41]。鑑定留置の期間は翌2017年1月23日までの約4か月間を予定している[42]。Aは襲撃の途中に施設の職員室にあるパソコンで勤務表を調べ、自分より体格がよい職員がいないことを確認していたことが判明しており、捜査関係者は「殺害計画に沿って合理的に行動しており、心神喪失状態ではなかった」とみている[43]。
12月19日、神奈川県警はこれまでの殺人容疑に加え、入所者24人に重軽傷を負わせたとする殺人未遂容疑で、Aを横浜地検に追送検し、一連のAによる殺傷行為についてすべて立件した[44][45]。また、県警はその負傷者のうち2人について家族の了解が得られたとして実名を公表した[44][46]。
2017年(平成29年)1月13日、神奈川県警津久井署捜査本部はAが施設職員の男女5人を「騒いだら殺す」などと脅して結束バンドで手首などを縛り手すりに拘束し、うち女性職員2人の頭部を殴るなどして重軽傷を負わせたとして、施設女性職員2人への逮捕・監禁致傷容疑と、施設職員の男性3人への逮捕・監禁容疑(施設職員計5人に対する逮捕・監禁容疑)などでAを追送検した[47]。
1月17日、事件当時のAの精神鑑定を実施し、刑事責任能力の有無を判断した上で、起訴するかどうか一括して判断するため、昨年9月21日から1月23日まで4カ月を予定して、Aの鑑定留置を実施していた横浜地検は、横浜地方裁判所に対し、2月20日まで鑑定留置期間を延長するよう請求し、認められたと発表した(延長理由は明らかにされていない。捜査関係者によると、鑑定を担当する精神科医が延長を申し出たという)[48]。2月20日に鑑定留置が終了し、Aの身柄は午後3時過ぎに立川拘置所から捜査本部が置かれている津久井警察署に移送された[49]。これまでの精神鑑定でAは「自己愛性パーソナリティ障害」など複合的なパーソナリティ障害があったとみられ[49]、「動機の了解可能性」「犯行の計画性」「行為の違法性の認識」「精神障害による免責の可能性」「犯行の人格異質性」「犯行の一貫性・合目的性」「犯行後の自己防衛行動」の面から[50]、Aは犯行時には「完全な刑事責任能力を問える状態」であったという[49]。横浜地検は勾留期限の2月24日までにAを起訴する方針を決めた[51]。
そして2月24日、横浜地検はAを男女19人の入所者への殺人、男女24人の入所者への殺人未遂、職員3人への逮捕・監禁及び職員3人への同致傷、建造物侵入、銃刀法違反の6つの罪で横浜地方裁判所に起訴し、事件発生から約7か月に及んだ一連の捜査が終結した[5][6][8][7]。
なお、「イルミナティ」と呼ばれるカードゲームの愛好者であるAは、取り調べの中で「1001」は聖なる数字だとして、本来は10月1日に施設襲撃を計画していたが、『日本経済新聞』の報道によると、事件前日の7月25日に暴力団関係者と親交があるとする知人から「おまえは暴力団組員に追われている」と告げられたため、それが心理的な圧力になり、襲撃日を翌7月26日に前倒しするとともに、襲撃できなくなることを危惧して、自動車の鍵を津久井警察署で受け取った(後述のように、この日は無断駐車で津久井署から呼び出しを受けていた)後、周辺のホームセンターで結束バンドを買ったり自宅から包丁を持ち出したりして、犯行を準備したと供述している[52]。『朝日新聞』の報道によれば「自分は大麻の合法化を訴えているので大麻を資金源にしている暴力団から狙われている。殺される前になるべく早く事件を決行しなければ」と思い込んで、実行を前倒ししたという[6]。
刑事裁判[編集]
本事件は、横浜地方裁判所にて、裁判員裁判で審理される見込みで[5]、Aは殺傷行為を認めているため、今後開かれる刑事裁判の公判では、刑事責任能力の有無・程度が、最大の争点になる見込みである[53][54]。
被害の大きさ・証拠量の膨大さから[53]、公判前整理手続が長期化するとみられ、起訴から5ヶ月が過ぎた2017年7月26日時点でも、初公判が開かれる見通しは立っていない[55]。
刑事裁判では、検察側の死刑求刑が確実視される一方[8]、弁護側はAが犯行当時心神喪失状態だったとして、無罪を主張する可能性もある[56]。
横浜地検は刑事裁判の公判において、起訴状を朗読する際などに、被害者の実名を呼ばず「○○さん」など、匿名での審理を裁判所に求める検討をし[57]、6月になって、氏名や住所などを伏せるよう申し出ていた被害者を匿名にして公判を開く方針を決定し、被害者側に通知した[58]。法廷でも被害者名が明かされない可能性が出たことについて、被害者の家族・障害者団体など、関係者の意見は、「遺族や家族の要望を重視するのは当然」という肯定的なものや、「障害者であることを理由に特別扱いするなら差別だ」という否定的なものなどに分かれている[57]。
今後、刑事裁判でAに死刑判決が言い渡され、確定した場合、殺害人数19人は連合赤軍事件の坂口弘(17人への殺人罪で起訴。司法の認定は16人殺人・1人傷害致死)や、大阪個室ビデオ店放火事件の死刑囚(16人殺人)を超え、麻原彰晃らオウム真理教事件の死刑囚を除くと、日本における死刑囚としては戦後最悪の数字となる。また、日本国内の大量殺人事件としては、1938年に岡山県で、30人が殺害された津山事件以来の被害であり、第二次世界大戦後では最悪である。
横浜市内の精神鑑定経験が豊富な医師によると、一般的に「自己愛性パーソナリティ障害」は、衝動の抑制が効かなかったり理性的な判断が難しくなる場合はあるものの、刑事責任能力を左右する精神病とは区別されるという[59]。精神病というよりかは「性格の大きな歪み」に分類され、自分の意見が通らないと「周囲がいけない」「法律がおかしい」と自己中心的な思考に陥りがちになる[59]。その上で、Aの「かなり冷静に一貫した行動や言動」や、事件後の逃走を「自分の行動が犯罪だと認識している」点を指摘し[59]、Aの日常生活には問題がなかったことから「自己責任能力の否定材料が乏しく、起訴はまっとうな判断である」と評した[59]。
神奈川県知事の黒岩祐治は「裁判を通じて、この事件の全容が明らかになることを望む」と表明、また相模原市長の加山俊夫も「原因が究明され偏見や差別のない共生社会の実現につながってほしい」とコメントを出した[60]。
第一審・横浜地裁(裁判員裁判)[編集]
公判前整理手続[編集]
2017年9月28日、第1回公判前整理手続が、横浜地裁(青沼潔裁判長)で開かれた[61]。協議は非公開で実施され[61]、検察・弁護側双方が、主張内容を記載した書面をそれぞれ提出し[53]、争点について意見を交わした一方[61]、Aは欠席した[53]。その後、検察側・弁護人双方との間で、計3回の打ち合わせが行われ、検察側から合計631点の証拠請求がなされた一方、弁護人からは、予定する主張内容を記載した書面が提出された[62]。
横浜地裁(青沼潔裁判長)は、2018年1月23日までに、弁護側の請求を受け、Aに対し、再度の精神鑑定を実施することを決めた[62]。再鑑定の結果により、公判でAの責任能力について、どの程度、争点となるかが決まると思われる[62]。
加害者[編集]
生い立ち[編集]
Aは、1990年(平成2年)1月20日[4]、東京都日野市の[63]、多摩平団地(現:多摩平の森)で[64]、自治会活動に積極的に参加していた図工教師の父親と、漫画家の母親の間に[65][66]、一人っ子として生まれた[64]。
1991年(平成3年)1月[67]、当時1歳だったAは[67]、両親とともに[68]、多摩平団地から[64]、現場となった「津久井やまゆり園」からわずか500mほどの距離の[69]、津久井郡相模湖町大字千木良(現在の相模原市緑区千木良)にある自宅に移住した[68][4]。中学時代は熱心なバスケットボール部員で勉強もできる方だったという[68]。
Aは、相模湖町立千木良小学校(現:相模原市立千木良小学校)[70]・相模湖町立北相中学校(現:相模原市立北相中学校)を卒業後[71]、東京都八王子市内の私立八王子実践高等学校調理科に進学し[66]、神奈川県立津久井高等学校定時制に転校して卒業、2008年(平成20年)4月、帝京大学文学部教育学科初等教育学専攻(現:教育学部初等教育学科)に入学した[4]。
Aは子供の頃、いじめられている猫をかばうなど優しい少年だったものの、高校入学後、同級生を殴って転校した経験を持つ[72]。また、帝京大学在籍時の教育実習中、刺青を入れていたことが明らかになっており、Aの性格が豹変したのもその頃からだったという[66]。この頃、Aは「強い人間」に憧れ、ナイトクラブに通い、2010年(平成22年)頃から、大麻などを吸引し始めるなど、薬物に手を出すようになり[4]、卒業後は半グレ集団・右翼関係者とも交友を持つようになっていた[72]。
Aは、2011年(平成23年)5月末から約1カ月間[73]、母校の相模原市立千木良小学校で[70][69]、教員免許を取得するために教育実習を行った[73]。2012年(平成24年)3月、Aは帝京大学を卒業した[4]。
事件の4、5年ほど前、A宅から、夜中に母親とみられる女性の泣き叫ぶ声が聞こえ、その約半年後、Aとの同居に耐えかねた両親が、Aを1人残して、東京都八王子市のマンションに引っ越したという[65]。Aは大学卒業後、自動販売機の設置業者、運送会社、デリヘルの運転手など、職を転々とし、相模原市内のクラブにも、頻繁に出入りしていた[65]。転居の理由について近隣住民らは「Aの母親が野良猫に餌を与えて近隣とトラブルになったから」という説や「A君が入れ墨を入れたことに両親が怒ったから」という話があったという[67]。Aは、大麻を吸っていても「効かない」と言いつつ、さらに危険ドラッグを吸うこともあった他、後述の措置入院後も、大麻・危険ドラッグを使用していたという[74]。
やまゆり園採用後[編集]
Aは、2012年12月1日付で、「津久井やまゆり園」に非常勤職員として採用され[4]、翌2013年4月1日から、常勤職員として採用され[6]、2016年2月まで勤務していた[24]。逮捕後の取り調べに対し、「ナイフで刺したことは間違いない」と容疑を認めた上で、「施設を辞めさせられて恨んでいた」とも話したという[22]。Aは2012年8月、施設を運営する社会福祉法人「かながわ共同会」の就職説明会に参加し、「明るく意欲があり、伸びしろがある」という判断で採用された[75]。しかし、採用後の勤務態度には、施設入居者への暴行や暴言を繰り返すなどの問題が多々あり、何度も指導や面接を受けていたほか[75]、刺青を入れたり、業務外での問題行動も散見された[75]。Aは、2015年6月頃から、尊敬する彫り師に弟子入りし、本格的に彫り師修業を始めていたが、同年末頃にAが「障害者を皆殺しにすべきです」などの発言をするなどの異常な言動が見られたことから、ドラッグの使用が濃厚と判断した彫師は、Aを破門した[76]。
2016年2月半ば、Aは衆議院議長公邸を訪れ、衆議院議長の大島理森に宛てた手紙を職員に手渡した[77]。この手紙には、犯行予告とも取れる文言があり[77]、同施設と、同県厚木市内の障害者施設の2施設が[78]、標的として名指しされるとともに[79][80]、「職員の少ない夜勤に決行」、「職員には致命傷を負わせず、結束バンドで拘束して身動きや外部との連絡を取れなくする」、「2つの園260名を抹殺した後は自首する」など、具体的な手口が記されていた[77]。そして、「作戦を実行するに私からはいくつかのご要望がございます」として、「逮捕後の監禁は最長で2年までとし、その後は自由な人生を送らせる」「心神喪失による無罪」、「新しい名前(伊黒崇)や本籍、運転免許証など、生活に必要な書類の発行」、「美容整形による一般社会への擬態」、「金銭的支援5億円」といった条件を、国から確約してほしいという旨の記述があり、その上で「ご決断頂ければ、いつでも作戦を実行致します。日本国と世界平和の為に、何卒よろしくお願い致します」と綴られていた[77]。
また、供述によれば、Aは同年2月に安倍晋三首相宛の手紙を自由民主党本部にも持参していた[81]。
事件を受けて7月26日、衆議院事務総長・向大野新治が記者会見し[77]、手紙を受け取った経緯などを説明した[82]。それによると、Aは2月14日午後3時25分頃に議長公邸を訪れ、書簡を渡したいと申し出たが受け入れられず、土下座をするなどしたため、警備の警察官が職務質問したところ、そのまま立ち去った[82]。その後、男性は翌日午前10時20分頃に再訪し[82]、正門前に座り込むなどしたため[83]、衆議院側で対応を協議して、午後0時半頃に手紙を受け取ると、ようやくその場を立ち去った[82]。手紙に犯罪を予告するような内容があったため、衆議院の事務局が警察に通報し、手紙を提出[82]。向大野は「すぐに大島議長の指示をあおいで警察に連絡しており、適切な対応だったと考えている」と述べた[82]。この手紙について、警視庁は同15日中に津久井署に情報を提供した[79]。
複数の知人によると、Aは2月17日、「聴いて下さい!!話は障害者の命のあり方です」から始まるメッセージを、LINEで同級生らに一斉に送信し「彼らを生かすために莫大な費用がかかっています」「ご意見をお聞かせ下さい」などと自説を展開した[84]。その後Aは同級生らに直接電話を掛けて犯行計画を打ち明け「俺だって殺したくないけど、誰かがやらないといけない」「職員を結束バンドで縛るから取らないように見張ってくれ」などと独自の理論を展開し、犯行に協力するよう勧誘したという[84]。同級生らはその都度、Aに対し計画を取りやめるよう説得を試みたが、反論した友人に対しAは「じゃあ、お前を殺してからやる」と言い放ったという[84]。一部同級生は「ふざけるな」と言ってAを殴るなどしてまで中止を迫ったが、Aは聞く耳を持たず、実際に実行すると思わなかったこともあり、そのうち知人らは「あまり他の人に言うな」と反応するしかなくなったという[84]。
2月18日には、Aが勤務中に同施設職員に対し、重度の障害者について「安楽死」を容認する発言をし、施設側から「ナチス・ドイツの考えと同じだ」と批判されたが[85][86]、その主張を変えなかったことから[注釈 4]、翌19日に同施設が警察に通報し、これに対応した津久井警察署はAが「他人を傷つけるおそれがある」と判断して相模原市長に対して精神保健福祉法23条に基づき通報を行った[91]。同市は、措置診察を行う事を決め、1人の精神保健指定医が「入院の必要がある」と診断したため[91]、精神保健福祉法に基づいて北里大学東病院へ緊急措置入院を決定した[83]。Aは同日、勤めていた同施設を「自己都合」により退職した[25]。さらに、翌20日には尿から大麻の陽性反応が見られ[91]、22日に別の2人の精神保健指定医の診察を受けたところ、指定医の1人は「大麻精神病」「非社会性パーソナリティー障害」、もう1人は「妄想性障害」「薬物性精神病性障害」と診断[92]。市は同日、Aを正式な措置入院とした[83]。指定医は「症状の改善が優先」などとして警察には通報せず、市は3月2日、医師が「他人に危害を加える恐れがなくなった」と診断したため、Aを退院させた[83]。同級生の男性曰く、この頃にAの自宅にA自身が執筆した「ニュー・ジャパン・オーダー(新日本秩序)」と題した計画書のような文書があり、内容は障害者殺害の他「医療大麻の解禁」「暴力団を日本の軍隊として採用」などの計画だったという[4]。男性曰く「この頃スーツを着て『革命軍っぽくない?』と話すなど、革命という言葉を繰り返し使っていた」という[4]。
Aは犯行前日の7月25日未明に相模原市内で知人男性2人と会い、うち1人から「自分が狙われている」と感じ、前述のように10月1日に予定していた襲撃日の前倒しを決意した[5]。2人と別れた後、バスなどで京王線の駅に向かい、始発電車で新宿駅に向かった[5]。同日午前新宿の漫画喫茶で仮眠を取り、昼頃に相模原市内のファストフード店に車を放置したとして母親を通じ津久井署から呼び出しを受け、電車で相模原市に戻った[5][52]。Aは車を引き取った後、自宅から包丁などを持ち出し[5]、東京都内のホームセンターでハンマーや結束バンドなどを購入して犯行の準備をした[5][52]。その後Aは車で再び都内へ向かい、新宿のホテルの一室を借りて室内で頭髪を金色に染めた[5]。午後9時ごろにAは好意を寄せていた知人女性と待ち合わせて高級焼肉店で食事し、その際に女性に障害者襲撃計画を話した[5][6][4]。「世界のために障害者を抹殺するという考えを認めてほしかった」といい、女性から反対されたが、偏った考えを変えることはなく、食事を終えた後都内のホテルに滞在してから相模原市に戻り、翌26日午前1時頃にホテルを出て車で「津久井やまゆり園」に向かい、2時頃に園内に侵入して凶行に及んだ[5][4]。
凶行に及んだ直後、警察に出頭する直前の午前2時50分にAはTwitterに「世界が平和になりますように。beautiful Japan!!!!!!」という内容のツイートを[6][4][93][25]、赤いネクタイに白いYシャツ、黒いスーツ姿で口を半開きにし、少し固い笑みを浮かべて正面を向いた自撮り写真を添付してTwitterに投稿していた[94]。Twitterは2014年11月に開始したが、投稿は意味不明なものや幼稚なものが多く[95]、Twitterアカウントのプロフィールページのヘッダー画像には「マリファナは危険ではない」と書かれた画像が使用されていた[93]。Aは車で出頭する途中、コンビニエンスストアに立ち寄ってトイレを利用し、そこで手や腕に付着した血を洗った後、千円札で菓子パンを購入していた[27]"。コンビニの防犯カメラの画像などから、犯行時と出頭時は同じズボンとシャツを着用しており、服には血も付いていたという[27]。
Aは逮捕後の26日夜、取り調べの中で「突然のお別れをさせるようになってしまって遺族の方には心から謝罪したい」と遺族への謝罪の言葉を口にしたが[16]、一方で被害者への謝罪は行っておらず、障害者に対する強い偏見を表す形となった[16]。Aは麻薬と覚醒剤の尿検査には応じたが、大麻使用の尿検査を拒否したため[16]、強制採尿した結果[96]、大麻の陽性反応が出た[90]。
神奈川県警が27日にA宅を家宅捜索した結果[97]、微量の植物片が見つかり[98]、分析により大麻であることが確認された[99][100]。
さらにAは、障害者を「税金の無駄」と揶揄する一方で[101]、自らは事件前、3月24日から31日の8日間にかけ、生活保護を受給し、それを遊興費として浪費していた、数百万円の借金があったという報道もなされている[39][102][103][104][105]。Aは3月24日に福祉事務所の窓口を訪れ「親族の援助もなく、1人で暮らしている」「預貯金が底をついてしまった。働いていないので生活できない」と訴え、これを受けて相模原市はこの時点でAに収入がないことなどを確認して生活保護費用を4月3日に給付した[102]。給付分は3月24日から31日までの日割り分と4月分だったが、4月下旬に雇用保険が支払われたことを確認したため4月分は返還されたという[102]。
逮捕後、取り調べでAは「今の日本の法律では、人を殺したら刑罰を受けなければならないのは分かっている」と供述する一方で、「権力者に守られているので、自分は死刑にはならない」という趣旨の発言もしている[106][注釈 5]。また、「事件を起こした自分に社会が賛同するはずだった」という趣旨の供述もしている[108][109]。
捜査関係者によると、Aは「障害者の安楽死を国が認めてくれないので、自分がやるしかないと思った」と供述し、こうした偏見に至った背景について、中学時代に障害を持つ同級生と関わったことや、園で働いた経験などを挙げ「障害があって家族や周囲も不幸だと思った。事件を起こしたのは不幸を減らすため。同じように考える人もいるはずだが、自分のようには実行できない」とした[40][109]。その上で「殺害した自分は救世主だ」「(犯行は)日本のため」などと供述している[40][109]。
起訴された2017年2月24日現在も、Aは「障害者は不幸しか作れない。いない方がいい」などと差別的な主張を続けているという[7]。Aは2月27日、拘留中の津久井署で『中日新聞』記者と接見した際に「遺族の皆さまを悲しみと怒りで傷つけてしまったことを深くおわび申し上げます」と述べる一方、自らが殺傷した被害者そのものに向けた言葉はなく、障害者への差別思想の根強さをうかがわせた[110]。
またAは、7月20日までに、手紙を通じて時事通信社・『東京新聞』(中日新聞社)の複数回の取材に応じたが、重度・重複障害者を「人の幸せを奪い、不幸をばらまく存在」だと主張し、その上で「面倒な世話に追われる人はたくさんいる」「命を無条件で救うことが人の幸せを増やすとは考えられない」として、重度障害者の殺害を正当化する考えは事件前と変化していなかった[111][112]。Aは「私の考える『意思疎通がとれる』とは、正確に自己紹介をすることができる人間」と定義した上で、「意思疎通がとれない重度・重複障害者は安楽死の対象にすべきだ」「私の考えるおおまかな幸せとは『お金』と『時間』」「重度・重複障害者を育てることが、莫大なお金と時間を失うことにつながります」と主張した[112]。殺害を思い立ったきっかけとして[111]、ニュースで報じられたアメリカ合衆国大統領就任前のドナルド・トランプが「世界には不幸な人たちがたくさんいる」と述べた演説を聞いたことで[111][112]、「真実を話していると強く思いました」と記し[111][112]、また過激派組織ISILの活動についても、殺害のきっかけの一つに挙げた[111][112]。一方で事件前に措置入院した当時、ナチス・ドイツの優生思想を肯定していたとされる点について、手紙では「やまゆり園の職員に障害者差別の考えを話した際に『ヒトラーと同じだ』と指摘されて初めて知った」と説明した[112]。横浜拘置支所での勾留生活についても言及し[112]、「息の詰まる生活に嫌気がさす」「時折外の生活を恋しく思う」と述べ[111]、食事への不満にも触れた[111]。
事件発生から約1年半が経過した2018年1月、Aは横浜拘置支所で、時事通信社記者との接見取材に応じた[113][78]。Aは、「事件当日、津久井やまゆり園を襲撃した後、犯行予告状で名前を挙げた、同県厚木市の障害者施設を襲うつもりだった。しかし、やまゆり園で職員に逃げられ、拘束に失敗したため、警察に通報されると思った上、やまゆり園だけでも結構な人数の殺傷行為ができたため、断念した」と語った[78][113]。横浜地検が起訴前に行った、1度目の精神鑑定の結果について、Aは「自分は質疑応答できるので、責任能力はある」と言及した上で、今後の刑事裁判では[113]、「私が殺したのは人ではない」として[78]、殺害行為の正当性を主張したいことを話した[78][113]。その上でAは、この時点でも「意思疎通できない人は安楽死させるべきだ」と、重度障害者を殺傷した犯行の正当化を続けた[78]。しかし、時事通信社記者から「刃物で刺す行為は安楽死ではない」と指摘されると、「申し訳ない。他に(殺害)方法が思いつかなかった」と、初めて被害者に対する謝罪の言葉を口にした[78]。そして、裁判で死刑判決を受ける可能性が高いことについて[113]、Aは顔を歪めつつ、「(死刑判決なら)『ばか言ってんじゃねえ』と言ってやる」、「僕の中では、懲役20年くらいかな」と語った[78]。
社会への影響[編集]
措置入院制度の見直し議論と断念[編集]
- 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律による措置入院のあり方について、解除の判断や解除後の支援体制、警察・関係団体との連携などが十分でなかったとの指摘が出ていることから、日本国政府は再発防止に向けて措置入院の制度や運用が適切であったか再検証し、必要な対策を検討することを厚生労働大臣塩崎恭久が指示した[114][115]。
- 2016年9月14日に公表された厚生労働省の中間報告[116]において、Aを措置入院させた北里大学東病院と相模原市が、本来は退院後に必要なケアや復帰プログラムなどを検討しないまま、退院させていたことが明らかとなった[117]。また、措置入院させた北里大学東病院内には、薬物使用に詳しい専門の医師がおらず、外部に意見を求めることもなかったため、以後の薬物依存を防ぐ手立てが何一つなされていなかったことも指摘された[117]。さらに、他の精神障害の可能性や心理状態の変化、生活環境の調査や心理検査が行われなかったことも問題とされた[117]。措置入院解除の時に必要な届け出に2点の不備があり、病院とAの両親との間で理解に食い違いがあり、「同居を前提とした」措置入院解除であったにもかかわらず、Aは実際には一人暮らしとなった[117]。届書に空白欄があったにもかかわらず、相模原市がその空白欄を追及しなかったため、精神保健福祉法で定められている「精神障害者の支援」の対象とならなかった点について、報告書は「相模原市の対応は不十分であった」と結論付けた[117]。
- 2016年12月8日、厚生労働省の有識者検討会は最終報告書を発表し、措置入院後に「退院後支援計画」を義務づけることを表明した[118]。
- 2017年2月14日、障害者団体が保安処分や「患者の監視強化につながる」として反対する中、厚生労働省が相模原障害者施設殺傷事件を受け「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律改正案」が第193回国会に提出され、参議院厚生労働委員会で審議されるも、措置入院退院後に警察も関与する「退院後支援計画」などを巡って議論が紛糾[119]、参議院で改正案が成立するも衆議院で会期内に成立せず、継続審議ののち、9月28日に第194回国会の冒頭で、衆議院解散により廃案となった[120]。
- 2018年、第196回国会で第193回国会で廃案となった精神保健福祉法改正案の国会提出を、3月9日に断念することを固めた。障害者団体や野党の反対が根強く、働き方改革関連法案の審議にも影響しかねず、後任の加藤勝信厚生労働大臣も慎重姿勢のままであり、次回以降も同じ内容の法案を厚生労働省は提出しない考え[121]。
「やまゆり園」のその後[編集]
施設の建て替え[編集]
- 2016年9月13日、神奈川県知事の黒岩祐治は、施設を管理していた社会福祉法人「かながわ共同会」の要望を受け、施設をすべて建て替えることを表明した(犯行現場となった居室などが使用できなくなったため、一時は30人以上が体育館で過ごすなどの状態に置かれていた。その後、県内の他施設に移ったり自宅に帰ったりして、9月12日現在で約60人が園で生活している)[122]。11月16日には地元の公民館で県の説明会が開かれ、「60億円から80億円で翌2017年度から4年間かけて施設を全面的に建て替える。その間入所者は横浜市内の県立施設へ仮居住などするために全員が施設を離れる」などの説明が県からなされ、住民からは「絶対忘れてはいけない事件。亡くなった方の名前も入れた、誰でも慰霊できる碑を造るべきだ」「基本構想の作成に障害者も加えるべきだ」「防災拠点にもしてほしい」などの意見が出た[123]。仮移転先は横浜市港南区にある知的障害児施設「ひばりが丘学園」で、2017年3月に閉鎖し入所者が県内の新しい施設に移るこの施設を再利用する(移動は4月以降を想定し、園に残る約60人と別の施設に移った約30人も一緒に「ひばりが丘学園」に移る方向で調整している)[124]。
- 2017年4月5日から21日にかけて、事件後も「津久井やまゆり園」で生活していた入所者約60人が「ひばりが丘学園」に転居し、「津久井やまゆり園芹が谷園舎」への仮移転が行われた[125][126]。「やまゆり園」は今月限りで閉鎖され、4年後の2021年の完成を目指して建て替え工事が行われる予定であるが[125][127]、同じ場所で建て替えられるかどうかは不透明な状況だという[128]。
- 2017年4月27日に横浜市中区で5人の委員と県の担当者が出席した「津久井やまゆり園の再建の在り方を検討する部会」の会合が開かれ、意見の集約に向けた議論が行われた。委員からは「複数の小さな施設に入所者を分散することが望ましい」という趣旨の意見が相次ぎ、部会として「入所者を地域生活に移行させるためには、これまでと同様の大規模な施設は前提としない」とする提言を、県に6月に提出する方針が決まった一方、神奈川県の担当者は「小規模な施設を複数つくることは、土地の確保の面から難しい」と述べた[129]。
批判[編集]
- 神奈川県内の障害者団体や有識者らが、障害者総合支援法(2005年成立)が障害者の地域社会での生活の支援を謳っていることを理由に、「大規模収容施設は、時代の逆行以外の何物でもない」と反発している[130]。
被害者職員らの労働災害認定[編集]
2017年2月、事件当日に施設で当直勤務し、事件を目の当たりにした女性職員3人が、心的外傷後ストレス障害(PTSD)により一時期出勤できなくなったとして、相模原労働基準監督署から労働災害の認定を受け[131]、他2人も労災を申請した[132]。その後、5人全員が4月14日までに労災を認定された[133]。2月3日に記者会見した園長によると、事件による退職者や休職者はいないものの、職員の一部は事件の影響で制限勤務を続けているという[134]。
差別[編集]
共同通信社が事件から1年となるのを機に全国の知的障害者の家族を対象にしたアンケートでは、回答した304家族の68%が「事件後、障害者を取り巻く環境悪化を感じた経験がある」と答えた。また、同社が具体的な経験を複数回答で尋ねた結果、「インターネット等匿名の世界での中傷」が31%、「利用している施設・職員への不安」(Aが津久井やまゆり園の元職員だったことから)が28%、「精神障害者への偏見」(Aに措置入院歴があることから)が23%、「差別を恐れ障害のことを口にしづらくなった」が4%、「本人や家族が直接、差別的な言動を受けた」が2%だった。アンケート結果について、識者からは「生きる価値は障害者も健常者も変わらないことを社会は理解すべきだ」との声が出ている[135]。
反応[編集]
日本国内[編集]
政府など[編集]
- 内閣総理大臣・安倍晋三は事件に対し「心からご冥福とお見舞いを申し上げる。真相解明に政府も全力を挙げたい」と述べた。また、官房長官の菅義偉は「関係省庁と協力して再発防止策の検討を早急に行いたい」と記者会見上で述べた[136]。
- 神奈川県知事の黒岩祐治は、7月26日午前10時から神奈川県庁で保健福祉局幹部とともに記者会見し、「被害に遭われた方やご家族におかれては、あまりに突然のことでお慰めの言葉もない。県も指導・監督する立場として心からおわび申し上げる。今後被害者支援をできる限り行うと同時に警察の捜査に全面的に協力し、再発防止に全力を尽くす」と謝罪した[137]。
- 神奈川県議会は2016年9月8日、「県立津久井やまゆり園で発生した事件の再発防止と共生社会の実現を目指す決議」を全会一致で可決した。同年10月14日、神奈川県は「ともに生きる社会かながわ憲章」を制定した[138]。
- 相模原市長の加山俊夫は「犯行の動機などその背景は明らかでありませんが、このような悲惨な事件が本市で起きましたことは心痛に耐えません。障害を抱え、体が不自由な方々を標的にした、許されざる行為に対し、強い憤りを感じております」と事件を非難し、その上で犠牲者へのお悔やみと負傷者へのお見舞いのコメントを寄せた[139]。
- 自民党の元参院副議長・山東昭子は、犯罪予告やほのめかした人物、再犯の恐れのある性犯罪者などに対して、GPSを埋め込むようなことも含めた議論をすべきとの考えを示した[140][141][142]。
メディア[編集]
- 『沖縄タイムス』の7月27日の社説では、Aの事件前の言動と行政の対応に言及した上で、“今回の事件は障がい者を標的にした犯罪「ヘイトクライム」である。”と述べている[143]。
- 『中国新聞』の7月27日の社説では、犯行を強く非難した上で、“本人の生い立ちや人間関係はもとより事件に潜む社会的な病巣はないのか”と問いかけ、また障害者施設を含めた福祉施設の防犯対策を検討する必要があると指摘している[151]。
- 『中日新聞』は7月27日の社説で、Aの事件前の言動に言及した上で、批判の矛先が行政や病院、警察に安易に向けられることについて、“そうした批判は、ともすると地域で暮らす精神障害者への差別や偏見を助長しかねない”と懸念を示した[152]。
- 『毎日新聞』は7月27日の社説で、犯行の動機について“軽々に判断すべきではない”と述べ、また事件のあった施設の防犯体制に言及して「障害者施設の運営上の課題を十分に点検すべきだ」と指摘した[153]。
- 『毎日新聞』は7月28日、『東京新聞』は7月30日、肉体的生命を奪う「生物学的殺人」と同時に、人間の尊厳や生存の意味そのものを、優生思想によって抹殺する「実存的殺人」という「殺人の二重性」があるとの福島智の指摘を、それぞれ掲載した[154][148]。
- 『西日本新聞』は7月29日の朝刊オピニオンで「ナチス・ドイツはユダヤ人の大虐殺だけでなく、「T4計画」と呼ばれる非人道的な計画も実行した…」という題で、ナチスが7万人の障害者を、ユダヤ人と同じようにガス室で殺害した例をあげ「ヘイトスピーチが横行する社会に、亡霊を呼び寄せる黒い感情が満ちてはいまいか」と警鐘を鳴らした[155]。
- リテラは本事件について、「障がい者大量殺害、相模原事件の容疑者はネトウヨ? 安倍首相、百田尚樹、橋下徹、ケント・ギルバートらをフォロー」と題した記事で、Aがツイッターでフォローしていたのは、いわゆる「ネトウヨが好みそうな極右政治家、文化人がずらりと並んでいる」と報じた[156]。これに対し、『産経新聞』オピニオンiRONNA編集部の白岩賢太編集長は、「Aの一方的な偏見と、国内外で広がりをみせる愛国思想や保守主義を同等に論じるメディアや識者がいる」として「犯人の誇大妄想と右翼思想を無理やり関連づけ」たとして「強い嫌悪感を覚える」と批判した[157]。
- 『産経新聞』論説委員鹿島孝一は、今回の事件を受けて、人権派から「予防拘禁だ」「権力が乱用する恐れがある」として反対している「保安処分」を制度化するしかないのではないかと主張している[158]。
- 『日本文化チャンネル桜』社長水島総は、Aと在日特権を許さない市民の会などの団体の思想の共通点を取り上げ、「日本人の発想ではない」と批判している[150]。
その他[編集]
- 知的障害者と家族で作る「全国手をつなぐ育成会連合会」をはじめ[159]、多くの障害者団体が、Aが書いた障害者を侮蔑する内容の文言に対し、緊急の声明や障害者に向けた文章を発表した[160]。
- 弁護士の師岡康子は、共同通信のインタビューに答え、Aが障害者を同じ人間として認めず、強い偏見や差別意識をもっていたとし、「特定の集団や個人を標的とする、罪「ヘイトクライム」といえる」とし障害者差別解消法が2016年4月に施行されたことを指摘して、「日本でもヘイトクライムを決して許さない取り組みが必要だ」との意見を述べた[161]。
- 作家の石原慎太郎は「この間の、障害者を十九人殺した相模原の事件。あれは僕、ある意味で分かるんですよ」とAの行為に理解を示した[162]。
- 川崎市中原区にある障害者施設の施設長は、「障害者を排除するという被告の極端な考え方は、施設で働いていたからこそエスカレートしたのではないか」と問題を提起した。職員が障害者を主従関係で扱っているようになれば、「他の施設でも起きないとは限らない」という。事件の背景には「社会に潜在する障害者への差別意識」があり、もともと社会からの風当たりが強い障害者施設で、さらに職員による障害者の管理が厳しくなれば、「みんな障害者を邪魔に思っているんだ。差別して何が悪いんだ」という虐待の温床になりかねないと、障害者施設のあり方を問題視している[163]。
- 事件後、神奈川県警には「いつAに面会できますか?」という問い合わせが相次ぎ、その中には「労いの言葉をかけたい」「応援してるので、差し入れしたい」などの内容もあった[164]。また、Twitterなどのインターネット上では「よくやった」「遺族は自分で面倒見きれないから、金を払って施設に押し付けてたんだろ。殺してくれたAに感謝すべき」「人に危害を加える重度障害者に、人権なんて与えなくていい。犯人はよくやったと思う」「Aはぶっちゃけ、障害者という税金食い潰すだけのやつらを殺処分した英雄」などのようにAの残虐な犯行を賞賛・支持したり、Aを英雄視するコメントが相次いだ[164]。
- 津久井やまゆり園の元職員で、専修大学講師(社会思想史)の西角純志は拘置所にいる被告Aと面会を続けている。西角はやまゆり園の職員として2001~2005年の間、亡くなった19人のうち7人の生活支援を担当していた。津久井やまゆり園の事件の背景には、被告自身の優生思想やヘイトクライム(憎悪犯罪)があるなどと言われているが、西角は面会を通して、被告Aが優生思想もヘイトクライムという言葉も、ナチスが障害者らを大量殺害した「T4作戦」も知らなかったことがわかり、事件後の報道や差し入れられた本などで知識をつけ、結果的にそれを自ら犯した殺人を正当化するのに利用しているのだと感じたと述べている[165]。
国際社会の反応[編集]
- アメリカのホワイトハウスは「障害者施設で事件が起きたことに強い嫌悪感を感じる」という主旨の声明を発表している[166][167]。
- アメリカ国務長官のジョン・ケリーは「テロリズムの一種」と批難、「つらい時を過ごす人達を想って祈りを捧げたい」と弔意を表した[168]。
- ロシア大統領のウラジーミル・プーチンは「無防備な障害者に対する犯罪は、その残忍さと冷徹さで衝撃を与えた」と弔電を出している[168]。
- ローマ教皇フランシスコは事件で人命が失われたことに「悲嘆」を表明し、「困難な時における癒し」を祈願した[136]。
派生した事件・犯罪[編集]
事件発生後、これに関連・便乗した事件が発生した。
- 2016年7月29日、横浜市の障害者就労支援施設を破壊するとの予告メールを送った無職の男が神奈川県警に威力業務妨害容疑で逮捕された[169]。
- 同年10月13日、水戸市の介護施設でこの事件を想起させる脅迫文がばらまかれた。茨城県警察は威力業務妨害の疑いで捜査を開始した[170]。
- 同年11月10日、津山市の障害者支援施設へ脅迫電話がかけられた。翌日、岡山県の無職の男が威力業務妨害容疑で岡山県警察に逮捕された[171]。
関連書籍[編集]
- 保坂展人『相模原事件とヘイトクライム』岩波ブックレット、2016年11月3日。モジュール:Citation/CS1/styles.cssページに内容がありません。ISBN 978-4002709598。
- 立岩真也、杉田俊介『相模原障害者殺傷事件-優生思想とヘイトクライム』青土社、2016年12月20日。モジュール:Citation/CS1/styles.cssページに内容がありません。ISBN 978-4791769650。
- 藤井克徳、池上洋通、石川満、井上英夫『生きたかった 相模原障害者殺傷事件が問いかけるもの』大月書店、2016年12月27日。モジュール:Citation/CS1/styles.cssページに内容がありません。ISBN 978-4272360888。
- 『朝日新聞』取材班『妄信 相模原障害者殺傷事件』朝日新聞社、2017年6月20日。モジュール:Citation/CS1/styles.cssページに内容がありません。ISBN 978-4022514776。
脚注[編集]
注釈[編集]
- ↑ 組織テロのオウム真理教事件・連合赤軍事件を除く。この事件が発生するまでは2008年(平成20年)に発生した大阪個室ビデオ店放火事件の16人が最多であった[10]。2001年(平成13年)に発生した歌舞伎町ビル火災(未解決事件)は44人の犠牲者を出しており、放火の可能性が疑われているが、火災原因が確定していないため、殺人事件からは除外されている[10]。
- ↑ 殺害人数19人は、連合赤軍事件(坂口弘が関与し死刑判決を受けている)の17人(山岳ベース事件の12人とあさま山荘事件の3人、これに加えて連合赤軍結成前の母体組織の1つである日本共産党(革命左派)神奈川県委員会による印旛沼事件の犠牲者2人の合計17名)を上回る。ただし、連合赤軍事件の被害者17名は、複数の事件による被害者の数の累計であるため、単独の事件・同日の犯行である本事件とは、性質が異なる。また戦前には、本事件を上回る犠牲者数の事件として、1938年(昭和13年)、岡山県苫田郡西加茂村大字行重(現・津山市加茂町行重)発生し、30人が殺害された津山事件があった。
- ↑ 神奈川県警は当初、110番通報の時間を午前2時45分と発表していたが[1]、38分に訂正した[14]。
- ↑ 入院中に、Aが『ヒトラーの思想が2週間前に降りてきた』と話していたとする証言もあるが[86][87][88]、障害者に対する差別思想について「ヒトラーと似ていることは施設側に言われて気付いたので、措置入院中に言ってみただけ」と供述しており[86][87][89]、また家宅捜索ではナチス・ドイツ関連の資料は見つかっておらず、関連性は薄いとみられている[90][89]。
- ↑ 実際、弁護士の山口宏は「精神科医が責任能力の有無を判断し、裁判官が量刑を決める。過去の事件の判決のように、おかしな結末になることも否定できません」とし、また新宿西口バス放火事件の判例を挙げて「普通だったら死刑になりますが、無期懲役もあり得ます」としている[107]。
出典[編集]
以下の出典において、記事名に被告人の実名が使われている場合、この箇所をAとする。また時刻は日本標準時とする。
- ↑ 1.00 1.01 1.02 1.03 1.04 1.05 1.06 1.07 1.08 1.09 1.10 1.11 “相模原殺傷:障害者施設で19人刺され死亡 26歳男逮捕”. 毎日新聞 (毎日新聞社). (2016年7月26日). オリジナルの2016年7月26日時点におけるアーカイブ。
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“【相模原殺傷1カ月(5)】犯行前日に女性とともに食べた高級焼き肉は「最後の晩餐」だったか? A容疑者「革命計画書」を執筆、準備(2/2ページ)”. 産経新聞 (産業経済新聞社). (2016年8月26日). オリジナルの2017年6月23日時点におけるアーカイブ。 2017年6月23日閲覧。
“【相模原殺傷1カ月(5)】犯行前日に女性とともに食べた高級焼き肉は「最後の晩餐」だったか? A容疑者「革命計画書」を執筆、準備(添付画像)”. 産経新聞 (産業経済新聞社). (2016年8月26日). オリジナルの2017年6月23日時点におけるアーカイブ。 2017年6月23日閲覧。 - ↑ 5.00 5.01 5.02 5.03 5.04 5.05 5.06 5.07 5.08 5.09 5.10 5.11 5.12 “相模原殺傷、元職員を殺人罪などで起訴”. 読売新聞 (読売新聞社). (2017年2月24日). オリジナルの2017年2月25日時点におけるアーカイブ。 2017年2月25日閲覧。
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関連項目[編集]
関連リンク[編集]
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