近鉄特急
近鉄特急(きんてつとっきゅう)とは、近畿日本鉄道(近鉄)が運行している、特急列車の総称・ブランドである。運賃に加えて、座席指定制の特急料金が必要である。
大阪市、京都市、名古屋市と奈良県、三重県北中部を結ぶ近鉄の鉄道路線網で広く運行されている。2022年時点では、主に観光客の利用を想定した「しまかぜ」「青の交響曲(シンフォニー)」「あをによし」のほか、それ以外も含むの幅広い用途に対応した「ひのとり」「アーバンライナー」「伊勢志摩ライナー」「さくらライナー」「ビスタカー」などがある。
近鉄特急の歴史については「近鉄特急史」を、近鉄特急のダイヤ変更の詳細については「1987年までの近畿日本鉄道ダイヤ変更」「1988年からの近畿日本鉄道ダイヤ変更」をそれぞれ参照のこと。
概要[編集]
近鉄の鉄道路線網は大阪市、京都市、名古屋市という政令指定都市のほか、三重県の津市や四日市市など地方都市、奈良県の奈良市や橿原市、飛鳥地方、吉野地方、三重県の伊勢志摩といった観光地を結んでいる。近鉄は、路線の大半で特急を運行し、都市間輸送や通勤、レジャー・観光など様々な輸送ニーズに対応した特急運用を行なっている。
運行頻度・本数は私鉄最大で、複数系統が全路線の約8割をくまなく走行し、広大な特急ネットワークを形成している。また、系統の異なる特急が各接続駅で相互に連絡のうえ、系統間を跨いだ移動の自由度、およびフリークエントサービスを提供している。
近鉄は特急専用車両を定期列車としての特急で用いる(団体専用列車に充てることもある)。JRグループ各社のように特急車両を特急運用以外の用途(ホームライナーや快速列車、普通列車)に用いる事例や、南海特急の「サザン」のように一般通勤車と併結をしたり、京阪の「プレミアムカー」のように一般車両(自由席)と混成したりする運用も存在しておらず、一般通勤車両および運用とは厳格に区別されている。座席は回転式リクライニングが基本で、伊勢志摩観光向けとしてソファタイプのグループ席も用意されている。
特急ネットワーク[編集]
現在1日約400本を運行する近鉄特急も、1947年の創始時、大阪市と名古屋市の本数は1日4本(2往復)であった。その後、同区間で国鉄の優等列車と競合しながら着実に需要を伸ばし、1963年までに路線改良や特急車両の増備を経て、名阪特急など都市間連絡を主体とした特急が3系統、78本(1963年9月21日ダイヤ変更時点)まで増発された。
しかし、1964年10月の東海道新幹線開業を転機として運行体系を抜本的に見直す必要に迫られた。大阪市と名古屋市の都市間輸送におけるスピードと頻度において、近鉄の名阪特急は新幹線に太刀打ちすることは不可能で、また料金面で大差がないことから大きくシェアを落とすことが予想された。近鉄特急は創始以来、大阪 - 名古屋間特急を主体として営業展開を行ってきていたため、新幹線の出現によって瓦解の危機に直面する。この状況に対して、時の近鉄社長の佐伯勇は「名阪間で新幹線に勝てないのは自明の理」と認識したうえで、新幹線の高速輸送によって東京圏から近畿・中部地区の観光地まで概ね3時間の範囲に収まることを逆手に取り、新幹線から来た客を近鉄名古屋駅や京都駅で乗換えてもらい自社線内の観光地に誘致し、新たな需要を喚起する方針に転じた。
この戦略の転換によって都市と観光地を結ぶ系統が相次いで新設された。そして主要幹線を特急が縦横に駆け回り、各接続駅で特急列車同士の乗継に配慮したダイヤとしたことから、その堅密に連携された特急網をして特急ネットワークと称され、その運行スタイルは今に至る近鉄特急の特徴となっている。制度の面からも、乗り継ぎの際の特急料金の算定方式や、特急券の発券様式を利便性の高いスタイルにすることで、特急ネットワークをバックアップしている。
特急運営について[編集]
近鉄沿線には過疎地域や山間部が多く、大都市圏並の輸送量を持つ路線の割合は全体の30%に過ぎず、残りの70%は閑散路線で構成されている。このことは、大都市圏を中心に路線を展開し、その営業距離が近鉄よりも遥かに短い阪急電鉄や東急電鉄などの各電鉄会社と比較しても近鉄路線全体の採算状態が芳しくないことを示している。近鉄と同様な広域路線網を首都圏に持つ東武鉄道と比較しても、近鉄は首都圏の通勤通学輸送という巨大な収益源がない分、不利な状況に置かれている。その弱点をカバーするために、閑散路線を経由する形で沿線に散らばる大都市、中小都市、観光地を特急列車で有機的に結合したうえ、旅客流動を創出して採算を得ている。そのために特急専用車両を使用し、全席指定、かつ高速輸送、そして旅客の需要に合わせた運用を行い、それらのサービスの見返りとして、運賃とは別に特急料金を徴収して長大路線の維持管理運営を行なう原資としている。近鉄が歴史的に特急運営及び特急車両の質的改善にこだわりを見せる要因の一つが、このような事情にあるとされている。
特急列車の系統・運行概況[編集]
現在、近鉄特急の各列車には列車愛称が存在しないため、本節では各列車の解説手段として、近鉄部内で呼び慣わしている系統名を用いる。
現在、近鉄特急には、大阪・京都・名古屋を起点に、各地方都市・観光地を結ぶ運行系統が8つ存在し、例えば、この内の大阪 - 名古屋間系統の場合は「名阪」と称する。この定義に沿って8つの系統名を言い表せば、名阪(めいはん)、阪伊(はんい)、名伊(めいい)、京伊(けいい)、京橿(けいかし)、京奈(けいな)、阪奈(はんな)、吉野(よしの)で、以下その順番で解説する。また、本節では系統名の下に特急と付記して「名阪特急」と記述する。なお、他社で使用されている「快速特急」「準特急」などの公式的な派生種別は存在しない。
近鉄部内における分類として、名阪、阪伊、名伊の3系統については、速達タイプの停車駅の少ない特急を甲特急、主要駅停車タイプの特急を乙特急と区別の上呼称し、速達タイプと主要駅停車タイプとに分けていないその他の列車では、単に特急と呼称している。本項でも解説の便宜上、それに倣う。ただし「しまかぜ」「青の交響曲(シンフォニー)」「あをによし」については、甲・乙の区別とは別に観光特急として分類され、近鉄公式の刊行物やホームページでも「観光特急」と称されている。よって、本項では「近鉄特急」や「特急」の呼称の他にも、特記する必要のある部分については「甲特急」「乙特急」「観光特急」との呼称も使用する。
「アーバンライナー」「伊勢志摩ライナー」「しまかぜ」「さくらライナー」「青の交響曲(シンフォニー)」「ひのとり」などの名称は、車両固有の名称であって列車名ではない。ただし「しまかぜ」(50000系電車)と「青の交響曲」(16200系電車)、および「あをによし」(19200系電車)のように、観光特急専用車両で運用する特急列車については、近鉄が既存の特急とは別に観光特急として案内していることから「観光特急しまかぜ」「観光特急青の交響曲」「観光特急あをによし」の節で別途解説する。
本節では編成表も掲載しているが、掲載対象は時刻表に使用車両の記載がある固定編成系列を主体とした。なお、汎用特急車両については、運用日直前まで車種および両数が確定しないため一例だけを例示するか割愛した。
各系統の運行区間と停車駅を下図に示す。図では主要駅に停車する標準的な特急(乙特急および特急)と、長距離を直通で結ぶために途中の駅にはほとんど停車しない速達型の特急(甲特急および観光特急)を分けて示し、天理駅・湯の山温泉駅方面などの臨時運行は除外した。なお、名阪間の途中駅始発・終着の列車については慣例上、中川短絡線を経由する列車のみ名阪特急として扱い、大阪難波駅 - 伊賀神戸駅間内相互のみを運行する列車は阪伊特急、近鉄名古屋駅 - 津駅間内相互のみを運行する列車は名伊特急として扱う