野菜
野菜(やさい、英: vegetable)とは、あまり加工せずにおもに副食として利用される草本性の栽培植物のこと、またはその可食部のことである。蔬菜(そさい)や菜(さい)、青物(あおもの)ともよばれる。ただし、「野菜」は慣用的な用語であり、国や分野によって含まれる植物はやや異なるため、「野菜」を明確に定義することはできない。食用とする部位は葉や茎、根、つぼみ、花、果実、種子などさまざまであり、一般的にはこれに応じて果菜類(果実や種子を利用)、葉菜類(葉や地上茎、花を利用)、根菜類(根や地下茎を利用)に分けられる。また、香りや辛味が強い香辛野菜、カロテン含量が多い緑黄色野菜などがある。
野菜は一般的に貯蔵性が低く時期が限られたものであったが、栽培技術の発展によっておもな野菜は一年中供給されるようになっている。近年では化学肥料・農薬を使用しない有機野菜に対する需要もあり、また高度に管理された野菜工場も見られるようになった。野菜の中には、生食するものや、煮るもの、焼くもの、漬物にするものなどがある。一般的に、野菜は柔軟多汁で低カロリー、ビタミンやミネラル、食物繊維に富むものが多いが、マメ類やイモ類はデンプンやタンパク質を多く含む。また、ポリフェノールなど人の健康に有用と考えられている物質を含み、生活習慣病予防などで重要視されている。
定義[編集]
おもに副食(主食や間食ではない)として、無加工または低加工で利用される草本性の栽培植物またはその可食部は、野菜とよばれる。蔬菜や菜、青物ともよばれる。
ただし、「野菜」は慣用的な用語であり、国や分野によって野菜に含まれる植物はやや異なるため、明確な定義はできない。たとえばメロンやスイカ、イチゴは甘く、ふつう間食に利用されるため、消費分野では果物として扱われるが、草本に実ることから、日本の生産分野では野菜として扱われる。そのため、特に「果実的野菜」や「果物的果菜」とよばれることがある。また、サツマイモやジャガイモなどイモ類は副食とされる際には野菜であるが、主食や加工品原料とされることも多く、野菜とは分けて扱われることもある。マメ類やトウモロコシの未熟な果実・種子(サヤエンドウ、スイートコーンなど)は野菜として扱われるが、完熟したものは穀物として扱われることが多い。ただし、完熟したものであっても、副食に用いられる場合は野菜として扱われる。コメは日本においては最も重要な主食であるが、ヨーロッパでは付け合せなどに使われるため、野菜として扱われることがある。また、タラノキやサンショウは草ではなく木本植物であるが、副食に使われるため野菜として扱われることがある。
栽培植物である「野菜」に対して、同様に利用される野生植物は「山菜」とよばれる。一般的に、山菜は野菜に比べて栽培効率が悪いが、近年になって地域産品の需要や販路が拡大しており、それに伴って栽培されている例も多い(アシタバ、フキ、ウド、タラノキ、ワラビなど)。現在市場に流通している山菜の多くは栽培品であり、これらを野菜として扱うこともある。
日本では、菌類(シイタケ、エノキタケ、ナメコなど)も野菜に含めることがある。また、日本では藻類(海苔、ワカメ、ヒジキなど)の利用が多く、野菜とは別に扱われているが、他の国では野菜に含めていることが多い。
古くは、副食として用いる草本植物を「蔬菜(または菜、蔬)」と総称し、そのうち野生のものを「野菜」、栽培されるものを「園菜(園蔬、圃菜)」とよんでいた。しかし、その後は園菜の語は使われなくなり、やがて現在と同様に栽培されるものが「野菜」とよばれるようになり、また野生のものは「山菜」とよばれるようになった。ただし、官公庁などでの公式的な表現では、栽培されるものは「蔬菜」とよばれていた。しかし第二次世界大戦後には「蔬菜」の「蔬」が常用漢字外となったこともあって官公庁でも「野菜」の語が用いられるようになった。
英語の "vegetable" は、ラテン語の vegetabilis(活力を与える)に由来する。
分類[編集]
食用部位による分類[編集]
野菜は食用とする部位の違いに基づいて分類されることがあり、果実や種子を食用部位とするものを果菜類、地上茎を食用部位とするものを茎菜類、葉や葉柄を食用部位とするものを葉菜類、花序や花を食用部位とするものを花菜類、根や地下茎を食用部位とするものを根菜類とよぶ。ただし、葉や茎、花は分けずに利用されることも多く、茎菜類や花菜類は、広義の葉菜類または葉茎菜類にまとめられることが多い。
- 果菜類(実もの野菜、成り物野菜ともいう)
- 果実や種子を食用部位とする野菜。インゲンマメなどのマメ類やトウモロコシの未成熟果は副菜に利用され野菜(果菜)として扱われるが、成熟した果実や種子は主食や加工品原料に使われることが多いため、「マメ類」や「穀類」として野菜とは分けて扱われることも多い。
- トマト、ナス、ピーマン、パプリカ、トウガラシ、キュウリ、メロン、スイカ、カボチャ、ズッキーニ、ニガウリ、インゲンマメ、エンドウ、ソラマメ、オクラ、イチゴ、トウモロコシなど。
- 葉菜類(葉もの野菜)
- 狭義には葉を食用部位とする野菜のことであるが、アスパラガスやウドなど地上茎を食用部とする茎菜類(茎もの野菜)や、ブロッコリーやミョウガなど花芽・花を食用部とする花菜類を含めて広義の葉菜類や葉茎菜類とすることが多い。また、カイワレダイコンやモヤシのように芽生えの茎葉を利用するものは、とくにスプラウト(新芽野菜、発芽野菜)とよばれる。
- キャベツ、カリフラワー、ブロッコリー、ハクサイ、コマツナ、ミズナ、チンゲンサイ、タアサイ、ホウレンソウ、モロヘイヤ、ツルムラサキ、クウシンサイ、シソ、セリ、ミツバ、セロリ、パセリ、ウド、レタス、エンダイブ、チコリ、シュンギク、フキ、食用菊、アーティチョーク、アスパラガス、ネギ、ニラ、ワケギ、ミョウガなど。
- 根菜類(根もの野菜)
- 地中にある根や地下茎(根茎、球茎、塊茎、鱗茎)を食用部位とする野菜。サツマイモ、ジャガイモ、タロイモ(サトイモなど)、ヤムイモ(ヤマノイモなど)、キャッサバなどは主食や加工品原料に使われることが多いため、「イモ類」として野菜とは分けて扱われることがある。タマネギやニンニク、ラッキョウは地中にできるため根菜として扱われることもあるが、可食部である鱗茎の主体は特殊化した葉(鱗茎葉)であり、葉菜類(葉茎菜類)として扱われることも多く、またネギやニラなど他のネギ属野菜と合わせてネギ類や鱗茎菜類として他と分けられることもある。
- ダイコン、ハツカダイコン、カブ、ビーツ、ニンジン、ゴボウ、キャッサバ、サツマイモ、ヤーコン、ショウガ、レンコン、サトイモ、クワイ、ヤマイモ、ジャガイモ、タマネギ、ニンニク、百合根など。
果菜類(および花菜類)では花を咲かせることが必要であるが、葉菜類や根菜類では花茎が伸びて花芽が形成されると(抽苔とよばれる)食用部分の品質が低下する。そのため、このような野菜は抽台しにくい品種や抽台しにくい季節に栽培される。
植物分類学による分類[編集]
植物分類学における区分では、野菜はさまざまな科に属する。ただし、アブラナ科、マメ科、ウリ科、ナス科、キク科、セリ科などいくつかの科が特に多くの野菜を含む。以下に、一般的な被子植物の科の配列に沿って野菜を含むおもな科を列記している。同じ科に属する野菜はしばしば味や栄養価が似ており、また栽培に関しても共通点がある。
- ハゴロモモ科(ジュンサイ科):ジュンサイ
- サトイモ科:タロイモ(サトイモ、ハスイモなど)
- オモダカ科:クワイなど
- ヤマノイモ科:ヤムイモ(ナガイモ、ヤマノイモなど)
- ユリ科:ユリ根など
- キジカクシ科:アスパラガスなど
- ヒガンバナ科:タマネギ、ネギ、ワケギ、ニラ、リーキ、ニンニク、ラッキョウなど
- ショウガ科:ショウガ、ウコン、ミョウガなど
- イネ科:タケノコ、トウモロコシ(スイートコーン)など
- ハス科:ハス(レンコン)
- マメ科:インゲンマメ、エンドウ、ダイズ(枝豆)、ソラマメ、ラッカセイ、リョクトウ(緑豆もやし)など
- バラ科:イチゴ、ウメなど
- ウリ科:キュウリ、シロウリ、スイカ、カボチャ、ズッキーニ、ニガウリ、トウガンなど
- ミソハギ科:ヒシ
- ミカン科:サンショウなど
- トウダイグサ科:キャッサバなど。
- アオイ科:オクラ、モロヘイヤなど
- アブラナ科:キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、ハクサイ、コマツナ、ミズナ、タアサイ、チンゲンサイ、菜花、カブ、ダイコン、クレソン、ワサビなど
- ヒユ科:ホウレンソウ、オカヒジキ、ビート、スイスチャードなど
- タデ科:ヤナギタデ、ルバーブなど
- ハマミズナ科:ツルナ、アイスプラントなど
- ツルムラサキ科:ツルムラサキなど
- ヒルガオ科:サツマイモ、クウシンサイ(ヨウサイ)など
- ナス科:ナス、トマト、ピーマン、パプリカ、トウガラシ、シシトウガラシ、ジャガイモなど
- シソ科:シソ(大葉)、エゴマ、バジルなど
- キク科:レタス、シュンギク、ゴボウ、食用菊、アーティチョーク、チコリ、トレビス、エンダイブ、スイゼンジナ、フキ、ヤーコンなど
- ウコギ科:ウド、タラノキなど
- セリ科:ニンジン、セロリ、パセリ、セリ、ミツバ、アシタバ、パクチー、フェンネルなど
香辛野菜[編集]
野菜の中には香りや辛味が強く、少量が料理に添えられたり調味に使われるものがあり、香辛野菜(香辛菜)ともよばれる。薬味やハーブとよばれるものもある。サンショウ、クレソン、カイワレダイコン、ワサビ、ワサビダイコン、ヤナギタデ、トウガラシ、シソ、バジル、タイム、ラベンダー、ミント、パセリ、チャービル、フェンネル、パクチー、ハマボウフウ、ミツバ、セリ、食用菊、ショウガ、ミョウガ、ニンニクなどがある。
緑黄色野菜と淡色野菜[編集]
日本では、可食部分のカロテン含有量によって、野菜を緑黄色野菜と淡色野菜に分けることがある。日本の厚生労働省では「原則として可食部100グラム当たりのカロテン含量が600マイクログラム (µg) 以上の野菜」を緑黄色野菜と定義している。緑黄色野菜は色が濃い野菜が多く、ホウレンソウ、ニンジン、カボチャなどがその代表例である。トマトやピーマンなどは、この基準に入らないが、食べる回数や量が多いことから緑黄色野菜とみなされている。また、緑黄色野菜以外の野菜は、淡色野菜とよばれる。
西洋野菜と中国野菜[編集]
日本において、明治時代以降に欧米から導入されたブロッコリー、カリフラワー、キャベツ、メキャベツ、ハツカダイコン、トマト、ピーマン、バジル、セロリ、パセリ、レタス、チコリー、エンダイブ、アスパラガス、リーキなどの野菜は、西洋野菜(洋菜)とよばれる。また、日本において1970年代以降に中国から導入され普及した野菜は中国野菜とよばれ、チンゲンサイやパクチョイ、タアサイ、カイラン、セリホン、トウミョウ、キンサイ、ステムレタス、オオクログワイなどがある。
旬による分類[編集]
近年ではおもな野菜は一年中供給されているが、本来は野菜は時期が限られ旬がはっきりしたものであった。日本では、その旬によっておもな野菜は以下のようによばれることがある。
- 春野菜 - 春キャベツ、フキ、新タマネギ、タケノコなど。
- 夏野菜 - トマト、ナス、ピーマン、キュウリ、カボチャ、オクラ、トウモロコシ、ニラなど。
- 秋野菜 - サツマイモ、ナガイモ、ゴボウ、キノコ類など。
- 冬野菜 - キャベツ、ハクサイ、ホウレンソウ、タマネギ、ダイコン、ニンジンなど。
高原野菜[編集]
日本において、夏でも涼しい標高1,000メートル前後の高原で栽培される野菜は、高原野菜(こうげんやさい)または高冷地野菜(こうれいちやさい)とよばれる。高原野菜の利点は、平地では夏に栽培が難しい野菜を、独占的に栽培できるところにあるが、栽培期間が短くふつう年1作しかできない。代表的なものとして、レタス、ハクサイ、キャベツなどがある。明治半ばに、長野県の軽井沢において避暑に訪れる外国人客向けとして栽培が始まり、大正末期から東京など大都市に出荷されるようになった。
代表的な野菜[編集]
下表には、FAOSTAT(国際連合食糧農業機関のデータベース)において世界生産量が100万トン以上のもの(2022年)、および日本における指定野菜(***; 消費量が多く、収穫量と出荷量が毎年調査される)と特定野菜(**; 指定野菜に準ずる野菜; 特定地域に限るものもある)を記している。下表の中でメロン、スイカ、イチゴはふつう果物として扱われるが、草本に実るため日本の生産分野では野菜(果実的野菜、果物的果菜)として扱われている。また、マメ類やトウモロコシの完熟品、イモ類(ジャガイモ、サツマイモ、ヤムイモなど)は主食や加工品原材料に利用されることも多く、野菜とは別に扱われることもある。
下表は、果菜、葉菜(茎菜、花菜を含む)、根菜、菌類の順で表記してある。ただし、同一の植物種の別の器官(葉と根など)が食用とされることもある(ダイコンなど)。