線状降水帯
線状降水帯(せんじょうこうすいたい)とは気象庁が天気予報等で用いる予報用語で「次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなし、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50〜300km程度、幅20〜50km程度の強い局地的な降水をともなう雨域」である。積乱雲が線状に次々に発生してほぼ同じ場所を通過もしくは停滞し続ける自然現象であり、結果として極端な集中豪雨をもたらし、災害を引き起こす原因となる。
日本でこの用語が頻繁に用いられるようになったのは平成26年8月豪雨による広島市の土砂災害以降とみられる。
概要[編集]
線状降水帯の実体は複数の積乱雲の集合体であり、メソ対流系の一種とされる。「線状降水帯 - 積乱雲群 - 積乱雲」の階層構造をもつ事例もある。局地的な集中豪雨などの原因になっていると見られる。
気象庁気象研究所によるレーダー観測の分析では、1995年から2006年に発生した台風以外の豪雨261件のうち、約6割(168件)は線状降水帯に起因していた。西日本の九州と中四国に多く発生するが、平成16年7月・平成23年7月新潟・福島豪雨や平成16年7月福井豪雨、平成27年9月関東・東北豪雨のように東・中日本でも発生する。発生メカニズムは解明しきれていないものの、発生しやすい4条件として「雲の元となる暖かく湿った空気の流入(湿舌)」「その空気が山や冷たい前線とぶつかるなどして上昇(地形効果や風の収束)」「積乱雲を生みやすい不安定な大気状況(低いSSI)」「積乱雲を流しては生む一定方向の風」が挙げられている。
日本では、集中豪雨発生時に線状の降水域がしばしばみられることが1990年代から指摘されていた。気象研究所の津口裕茂と加藤輝之は、1995年から2009年の4月 - 11月の期間を対象として、日本で起きた集中豪雨事例を客観的に抽出し、降水域の形状についての統計解析を行った。その結果、台風によるものを除き、約3分の2の事例で線状降水帯が発生していることが明らかになった。近年では以下の豪雨で発生している。
- 平成24年7月九州北部豪雨
- 平成25年8月秋田・岩手豪雨
- 平成26年8月豪雨
- 平成27年9月関東・東北豪雨
- 平成29年7月九州北部豪雨
- 平成30年7月豪雨(西日本豪雨)
- 令和2年7月豪雨
線状降水帯という用語を初めて使用し定義したのは、気象庁気象研究所の加藤輝之らの著書である「豪雨・豪雪の気象学」という2007年に出版された研究者向けの教科書である。それまでは、レインバンドという言葉の中に含まれていた。雲の形状としてはテーパリングクラウド(にんじん雲)とも呼ばれる。
下層と中層の風向風速が同じ状況が続き、積乱雲の下降風に伴う冷気塊に乗り上げる形で風上に上昇流が発生し、新たな積乱雲が連鎖的に発生する。長時間同じ発生ポイントから雲が湧き続け、移動しないことが多くある。上層の強い風によって違う方向に流されない限り(または気温、水蒸気等の条件が解消されない限り)長時間同じところに雨が降り続けることになる。
積乱雲(細胞〔セル〕)の世代交代を繰り返しながら全体としては維持され続けるため、熱力学からの観点で見ると散逸構造の一種であるとも言える。
分類[編集]
中緯度の線状降水帯については内部構造により、
- バックビルディング型
- バックアンドサイドビルディング型
- スコールライン型
に分類される。また、同じ場所に停滞するものと停滞しないものがある。大きさも様々である。