近畿地方
近畿地方(きんきちほう)は、本州中西部に位置する日本の地域である。かつての令制国における畿内(五畿内、五畿。「畿」は「都」の意)とその近隣地域から構成される。難波宮、平城宮、平安宮など古代より日本の都が置かれた皇城の地であった。域内には京阪神大都市圏(近畿大都市圏)を擁し、京都市・大阪市・神戸市の三都を都市中枢とするメガロポリスが統べている。
「近畿地方」の範囲について法律上の明確な定義はないが、「近畿」については認定教科書(文部科学省指導要綱)および主要な百科事典では大阪府・京都府・兵庫県・奈良県・和歌山県・滋賀県・三重県の2府5県を指すことが多い。
概要[編集]
「近畿」はこの地方に長らく日本の都が置かれていたことにちなむ語である。律令制における広域行政区画「畿内」とその近隣地域という意味で、現代語に置き換えると「首都圏」に近い。主に歴史・文化用語で用いられる「上方」も、京都に皇居が所在していたことにちなむ語である。現在では大阪府大阪市を首位都市とした地域であり、兵庫県神戸市と京都府京都市とともに首都圏に次ぐ京阪神大都市圏を形成している。一方で三重県は伊賀地方を除いて大阪市ではなく愛知県名古屋市とのつながりが強いため、東海地方(中京圏)にも含まれる。そのため、三重県を除いた「近畿(関西)2府4県」と言われることもある。
「近畿」という名称は明治時代に地理の教科書で採用されて広まったものである。1898年(明治31年)に『中外地理学 内国之部』で「近畿区」として、翌年に『日本地理』で「近畿地方」として使われたのが最初で(どちらも中学校教科書)、1903年(明治36年)の第1期国定教科書『小学地理』で確立された。なお、ジョアン・ロドリゲスの『日本教会史』は「畿内(五畿内)」の同義語として「京畿」と「近畿」を挙げており、「近畿」という言葉自体は近世にも存在していたことが分かる。
類似した範囲を指す名称として「関西」があるが、「関西」が指す範囲は時代によって変化しており(当初は西日本一帯を指す語)、現代でも場面や個人によってまちまちである。現在、「関西」は民間または海外向け、「近畿」は行政や気象庁など公的な場面で使用される場合が多い。
名称の使用例[編集]
近畿大学(近大)、KinKi Kids、近畿自動車道、近畿日本鉄道(近鉄)、近畿日本ツーリスト、近畿産業信用組合など。
英語との関係[編集]
「近畿」と発音が類似する英語の "kinky" に「ねじれた」「変態の」といった意味があり、国際化の進展で風評被害の問題となったことから、近畿大学が2016年4月から、英文名称を「KINKI UNIVERSITY」から「KINDAI UNIVERSITY」に変更した。近畿経済産業局は英文表記に "Kansai"を用いており、近畿運輸局も2015年から英文表記に "Kansai" を必要に応じて使っている。また、近畿商工会議所連合会が2015年7月22日に「関西商工会議所連合会」に名称変更した。2014年秋には、関西経済連合会が国に対し、出先機関の名称の「関西」への統一などを求めたが、その後も統一はされていない。2003年6月28日には大手私鉄の近畿日本鉄道の英語名もKinki Nippon Railway Co., Ltd.から公式略称の近鉄に合わせてKintetsu Corporationに変更している(その後2015年4月1日にKintetsu Railway Co., Ltd.に再変更)。
しかし、yとiの発音は微妙に違っており、単なる同音異語であるとのことから、上述の理由による英語使用時における近畿仕様の回避は、おおよその場合において、的外れである場合も考慮される。
範囲[編集]
近畿地方の範囲は、『小学地理』で示されて以来、前述の2府5県を指すのが通常である。しかし、『小学地理』以前は「近畿」が指す範囲には揺れがあり、『中外地理学 内国之部』では三重県を除く2府4県で「近畿区」、『日本地理』では福井県を含む2府6県で「近畿地方」と示されていたこともあった。現在も場面によっては範囲が変わることがあり、特に名古屋市との経済的結びつきが強い三重県は東海地方に含まれる場面が多い。三重県庁はホームページで「三重県は中部地方にも近畿地方にも属していると考えています。」との見解を示している。また、福井県嶺南地方は1876年から1881年まで滋賀県に属し、近畿地方に含まれていた。
一部の団体等においては、福井県(中部地方、北陸地方)、鳥取県(中国地方、山陰地方)、徳島県(四国地方)など、近畿地方と結びつきの強い周辺の県を「近畿圏」「関西圏」として近畿地方に含むこともある。福井県と徳島県に関しては、民間の企業や団体が行う事業の地域区分で、本来の区分(北陸・四国)のなかで1県しか事業展開されていないために、近畿地方のブロックに含まれる場合がある(福井県の競輪や競艇の区分や、徳島県の日本マクドナルド社のクォーターパウンダー販売当時の地域区分など)。国の省庁が掲げる地方区分でも様々な理由によりその管轄区域に変更、増減が見られる。
近畿地方にどの府県を含むかについての具体例は、以下のとおり。
- 三重県を除く例
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- 公職選挙法に定める衆議院比例代表選出議員選挙の近畿選挙区
- 人事院(近畿事務局)、内閣府(警察庁近畿管区警察局、金融庁)、総務省(近畿総合通信局)、法務省(大阪高等検察庁、大阪法務局、大阪矯正管区、出入国在留管理庁大阪出入国在留管理局、公安調査庁近畿公安調査局、近畿地方更生保護委員会)、財務省(近畿財務局、国税庁大阪国税局)、農林水産省(近畿農政局)、国土交通省(近畿運輸局及び神戸運輸監理部、国土地理院近畿地方測量部、気象庁大阪管区気象台の近畿地方予報区)、環境省(近畿地方環境事務所)
- 最高裁判所(大阪高等裁判所)や知的財産関連の民事裁判等の司法面
- 放送における近畿広域圏
- 国土形成計画法に定める近畿圏
- 近畿弁護士会連合会、近畿税理士会
- 近畿宝くじ
- 高校野球近畿地区大会
- 気象庁による地方区分
地形[編集]
敦賀湾から伊勢湾、琵琶湖から淡路島西岸、中央構造線の3辺で囲まれる地域は、第四紀後期の地殻変動により形成された地形が細かく存在する地域で近畿三角帯と呼ばれている。
- 海:瀬戸内海(紀伊水道、和歌山湾、紀淡海峡、鳴門海峡、大阪湾、明石海峡、播磨灘、相生湾)、太平洋(伊勢湾、熊野灘)、日本海(舞鶴湾、若狭湾)
- 島:淡路島、沼島、家島諸島、紀伊大島、友ヶ島、沖島、答志島、賢島、菅島
- 岬:経ヶ岬、田倉崎、日ノ御埼、潮岬、大王崎
- 半島:紀伊半島、志摩半島、丹後半島
- 平野:大阪平野、播磨平野、和歌山平野、洲本平野、三原平野、伊勢平野
- 盆地:京都盆地、奈良盆地、亀岡盆地、篠山盆地、豊岡盆地、近江盆地、山科盆地、上野盆地、福知山盆地
- 山地:伊吹山地、生駒山地、六甲山地、紀伊山地、布引山地、鈴鹿山脈、和泉山脈
- 山:氷ノ山、伊吹山、比叡山、生駒山、八剣山(八経ヶ岳)、大江山、高野山、金剛山、那智山、諭鶴羽山、高見山、御在所岳
- 河川:北川、由良川、淀川(宇治川、瀬田川)、桂川、木津川、大和川、円山川、武庫川、加古川、市川、夢前川、揖保川、千種川、紀の川、熊野川、雲出川、宮川、櫛田川、鈴鹿川、五十鈴川
- 谷:瀞峡(瀞八丁、奥瀞)、保津峡、るり渓、瀞川渓谷、蓬萊峡、立雲峡、音水渓谷、天滝渓谷、御手洗渓谷、奇絶峡、玉川峡、香落渓、石水渓、宇賀渓
- 湖:琵琶湖、余呉湖、阿蘇海
- 温泉:有馬温泉、南紀白浜温泉、南紀勝浦温泉、城崎温泉、湯村温泉、龍神温泉、洲本温泉、榊原温泉、湯の山温泉、湯の花温泉
- 滝:那智滝、箕面滝、原不動滝、猿尾滝、布引の滝 (兵庫県)、布引の滝 (三重県熊野市)、赤目四十八滝
- 国立公園
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- 瀬戸内海国立公園(1934年3月16日指定)
- 吉野熊野国立公園(1936年2月1日指定)
- 山陰海岸国立公園(1963年7月15日指定)
- 伊勢志摩国立公園(1946年11月20日指定)
- 国定公園
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- 琵琶湖国定公園(1950年7月24日指定)
- 若狭湾国定公園(1955年6月1日指定)
- 金剛生駒紀泉国定公園(1958年4月10日指定、1996年10月2日改定)
- 高野龍神国定公園(1967年3月23日指定)
- 明治の森箕面国定公園(1967年12月11日指定)
- 鈴鹿国定公園(1968年7月22日指定)
- 氷ノ山後山那岐山国定公園(1969年4月10日指定)
- 室生赤目青山国定公園(1970年12月28日指定)
- 大和青垣国定公園(1970年12月28日指定)
- 丹後天橋立大江山国定公園(2002年8月3日若狭湾国定公園より独立)
- 京都丹波高原国定公園(2016年3月25日指定)
気候[編集]
気候は大きく三つに分かれる。近畿北部(兵庫県北部、京都府北部、滋賀県北部)は日本海側気候(北陸・山陰型)、近畿南部(奈良県南部、和歌山県南部、三重県南部)は太平洋側気候(南海型)、その間に挟まれる近畿中部(大阪府、兵庫県南部、京都府南部、滋賀県南部、奈良県北部、和歌山県北部、三重県北中部)は瀬戸内海式気候(京都府南部、滋賀県、奈良県北部、三重県伊賀は、内陸性気候を併せ持つ。三重県北部と中部は、東海・関東型太平洋側気候に属する。)である。
- 近畿北部
兵庫県豊岡市など日本海側は夏場、中国山地を越える南寄りの風がフェーン現象の影響を受けるために猛暑が連日続きやすい。さらに冬も厳寒である。
冬季は、北西の季節風の影響で降水日数ならびに降雪量が多くなる。兵庫県北部や京都府北部、滋賀県北部の大部分が豪雪地帯に指定されており、滋賀県長浜市の旧余呉町域は、近畿以西唯一で日本最南端の特別豪雪地帯に指定されている。滋賀県米原市、岐阜県揖斐郡揖斐川町、不破郡関ケ原町にまたがる伊吹山では、1927年2月14日に当時世界最深積雪記録となる積雪量1,182cmを記録しており、現在でも滋賀県内ではこの記録は破られていない。(日本全国的には、北海道や東北地方の山岳地域、立山黒部アルペンルートなど、複数の地域において例年15m以上の積雪量が記録される観測地はある。世界的には積雪量が15mを越える居住地域も数多く存在する。)
- 近畿南部
紀伊山地は、夏は避暑地となるほど冷涼である。ただ奈良県十津川村風屋や上北山村のように、平野部や市街地よりも酷暑となることがよくある地域も存在する。一方で紀伊山地の冬の寒さは厳しく、和歌山県の高野山は冬場の平均気温が青森市や北海道函館市など北日本に匹敵する。太平洋沿岸地域は、黒潮の影響を受けることにより冬でも温暖な地域で和歌山県沿岸には無霜地帯が存在する。
日本でも有数の多雨地帯で、特に三重県尾鷲市から大台ヶ原山までの南東斜面は年間雨量が4,000mmを超えるところもあるほか、奈良県南部の山岳地帯を中心にして冬場は降雪・積雪する場合も多いため、天川村や上北山村にスキー場(大阪市から津市以南の近畿では両村だけ)が存在する。和歌山県南部と三重県南部は、かなり頻繁に台風の直撃を受けることから「台風銀座」と呼ばれており、過去には「伊勢湾台風」が直撃して大きな被害を出した。また、台風本体が東シナ海を通り、日本海に抜ける際や九州または四国に上陸して、中国地方を縦断する際にも暖かく湿った南東の風が紀伊山地にぶつかるため、南東斜面を中心に集中豪雨や洪水などの被害をもたらしやすい。
- 近畿中部
大阪市や神戸市など都市部では、7月から8月にかけて連日のように熱帯夜が続く。熱帯夜日数は大阪市が約42日、神戸市が約47日であり、近年は都市化によるヒートアイランド現象の影響で夜間の気温が下がりにくく、熱帯夜の増加が顕著である。大阪は「夏の暑さが日本一」と称されるほどの酷暑地帯で、実際に大阪市の夏場の平均気温は那覇市と並び全国の都道府県庁所在地の中で一番高い。京都盆地や奈良盆地といった内陸部は、昼と夜の気温差が大きい上に夏は猛暑が続き、京都市では40℃に迫るほどの高温になる場合もある。内陸部は冬の寒さも厳しく、奈良市や大津市では冬の平均気温が「京の底冷え」と言われる京都市よりも低い。
年間を通して比較的降水量が少なく(特に冬季の降水量がかなり少ない)冬は晴天や曇天が多い。しかし強い冬型の気圧配置で雪雲が京阪神とその周辺に流れ込む時や、南岸低気圧が紀伊半島沖を通過した時などに降雪・積雪する場合があり、京都市や大津市、奈良市、ごく稀に和歌山市でも積雪する時があるが、市街地では数cm程度である。ただ、三重県北部や伊賀では局地的な大雪に見舞われる時があり、記録的大雪例として1995年12月25日から12月27日にかけての寒波で、四日市市で最深積雪53cmの大雪を記録した。また、伊賀や奈良盆地、大阪平野や瀬戸内海沿岸地域で10cm以上の積雪を観測する場合の殆どが南岸低気圧の通過によるものであるが、南岸低気圧によりしばしば大雪をもたらす関東地方の平野部と違い、京阪神周辺は関東ほど上空の強い寒気が入りにくく雨や霙で経過し、積雪を観測せずに済む場合が大半である。台風の影響は、基本的に四国山地と紀伊山地に遮られ大きな被害を受けることは少ないものの、高知県の室戸岬から紀伊水道を通り、淡路島を通過する台風と紀伊半島に上陸して北上する台風の時に大きな被害を受けることがあり、代表的なものとしては「室戸台風」「第2室戸台風」「平成10年台風第7号」「平成30年台風第21号」などが挙げられる。
人口[編集]
ISO 3166-2 | 都道府県名 | 全国順位 | 人口 | 割合 |
---|---|---|---|---|
JP-25 | 滋賀県 | 26 | 1,416,763 | 1.11% |
JP-26 | 京都府 | 13 | 2,614,099 | 2.06% |
JP-27 | 大阪府 | 3 | 8,851,994 | 6.97% |
JP-28 | 兵庫県 | 7 | 5,541,371 | 4.36% |
JP-29 | 奈良県 | 30 | 1,376,164 | 1.08% |
JP-30 | 和歌山県 | 40 | 970,549 | 0.76% |
20,770,940 | 16.34% |
※順位・人口・割合は2014年11月1日のデータによる。なお、2005年3月31日現在の「住民基本台帳に基づく人口調査結果」(総務省)では、初めて人口が減少に転じ、京都府・大阪府・兵庫県・奈良県の4県を合わせた人口が2004年より0.004%減となっている。
※2006年5月に神奈川県の人口が大阪府の人口を超え、大阪府の人口は第3位となった。