行政書士
行政書士(ぎょうせいしょし)とは、行政書士法に基づく国家資格で、官公署への提出書類および権利義務・事実証明に関する書類の作成、提出手続、行政書士が作成した官公署提出書類に関する行政不服申立て手続(特定行政書士(後述)の付記がある者に限る)等の代理、作成に伴う相談などに応ずる専門職で、職務上請求を行うことができる八士業の一つである。徽章はコスモスに「行」の字。
概要[編集]
行政書士法(昭和26年法律第4号)には、1997年(平成9年)に目的規定(第1条)が追加され、その後の改正も含め、行政書士制度の目的が「国民の権利利益の実現」であることが明確化された。
行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(電磁的記録を含む)および権利義務・事実証明に関する書類に関して、法律に基づき作成、作成・提出を代理または代行(使者 (法律用語))し、加えて、当該書類作成に伴う相談に応ずることを業とする。また、特定行政書士(後述)の付記がされた者は、これらの他に行政書士が作成した官公署提出書類に関する行政不服申立て手続等の代理、およびその手続について官公署に提出する書類を作成することを業とすることができる。
行政書士が作成する書類は、簡単な届出書類から複雑な許認可手続に至るまで多岐にわたり、3000種類に及ぶと言われる。許認可などの申請書・添付書類など行政機関に提出する書類のほかに、契約書、定款など権利義務・事実証明に関する書類を作成する。また、それらの書類を作成する際の相談にも応じる。代表的な例としては、新車を購入した際の登録手続、飲食店や建設業を開業する際の許認可手続、法人設立のために認可を要する際の認可手続および定款認証手続・議事録等の作成(登記手続は除く。また登記が効力要件になっている法人設立は除く。)、外国人の在留資格の更新および変更手続などが挙げられる。
行政書士の職域は、土地家屋調査士、司法書士、社会保険労務士などが扱う職域との関連が深い。そのため、これらの資格を取得し、兼業する行政書士も少なくない。取り扱う書類に関する実務的知識と理解力は、業務を遂行する上で必須である。建設業法、不動産および農地などに関する法令の習熟も求められる。書類を作成するうえで、要旨を的確に表現する文章力も欠かせない。
就業者の大部分は、中高年の男性である。また、税理士、土地家屋調査士、社会保険労務士、司法書士、宅地建物取引士などの他士業との兼業者は半数以上占めている。
近年、官公署に提出する書類は簡素化される傾向にあり、行政サービスの向上も伴って、官公署に提出する書類のうち簡易なものは本人が容易に作成し提出できるようになった。そのためこれからの行政書士は、高度な専門知識を必要とする書類作成へ関与を深めてゆくことになるであろうと予想される。
厚生労働省の職業分類表では、行政書士は「法務・経営・文化芸術等の専門的職業 」(03)の「その他の法務・経営・文化芸術等の専門的職業」(020)の「他に分類されない法務・経営・文化芸術等の専門的職業」(020-99)と分類される。総務省の日本標準職業分類では、「他に分類されない専門的職業従事者」(249)と分類される。同じく総務省の日本標準産業分類では、行政書士事務所(7231)は「学術研究,専門・技術サービス業」(大分類 L)の「専門サービス業(他に分類されないもの)」(中分類 72)と分類される。
英名には様々あり、Certified Administrative Procedures Specialistや、Administrative Scrivener、Immigration Lawyerなどが使われている。法務省の日本法令外国語訳データベースシステムでは、Certified Administrative Procedures Legal Specialistと訳されている。
資格・登録[編集]
行政書士となるためには、下記に掲げる一定の資格を得た上で、各都道府県の行政書士会を経由して、日本行政書士会連合会の登録を受ける必要がある。
行政書士となる資格[編集]
次の各号のいずれかに該当する者は、行政書士となる資格を有する。
一 行政書士試験に合格した者
二 弁護士となる資格を有する者
三 弁理士となる資格を有する者
四 公認会計士となる資格を有する者
五 税理士となる資格を有する者
六 国又は地方公共団体の公務員として行政事務を担当した期間及び行政執行法人(独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)第2条第4項に規定する行政執行法人をいう。以下同じ。)又は特定地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成15年法律第118号)第2条第2項に規定する特定地方独立行政法人をいう。以下同じ。)の役員又は職員として行政事務に相当する事務を担当した期間が通算して20年以上(学校教育法(昭和22年法律第26号)による高等学校を卒業した者その他同法第90条に規定する者にあつては17年以上)になる者
◎ 行政事務の解釈 (昭和二十六年九月十三日 地自行発第二七七号 各都道府県総務部長宛 行政課長通知) 一 「行政事務」とは、単に行政機関の権限に属する事務のみならず、立法乃至司法機関の権限に属する事務に関するものも含まれるものと広く解釈することができる。従って、この場合国会職員、裁判所の事務職員等の行う事務は含まれると解すべきである。又、単なる労務、純粋の技術、単なる事務の補助等に関する事務は含まれないものと解される。 二 「行政事務」を担当する者であるかどうかの判別は次の基準によることが適当である。 (一)文書の立案作成、審査等に関連する事務であること。(文書の立案作成とは必ずしも自ら作製することを要せず、広く事務執行上の企画等をも含む。) (二)或程度その者の責任において事務を処理していること。 三 以上により「行政事務」を担当する者であるかどうかについて具体的に例示すれば次の通りである。 (一)地方公務員法附則第二十一項に規定する単純な労務に雇傭される職員は該当しない。 (二)民生委員についても該当しないものと解すべきである。 (三)消防組織法第十一条の規定による消防吏員で二の事務を行う者は該当するものと解せられるが、同法第十五条の二の規定による消防団員は該当しない。 (四)警察法第三十五条の規定による警察吏員で二の事務を行う者は該当するものと解せられる。 (五)地方公共団体の議会の職員は該当しない。 (六)選挙管理委員、監査委員、教育委員、農地委員その他法令または条例に基づく委員会(いわゆる行政委員会)の委員は該当するものと解される。 (七)地方公共団体の経営する病院の医師で衛生行政に関与しないものは該当しない。 (八)教育公務員については、一般に該当しないものと解せられるが、いわゆる教育行政に関与する地位にある者は、すなわち、学長、校長、教頭、部局長、教育長等は該当するものと解せられる。教育委員会の事務職員については、一・二により判断さるべきであろう。 (九)地方公共団体の議会の書記は該当するものと解する。 (十)軍人であった者については、一般の兵は該当しないが、いわゆる軍事行政に関係がある者、例えば陸軍省、連隊区司令部、連隊本部、中隊事務室等に勤務していた者で二の事務を行なっていた者は該当するものと解することができる。
欠格事由[編集]
次のいずれかに該当する者は、上記にかかわらず、行政書士となる資格を有しない。
- 未成年者
- 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
- 禁錮以上の刑に処せられた者で、その執行を終わり、または執行を受けることがなくなってから3年を経過しない者
- 公務員(行政執行法人または特定地方独立行政法人の役員または職員を含む)で懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から3年を経過しない者
- 第6条の5第1項の規定により登録の取消しの処分を受け、当該処分の日から3年を経過しない者
- 第14条の規定により業務の禁止の処分を受け、当該処分の日から3年を経過しない者
- 懲戒処分により、弁護士会から除名され、公認会計士の登録の抹消の処分を受け、弁理士、税理士、司法書士もしくは土地家屋調査士の業務を禁止され、または社会保険労務士の失格処分を受けた者で、これらの処分を受けた日から3年を経過しない者
- 税理士法第48条第1項(懲戒処分を受けるべきであつたことについての決定等)の規定により同法第44条第3号に掲げる処分を受けるべきであつたことについて決定を受けた者で、当該決定を受けた日から3年を経過しないもの
成年被後見人または被保佐人を欠格条項とする規定については、2019年6月14日に公布された「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」によって削除され、心身の故障等の状況を個別的、実質的に審査し、必要な能力の有無を判断することとなった。
登録[編集]
行政書士となる資格を有する者が行政書士となるには、日本行政書士会連合会の行政書士名簿に登録を受けなければならない。2023年3月末時点の登録者数は51,041名、1,185法人である。
徽章[編集]
行政書士の徽章はコスモスの花弁の中に篆書体の「行」の字をデザインしたものである(素材は、純銀の台座に金メッキ貼り、行の字の表面はプラチナ差し。なお、令和5年から特定行政書士用に、一回りサイズが大きい徽章も発行されている)。
なお、行政書士補助者は補助者登録を行うことで補助者徽章の交付を受けることができる(デザインはコスモスの花弁の中に「補」の記載。素材は、合金製 光沢ニッケルメッキ)。
監督[編集]
行政書士や行政書士法人に対する懲戒は、都道府県知事が行う。
都道府県知事は、行政書士会につき、報告を求め、または勧告することができる。
業務[編集]
行政書士が行う業務は下記のとおりである。
行政書士法上の業務[編集]
独占業務[編集]
- 独占業務の内容
官公署に提出する書類その他権利義務または事実証明に関する書類を作成することは、他の法律に別段の定めがある場合等を除いて、行政書士または行政書士法人でない者が報酬を得て業として行うことはできないとされ、違反すれば刑事罰を科されうる。
- 独占業務の例外
次に掲げるように、無資格者が行っても行政書士法違反とはならない「他の法律の別段の定めがある場合」は広く存在することが判例や行政通達などにより示されている。
- 定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について、当該手続に関し相当の経験または能力を有する者として総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合
- 正当な業務を行うために付随して行われる場合
- 官公署に提出する書類に匹敵する対外的に意味のある書類以外の書類作成
- 官公署に提出する書類の記載事項の一部を有料で記載すること
- 司法書士が業務範囲に付随する場合において官公署その他権利義務・事実証明書類を作成する場合
- 土地家屋調査士が業務範囲に付随する場合において官公署その他権利義務・事実証明書類を作成する場合
- 記帳代行会計業務
- 事実証明書類として会計書類が作成されるが、誰でも行うことができる自由業務とされている。
- 調査や分析を主たる内容とする業務として報酬を受けてその結果等を報告するための報告書の作成など
- 行政書士の代書的業務の範疇を超えているとされている。
- 建築士が開発行為許可申請手続や農地転用申請手続に必要な書類の作成をする場合。
非独占業務[編集]
行政書士法第1条の3も、以下のように行政書士が行いうる業務を規定している。
行政書士法第19条第1項の明文により無資格者による実施が禁止される業務は、行政書士法第1条の2に定める業務である「官公署に提出する書類その他権利義務または事実証明に関する書類を作成すること」である。そのため、行政書士法第1条の3に定める業務には業務独占は及ばない。
- 官公署に提出する書類の提出手続においてその官公署に対してする行為を代理すること
- 官公署に提出する書類に係る許認可等に関して行われる聴聞等の手続においてその官公署に対してする行為について代理すること
- 行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、およびその手続について官公署に提出する書類を作成すること
- 契約その他に関する書類を代理人として作成すること
- 行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること
他の法律等に規定される業務[編集]
以下に掲げるように、他の法律や通達においても行政書士の業務であるとされているものがある。
出入国管理法(申請取次業務)[編集]
行政書士が外国人に代わって入国管理局の手続をするときは、一定の手続について、依頼した外国人の出頭を要さないとされている。なおこれらの業務を行うためには一定の研修・考査を受け申請取次の認定を受けなければならない。
税理士法[編集]
- 行政書士または行政書士法人は、それぞれ行政書士または行政書士法人の名称を用いて、他人の求めに応じ、ゴルフ場利用税、自動車税、軽自動車税、事業所税、石油ガス税、不動産取得税、道府県たばこ税(都たばこ税を含む。)、市町村たばこ税(特別区たばこ税を含む。)、特別土地保有税、および入湯税に関し税務書類の作成を業として行うことができる。
社会保険労務士法[編集]
- 昭和55年9月1日時点で行政書士会に入会している行政書士である者は、「当分の間」、他人の依頼を受け報酬を得て労働、社会保険法令上の申請書等・帳簿書類の作成を業とすることができる。
海事代理士法[編集]
- 内航海運業法および船員職業安定法に基づく諸手続は「当分の間」海事代理士法の制限にかかわらず行政書士も行いうるとされている
令和5年2月8日付民二第70号法務省民事局長通達[編集]
- 相続土地国庫帰属承認申請の代行を行える資格者は弁護士、司法書士、行政書士の3士業に限られるとされた
令和5年3月13日総行行第84号総務省自治行政局行政課長通知[編集]
- 行政書士が業として行う行政書士法第1条の2及び第1条の3第1項(第2号を除く。)に規定する業務に関連して行われる財産管理業務又は成年後見人等業務は、行政書士の業務に附帯し、又は密接に関連する業務(行政書士法第13条の6第1号・行政書士法施行規則第12条の2第4号参照)に該当するとされた。