京王線刺傷事件
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京王線刺傷事件 | |
---|---|
列車が緊急停車した国領駅のホーム(2012年) | |
場所 |
日本 東京都調布市 京王線の特急列車内 |
標的 | 乗客 |
日付 |
2021年(令和3年)10月31日 20時頃 |
概要 | 京王線の特急京王線新宿行電車内で発生した事件 |
原因 | 犯人の死刑志願による無差別刺傷 |
攻撃手段 | 刃物を持った男が乗客を刺した上、ライター用のオイルを撒いて放火 |
攻撃側人数 | 1人 |
死亡者 | 0人 |
負傷者 | 18人 |
被害者 | 70代の男性 その他乗客 |
損害 | シート、床材の一部が焼ける |
犯人 | 当時24歳の男 |
容疑 |
殺人未遂罪 現住建造物等放火罪 銃刀法違反 |
動機 | 仕事で失敗し、死刑になりたかった |
対処 | 列車は国領駅に緊急停車し、乗客が避難 |
刑事訴訟 | 懲役23年(確定) |
影響 | 京王線が運転見合わせ |
管轄 |
警視庁調布警察署 東京地方検察庁立川支部 |
京王線刺傷事件(けいおうせんししょうじけん)は、2021年(令和3年)10月31日に東京都調布市を走行中の京王電鉄京王線車内で発生した殺人未遂事件。
概要[編集]
2021年10月31日20時頃、東京都調布市を走行中の特急列車の車内で、乗客の24歳の男が刃物で他の乗客を切りつけた上、液体を撒いて放火し、18人が重軽傷を負った。刺された1名は、一時意識不明の重体に陥ったがのちに回復した[1]。16名は、火災による煙を吸って喉の痛みを訴えた[2]。その後、1名が負傷者に追加された。犯人の男は殺人未遂で警視庁に現行犯逮捕された[3][4]。
男は、2021年8月6日に発生した小田急線刺傷事件を参考にしたと供述している[5]。これら一連の事件を受け、国土交通省は鉄道事業者に対し、新規の全車両において防犯カメラの設置を義務付け、既存の車両についても追加で設置することを推奨する方針を固めた[6]。
事件状況[編集]
事件が発生した京王八王子発新宿行特急0082列車(京王8000系電車8705編成・10両)の3号車(8205号車)に、男は調布駅から乗車した[7]。19時54分に電車が調布駅を発車した直後、男は3号車に乗車していた72歳の乗客の男性の目に殺虫剤を噴きかけ、右胸をバッグに隠し持っていた刃渡り約30センチの刃物で刺した[8][9]。
電車が布田駅を通過した後の19時56分頃、乗客によって車内非常通報装置を通じて通報が行われた。しかし、車掌が通話機能を通じて乗客に応答を求めるも聞き取れず、状況を把握することができなかった[8][10][11]。男はその後、車両前方の5号車(8505号車)へ移動し、所持していた複数の2リットルペットボトル容器に入れられたライター用のオイルを撒いてライターで着火し、さらに殺虫剤スプレーにも引火させた[7][12][13]。この火災によって車内で火災を感知する装置が作動し、座席が燃えた[8]。電車は国領駅で緊急停車したが車両のドアとホームドアが開かなかったため、乗客が窓を開けホームドアを乗り越えて避難する事態となった[8][10][11]。なお、後の国交省などとの緊急会議の中で、本事件で車掌がドアを開放しなかったことについて京王電鉄の担当者は、「窓から避難中の乗客がホームドアに足を掛けるなどしており、開けるのが危険な状況だった」と説明した。また、自社の規定に照らして「やむを得ない判断だった」との見解を示した[14]。
なお、一時の報道では塩酸のような液体が撒かれたとの情報が出たが[15][16]、警視庁は「そうした事実は確認していない」と答えている[17][18]。
警視庁は殺人未遂の現行犯で男を逮捕し、調布警察署に捜査本部を設置した[5]。男は警察の調べに対し「小田急線の刺傷事件を参考にした。小田急線の事件ではサラダ油で火が着かなかったので、ライターオイルを使った」などと供述した[5]。2021年11月22日、警視庁は女性ら複数の乗客にオイルをまいた上、火をつけたとして殺人未遂と現住建造物等放火容疑で男を再逮捕した[19]。
2022年3月11日、東京地検立川支部は男を殺人未遂・銃刀法違反・現住建造物等放火の罪で起訴した[20]。2023年7月31日、東京地方裁判所立川支部は被告の男に懲役23年(求刑25年)の判決を言い渡した。刺された乗客以外の放火による乗客12人への殺人未遂罪について、うち10人については同罪が成立すると判断し、残る2人は当時の車両内での位置関係などから成立を認めなかった[21]。その後、控訴期限の8月14日までに被告人側、検察側の双方が控訴しなかったため、判決が確定した[22]。
消防機関の対応[編集]
事件についての通報を受け、管轄する東京消防庁は20時01分に本件を覚知。上述の放火によって発生した火災は、20時49分に鎮圧。21時40分までに鎮火を確認した。化学機動中隊などの特殊部隊を含め45隊が出場し、活動を展開した[3]。総務省消防庁では、同日、国民保護・防災部長を長とする消防庁災害対策本部を設置(第2次応急体制)して情報収集を開始した。
列車運行への影響[編集]
事件発生直後から、井の頭線を除く京王線・高尾線・相模原線の全線で運転を見合わせ、「京王ライナー」は全列車の運休を決定、直通運転先の都営新宿線も終日直通運転を中止した。その後、運転見合わせ区間は京王線の飛田給駅 - つつじヶ丘駅間・相模原線の調布駅 - 若葉台駅間に縮小されたが、約5時間に渡って一部区間で運転見合わせの状態が続いた。全線での運転再開は、翌11月1日の1時18分となった[23]。なお、1日は早朝の初電から全線で通常通りの運行となった[24]。
模倣した事件[編集]
2021年11月8日、京王線での事件を模倣した放火未遂事件が九州新幹線で発生した[25][26]。11月8日午前9時前、熊本駅と新八代駅の間を走行中の九州新幹線下り「さくら401号」3号車の車内で、乗客の69歳の男がオイルを床に撒き、紙にライターで着火し床に置いたが、火は燃え広がらずすぐに消えた。車内で非常ベルが鳴らされたため列車はただちに緊急停車し、火災発生を知らせるアナウンスが行われた後に新八代駅まで移動し、男は放火未遂の現行犯で逮捕された[25][26][27]。この事件による負傷者はなかった[25]。男は熊本県警察の調べに対し「京王線のニュースを見て真似しようと思った」と供述した[25][26]。同年11月29日に威力業務妨害で起訴され、2022年5月24日に熊本地方裁判所は被告人の男に対し懲役2年6か月・執行猶予4年(保護観察付き)の有罪判決を下した[28]。
事件の余波・対策[編集]
国土交通省は2021年11月2日に、JR各社や大手私鉄の安全統括管理者との緊急会議をオンラインで開催し、再発防止対策を話し合った。会議では「車内で複数の非常通報装置が作動した場合は、通話なしでも最寄り駅などで停車する」「列車のドアとホームドアの位置にずれがあっても、緊急時はドアを開けて乗客の避難誘導をする」ことなどの原則が示された[29][14]。
警備の強化[編集]
本事件を受けて京王電鉄は、「京王ライナー」で警備員1人を配置して、巡回に当たることとした。また、小田急電鉄やJR東日本、ゆりかもめなどでは防刃手袋や盾の車内配備を急ぐこととし、社員や警備会社の警備員による警戒強化に取り組むことが明らかにされた。手荷物検査の導入も検討されたが、乗車までに時間がかかってしまうことから見送られた[30]。
また犯人がハロウィンの夜に仮装をして起こした事件であったことを踏まえ、翌年10月にコスプレ乗車を控えるよう乗客に求めた[31]。
また、京成電鉄についても事件が相次いでいることを鑑みて、テロ対策も兼ねる形で特急「スカイライナー」「モーニング・イブニングライナー」に警備員を常備することを決定、人件費確保のためライナー券の料金が1250円から1300円に値上がりした[32]。
非貫通編成の廃止[編集]
京王電鉄は非貫通編成を2026年度までに全廃する方針を固めた。これに伴い、5000系および2000系の増備を進め、非貫通部分のある7000系を順次廃車する方針である[33]。
また名古屋鉄道は、増備中の9500系・9100系を設計変更すると発表した。2024年度新造分から先頭車の貫通扉の位置を中央部に変更し、連結時には常時通り抜けが可能な構造とする[34]。
関係報道[編集]
2021年10月に起きた京王線刺傷事件で「京王線事件はやらせ」というデマが拡散されていたが、これに対し日野市議会議員の池田利恵自身もSNSで映像の信ぴょう性に疑問を抱くような内容を投稿していた。そのことがテレビ情報番組「スッキリ」で報道され、司会者の加藤浩次は実際の事件を作り物だとすることが考えられないと評した。池田への取材に対する回答は放映時までになかったが、同番組の調べでは池田の投稿に400人以上が反応し、40人がネット上で拡散していた[35]。
映像化[編集]
- ザ!世界仰天ニュース『京王線刺傷事件の真実!ジョーカーと呼ばれた犯人はなぜ電車で犯行を行ったのか?』[36]
脚注[編集]
- ↑ 重体男性の意識回復 京王線刺傷:朝日新聞 2021年11月10日
- ↑ 刃物注意され、刺したか 容疑者、乗車後すぐ 京王線17人重軽傷:朝日新聞 2021年11月2日
- ↑ 3.0 3.1 “東京都調布市において発生した京王線の車両火災による被害及び消防機関等の対応状況 (第2報)”. 総務省消防庁. 2021年11月3日閲覧。
- ↑ 「「仕事や友人関係うまくいかず」 ハロウィンに合わせ大量殺人計画か 京王線刺傷」『=産経新聞』産業経済新聞社、2021年11月1日。2021年11月1日閲覧。
- ↑ 5.0 5.1 5.2 「京王線刃物男「小田急事件参考にした」17人搬送」『産経新聞』産業経済新聞社、2021年11月1日。2021年11月2日閲覧。
- ↑ “鉄道全車両に防犯カメラ設置義務化へ 相次ぐ事件受け 国交省”. NHK (2021年12月3日). 2021年12月6日閲覧。
- ↑ 7.0 7.1 “京王線“車内切りつけ” 容疑者の行動明らかに 電車の安全は…”. NHKニュース (2021年11月1日). 2021年11月1日閲覧。
- ↑ 8.0 8.1 8.2 8.3 “京王線 乗客切りつけ車内に火 17人けが 1人重体 24歳の男 逮捕”. NHKニュース (2021年11月1日). 2021年11月1日閲覧。
- ↑ “京王線特急に乗車後すぐに男性襲う…刃物持った容疑者は終始無言で移動、乗客はパニックに”. 読売新聞オンライン (2021年11月1日). 2021年11月1日閲覧。
- ↑ 10.0 10.1 “京王線刺傷 乗務員ら判断でドア開けず 2メートル手前停車、転落防止”. 東京新聞 (2021年11月1日). 2021年11月1日閲覧。
- ↑ 11.0 11.1 “ドアが開かず…当時の状況は? 京王線刺傷”. 日テレNEWS24 (2021年11月1日). 2021年11月1日閲覧。
- ↑ “京王線刺傷放火、容疑者「ライター用オイル使った」…「小田急の事件を参考に特急電車狙い」”. 読売新聞オンライン (2021年11月1日). 2021年11月1日閲覧。
- ↑ “京王線特急に乗車後すぐに男性襲う…刃物持った容疑者は終始無言で移動、乗客はパニックに”. TBS NEWS (2021年11月1日). 2021年11月1日閲覧。
- ↑ 14.0 14.1 “京王線刺傷事件で「窓からの脱出」が起きるまで。ドアを“開けられなかった”京王電鉄の判断”. ハフィントン・ポスト日本版 (2021年11月2日). 2021年11月13日閲覧。
- ↑ 最上和喜「京王線車内に刃物持った男 6人負傷か、火災も 塩酸?まかれた情報」『毎日新聞』毎日新聞社、2021年10月31日。2021年11月2日閲覧。
- ↑ 「京王線 火災発生の可能性 けが人複数の情報」『産経新聞』産経新聞社、2021年10月31日。2021年11月2日閲覧。
- ↑ 「塩酸散布の情報は未確認と警視庁」『神奈川新聞』神奈川新聞社(共同通信社)、横浜、2021年10月31日。2021年11月2日閲覧。
- ↑ “塩酸散布の情報は未確認と警視庁”. 共同通信. 共同通信社 (2021年10月31日). 2021年11月2日閲覧。
- ↑ “京王線刺傷、放火による殺人未遂容疑でも再逮捕へ”. 読売新聞 (2021年11月22日). 2021年11月23日閲覧。
- ↑ “【独自解説】京王線刺傷事件“ジョーカー”男の初公判 量刑を左右する殺意の対象者数、争点の「犯罪がいつ始まったか」はどう判断?専門家が解説”. 情報ライブ ミヤネ屋. 読売テレビ (2023年6月27日). 2023年8月2日閲覧。
- ↑ “「凶悪、卑劣」京王線刺傷事件で懲役22年判決 12人への殺人未遂、10人で成立認める”. 産経新聞. (2023年7月31日) 2023年7月31日閲覧。
- ↑ “京王線刺傷事件、被告の懲役23年確定 判決に控訴なし”. 日本経済新聞 (2023年8月17日). 2023年9月3日閲覧。
- ↑ “刃物男で運転見合わせの京王線が上下線で運転再開”. 日刊スポーツ (2021年11月1日). 2021年11月13日閲覧。
- ↑ “京王線、早朝から全線で通常運転 前夜に男が刃物で乗客刺す事件”. 朝日新聞. 2021年11月13日閲覧。
- ↑ 25.0 25.1 25.2 25.3 “九州新幹線 車内で放火未遂か 男逮捕「京王線事件をまね」供述”. NHK NEWS WEB. 日本放送協会 (2021年11月8日). 2021年11月11日閲覧。
- ↑ 26.0 26.1 26.2 「京王線事件「まねしようと思った」 九州新幹線、放火未遂容疑の男」『産経新聞』産業経済新聞社、2021年11月8日。2021年11月11日閲覧。
- ↑ 「九州新幹線放火未遂 「いつも通勤で使うのに」 乗客ら「京王線の事件」脳裏に 「容疑者はおとなしいおじさん」」『南日本新聞』南日本新聞社、2021年11月8日。2021年11月11日閲覧。
- ↑ 「新幹線で放火しようとした被告に判決 裁判長「頑張るように」」『朝日新聞』朝日新聞社、2022年5月24日。2023年1月30日閲覧。
- ↑ “鉄道各社と対策協議 京王線事件受け―国交省”. 時事通信. 2021年11月13日閲覧。
- ↑ “鉄道各社、対策急ぐ 手荷物検査「非現実的」の声―京王線刺傷”. 時事通信. 2021年11月13日閲覧。
- ↑ INC, SANKEI DIGITAL (2022年10月28日). “「仮装での乗車控えて」 京王電鉄、ハロウィン控え危機管理レベル引き上げ 1年前の事件教訓” (日本語). 産経ニュース. 2023年7月14日閲覧。
- ↑ “京成電鉄 警備員配置で値上げ「スカイライナー」など あすから最大50円”. 東京新聞. 2022年7月5日閲覧。
- ↑ 電車の「顔と顔の連結」無くします 京王線の「非貫通車両」廃止へ 車両移動できない不便解消 乗りものニュース 2023年3月30日配信、4月1日閲覧
- ↑ 辻健治 (2024年5月15日). “名鉄の通勤型電車、貫通扉を真ん中へ スムーズな避難誘導のため変更”. 朝日新聞デジタル. 2024年5月26日閲覧。
- ↑ “「京王線事件はやらせ」説に加藤浩次、激怒 「無茶苦茶なこと言ってますよ」”. J CASTテレビウォッチ (2021年11月16日). 2023年10月19日閲覧。
- ↑ “「ジョーカー男」はなぜ京王線刺傷事件を起こしたのか”. 日本テレビ (2024年1月9日). 2024年1月13日閲覧。
関連項目[編集]
- 日本の鉄道に関する事件
- 小田急線刺傷事件 - 本事件の参考と報道された事件。
- 模倣犯
- 通り魔
- 無敵の人 (インターネットスラング)
- 貧困問題
- 新宿西口バス放火事件 - 1980年の事件。京王帝都電鉄(現・京王電鉄バス)の車両が被害に遭った。
- 大邱地下鉄放火事件 - 2003年に韓国大邱広域市で発生した列車放火事件。
- 東海道新幹線火災事件 - 2015年の事件。焼身自殺で列車火災が起き、巻き添えとなった被害者が出た。
- 2018年東海道新幹線車内殺傷事件
外部リンク[編集]
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