ホット・アズ・サン
ホット・アズ・サン(HOT AS SUN)は、ビートルズが制作したものの幻になったと一部で報道されたアルバムのタイトル。
概要[編集]
アルバム『ゲット・バック』(のちに『レット・イット・ビー』)とアルバム『アビイ・ロード』の間にあたる1969年2月~5月にレコーディング・セッションが行われたが、マスターテープが盗難に遭い音源が消失したアルバムだと一部で報道されたが、現在ではそのセッションが行われた事実自体あり得ないとされ、実際にはまったく存在しなかったアルバムであり、ビートルズに関する都市伝説の一つと考えられている。
なおアルバムタイトルの「HOT AS SUN」とは、このアルバムの収録曲(と報道された楽曲)の一つからとられている。この曲自体は実在しており、ゲット・バック・セッションで演奏されているものの、公式発表はされていなかったインストゥルメンタルである。 結局、ビートルズ名義で発表されることはなく、ポール・マッカートニーの初ソロアルバムである『マッカートニー』に収録された。日本盤では「燃ゆる太陽のごとく」という邦題がつけられている。
経緯[編集]
「The Rolling Stone」誌のスクープ記事[編集]
このアルバムの存在は、音楽雑誌「The Rolling Stone」誌が1969年9月号でスクープとして報じている。
それによれば、メンバー間の不協和音が表面化したトゥイッケナム・セッションが一段落ついた後、2枚のアルバムを出そうという話になり、1枚は『アビイ・ロード』であり、もう1枚がこの『ホット・アズ・サン』だった。全16曲が収録されたという(曲名は下記参照)。しかし収録直後のマスターテープが何者かの盗難に遭い行方不明になり、英国EMIとアップル・レコードが巨額の身代金を払って海外在住の盗難犯から取り戻したが、回収して帰国した際、空港のX線検査機によりマスターテープの音源が全部消去されてしまい、かくして幻のアルバムと化したという。
収録曲のうち3曲は、ポールがソロで発表したものと同じタイトルである。また、ゲット・バック・セッションで演奏しただけで公式には未発表曲となっているものも含まれている。
記事内容の真偽[編集]
この記事以外には、本アルバムが存在したことを裏付ける材料は何もなかったものの、収録曲として報道された楽曲のなかには実在したことが明らかになったものがあり、熱心なファンのなかには、本当にこのアルバムが実在したのではないかと推測する向きもあった。
しかし、後にビートルズの詳細なレコーディングデータが明らかになり、収録曲の大半のレコーディングデータが存在しないことと69年2月にはもう『アビイ・ロード』のレコーディングが始まっていることが判明したため、現在ではこのアルバムの存在はまったくのデマだったと言われている。また、ビートルズのメンバーも、このアルバムレコーディングの事実について否定しているという。
ところが、ブートレグ業界がビートルズの未発表曲を次々とリリースし始めると、このアルバムの収録曲というものまでが登場するようになり、話がややこしくなってくる。その大半は、ゲット・バック・セッションで演奏した曲に出鱈目なタイトルをつけたものだが、無名のアーティストがジョン・レノンやジョージ・ハリスンそっくりの声色を作って演奏するといういわゆる偽物まで現われて、収拾がつかなくなってくる。この偽物の正体についても、無名のシンガーから大物級のロックスターまで諸説がある。しかし中には、どこから見つけてきたのか、正真正銘ジョンの作品である「ウォッチング・レインボーズ」や、ジョンがホームレコーディングしたイントロに別人が後半部分を書き加えた「ララバイ・フォー・ア・レイジー・デイ」のような貴重な音源も含まれており、幻のアルバムを巡る状況は今や混乱状態にある。
また、2019年9月13日にビートルズが1969年9月8日に『アビイ・ロード』の次回作について話し合う音声が録音されたデータが発見されたことが報じられているが[1]、「ホット・アズ・サン」との関連性は不明となっている。
収録曲とされるもの[編集]
- Maxwell's Silver Hammer (Take 5)
- ポール作の楽曲で、完成版はアルバム『アビイ・ロード』に収録されている。
- Don't Let Me Down (Re-Equalized)
- ジョン作の楽曲。シングル盤「ゲット・バック」のB面曲。
- Hot As Sun
- ポール作。アルバム『マッカートニー』でポールのソロ作品として発表(邦題は「燃ゆる太陽の如く」)。ビートルズ時代にもセッションが行われているが、こちらはソロ版とは異なりピアノソロでポールのハミングが入る。
- Junk (Esher Demo)
- ポール作の楽曲。ジョージの自宅イーシャーでポールがアコースティック・ギター1本で弾き語りしたデモ音源。後にポールのソロアルバム『マッカートニー』に完成版が収録されている。なお、本作に収録のイーシャー・デモは、1996年に発売された『ザ・ビートルズ・アンソロジー3』や2018年に発売された『『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』50周年記念エディション スーパー・デラックス・エディション』[2]にも収録されている。
- Polythene Pam (Esher Demo)
- ジョン作の楽曲で、ジョージの自宅でイーシャーでジョンがアコースティック・ギター1本で弾き語りしたデモ音源。完成版はアルバム『アビイ・ロード』に収録されている。
- Octopus's Garden (Take 2)
- リンゴ・スター作の楽曲で、完成版はアルバム『アビイ・ロード』に収録されている。本作に収録のテイク2は、1996年に発売された『ザ・ビートルズ・アンソロジー3』にも収録されている。
- I Should Like To Live Up The Tree
- リンゴの曲とされているが、詳細は不明。
- Zero Is Just Another Even Number
- 作者不明で、詳細は不明。
- What's The New Mary Jane? (Esher Demo)
- Dirty Old Man
- Proud As You Are
- ポールの曲とされるが、詳細は不明。
- Watching Rainbows
- ジョンの未発表曲でアンソロジーにも収録されていないもののうち、比較的完全な形で残っている曲。ゲット・バック・セッションの期間中である1969年1月14日に演奏された。
その他[編集]
- Lullaby For A Lazy Day…ジョンの曲。海賊盤で出回っているバージョンには、ジョンがホーム・レコーディングした部分がなぜか収録されているが、演奏時期など一切不明。
- Suicide…ポールがビートルズ時代、フランク・シナトラのために書いてボツにされたといわれる曲。これは『マッカートニー』の中で、「ホット・アズ・サン」のメドレーの最後を飾る形で収録されている。
- Kind Of Girl…作者不明で、詳細は不明。
- Have You Heard The Word?…ジョンの曲と言われるが不明。ブートレグで出回っているこの曲は、ビートルズの演奏スタイルをコピーした別人による贋作の可能性が非常に高い。
脚注[編集]
- ↑ “ビートルズが『アビイ・ロード』の次回作を話し合う音声が新たに発見”. Rolling Stone Japan (CCCミュージックラボ株式会社). (2019年9月13日) 2019年9月14日閲覧。
- ↑ 2.0 2.1 “ザ・ビートルズ、ホワイト・アルバム50周年記念盤が登場”. BARKS (ジャパンミュージックネットワーク株式会社). (2018年9月25日) 2019年7月27日閲覧。
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