紙
紙(かみ)またはペーパーとは、植物などの繊維を絡ませながら薄く平(たいら)に成形したもの。日本産業規格 (JIS) では、「植物繊維その他の繊維を膠着させて製造したもの」と定義されている。
概要[編集]
広義の紙は、直径100マイクロメートル以下の細長い繊維状であれば、鉱物・金属・動物由来の物質、または合成樹脂など、ほぼあらゆる種類の原料から作れる。例えば、不織布は紙の一種として分類されることもある。しかし一般には、紙は植物繊維を原料にしているものを指す。製法からも、一般的な水に分散させてから簀の子や網の上に広げ、脱水(水を抜く)・乾燥工程を経て作られるもの以外に、水を使用しない乾式で製造したものも含まれる。
紙の用途は様々で、原初の紙は単純に包むための包装用に使われた。やがて筆記可能な紙が開発され、パピルスや羊皮紙またはシュロ・木簡・貝葉などに取って代わり情報の記録・伝達を担う媒体として重宝された。
やがて製法に工夫がこらされ、日本では和紙の技術確立とともに発展し、江戸時代には襖や和傘、提灯・扇子など建築・工芸材料にも用途を広げた。西洋では工業的な量産化が進行し、木材から直接原料を得てパルプを製造する技術が確立された。
19世紀に入るとイギリスでフルート(段)をつけた紙が販売され、瓶やガラス製品の包装用途を通じて段ボールが開発された。さらにクラフト紙袋など高機能化が施され、包装用としての分野を広げ現在に至る。
材料としては種類や加工法が豊富、加工の技術が比較的容易、安全などの特徴がある。
紙の原料[編集]
製紙用として使用される繊維素材には、植物性天然繊維、動物性天然繊維、人造繊維などがある。
植物性天然繊維[編集]
紙の原料である植物繊維細胞壁の成分は、セルロース・ヘミセルロース・リグニンに細分される。セルロースが骨格を、ヘミセルロースが接続を、リグニンが空隙充填を担う。セルロースは、水素結合によって結びつく性質がある。紙を構成する繊維がくっつき合うのは、主にこうした水素結合のためである。一方、水素結合は水が入るとすぐ切れるため、防水加工していない紙は水濡れに弱い。
茎幹繊維[編集]
- 木材
- 広葉樹には、ブナ・カエデ・クリ・キリ・カバ・ニレなどがある。
- 針葉樹には、スギ・マツ・モミ・ヒノキ・ツガなどがある。
- 靭皮繊維
- 木材性のものとして、コウゾ・ミツマタ・ガンピなどがある。
- コウゾ - 和紙の主原料となっている。
- ミツマタ - 日本の紙幣の原料として混ぜられている。
- 草本性のものとして、アサ・亜麻・ケナフなどがある。
- アサ - 中国で紙が発明されたときの主原料だった(リネンパルプ)。
- 亜麻 - イスラム世界で紙の主原料となった。ヨーロッパでも木材からの製紙が普及するまではよく使われた。
- ケナフ - 成長が非常に早いため、木材の代替候補として注目された。
- 木材性のものとして、コウゾ・ミツマタ・ガンピなどがある。
- 単子葉植物の維管束(藁・アシ・イグサ・パピルス・竹・バガスなど)
- 藁(稲わらや麦わら) - 中国では唐時代から紙の原料として使われた。日本では1890年代ごろは洋紙の主原料であり、中国などではまだ原料として使用されている。藁には、繊維が細くて短すぎるため弱い紙しかできない、年に1回しか収穫できず腐りやすいため保管が難しい、などの問題点がある。「わら半紙」参照。
- アシ - 若いススキやアシを原材料にする。
- カミガヤツリ(パピルス) - カミガヤツリは古来よりパピルスとして利用されてきた。
- 竹 - 竹紙は、中国で唐時代(7世紀)から作られ、宋時代(10世紀以降)には竹が紙の主原料:唐紙となった。竹の豊富な四川省夾江県や福建省では現在でも毛辺紙や玉扣紙などの竹紙が作られており、工場もある。
- サトウキビ(バガス) - インド・中国や南米諸国では、製糖時に発生したサトウキビの絞りかすであるバガスからバガスパルプを製造し、紙の原料としている。バガスには、森林保護や、省エネルギー、地球温暖化への対策などのメリットがあるとされる。
果実繊維[編集]
種子毛では木綿、果実ではカポック、殻ではココナツやヤシなどが原料になる。
- 木綿 - 木綿のぼろ(ラグ)は、欧米で木材以前は紙の主原料であった。しかし、15世紀に印刷技術が確立して紙への需要が大きくなると供給不足になり、木材からの製紙方法が開発される契機となった。日本でも、製造開始直後の1880年代ごろは洋紙の主原料だった。また、綿花の加工途中で生ずる地毛などの短繊維(リンター)を原料として紙を漉くこともできる。木綿のぼろから作られるパルプをラグパルプ、綿花の地毛などの短繊維から作られるパルプをリンターパルプという。なお、通常の木綿は、繊維が長過ぎるため、製紙には使いにくい。
- アブラヤシ - アブラヤシは実からパーム油を絞るために栽培されているが、この絞りかすの繊維は強度が高いため、これを用いて紙をつくることが中国などで実用化されつつある。
葉繊維[編集]
マニラ麻・サイザル麻・パイナップルの葉・バナナの葉などが原料になる。
- マニラアサ - マニラアサ(アバカ)は、フィリピンなどで栽培されているバショウ科の植物。アバカパルプは繊維が細長いため、しなやかで強い紙を作ることができる。現在、日本紙幣の主原料となっているほか、ティーバッグ、掃除機の紙パックの原料となっている。
- バナナ - バナナの茎の繊維を用いて、和紙をつくる要領で紙を作ることができる。生産廃棄物の再利用として途上国での利用が期待されている。
動物性天然繊維[編集]
動物性天然繊維では羊毛や絹などが利用される。
- 毛 - パルプに羊毛を漉き込みフェルトのようなもこもことした見た目と温かなぬくもりやざっくりとした手触りを出すために開発された羊毛紙など。名刺、クリスマスカードやバレンタインカードなどプレゼントカード、ペーパークラフトおよび手芸用・壁紙用紙材などに利用される。
- 羽毛 - 粉砕したパウダー状の羽毛由来ケラチンの吸油性・撥水性・強靭性を生かしてコーティングすることで包装紙やチラシなどに利用される。
- 卵殻膜 - 粉砕したパウダー状の卵殻膜をパルプに配合したもの。高い吸油性や皮膚治癒機能を生かしパーマ用ワインディングペーパーやあぶらとり紙に利用される。
化学繊維など[編集]
- 化学繊維 - 化学繊維紙(合成繊維紙)は、レーヨン・ナイロン・ビニロン・ポリエステル・アクリロニトリルなど通気性や弾力性・耐摩耗性・耐水性・耐薬品性および防食性・防皺(ぼうしゅう)性など化学繊維の各特性を生かし、フィルターなどの濾過・吸着材、電気絶縁材などの多種な用途に利用される。
- プラスチック紙 - 木材原料の代替としての合成紙。プラスチックの強靭性と撥水性、防汚損性を生かし国外20か国以上でポリマー紙幣などに利用される。またポリスチレンペーパーは印刷に利用される。
無機繊維紙[編集]
無機物質を主体とするものを無機質紙、無機繊維紙、セラミック紙などという。
- ストーンペーパー - ストーンペーパーは粒子の細かい石灰石粉を高密度ポリエチレン樹脂でシート状に固めた合成紙である。強靭な耐久性と筆記性を持つ。木材原料の代替として開発され製造時に水を使わないので汚水を排出しない。
- ガラス繊維・炭素繊維 - ガラス繊維紙は耐熱・断熱性、電気絶縁性、耐食・耐薬品性、軽量性と強靭性や補強性を生かし電設資材や家電の絶縁材、建材や自動車などの断熱・防水材や成型材に使われる。炭素繊維紙も同様に車や飛行機や自転車、家電やヘルメットなどの成型材や耐食性を生かし耐食タンク、導電性を生かし電設資材や家電の導電材に用いられる。
特に陶紙や不燃紙など填料(後述)を一般用紙よりもはるかに多く(50%以上)内添して機能化した紙を高填料充填紙という。
- 陶紙(陶芸紙) - 粘土を和紙に張り合わせた陶紙(陶芸紙)は成形後焼成すると陶器になる。ペーパークラフト陶芸や折り紙陶芸に利用される。
- 金属酸化物
- 金属そのものが紙になるわけではないが、金属の酸化物などを紙に漉き込むことで、従来の紙よりも薄く丈夫で透けない高品質の紙を作ることが可能である。元々、白い色合いを持つ酸化チタンなどが使用される場合が多く、長期間に渡って使用、保存される本に使用される。
- 高填料充填紙で機能性填料に水酸化アルミニウムなどの金属酸化物を利用したものは不燃紙、防炎紙に使われている。
- 高填料充填紙で機能性填料に酸化スズなどの金属酸化物を利用したものは静電気除去紙に使われている。
紙の分類[編集]
和紙と洋紙[編集]
紙は、原料により和紙と洋紙に分類される。割合をみると、現在は木材を原料としたパルプから、機械を使って製造した洋紙が多くの割合を占めている。
特徴[編集]
和紙は日本伝来の技術でつくられた紙である。7世紀初めまでに中国から伝来した紙が日本独自に発展したもので、ガンピ・コウゾ・カジノキ・ミツマタなどが原料である。洋紙に比べて繊維が長く丈夫で軽い。
一方の洋紙は、主に木材を主原料に機械を使って製造する。日本では1873年に、欧米の機械を導入した初の洋紙工場が設立された。和紙に比べて印刷適性に優れる。なお、木質紙が主流になる以前、洋紙の主原料は木綿のぼろや藁だった。
唐紙[編集]
唐本には竹紙が多く用いられている。紙は和紙・洋紙・唐紙に分類されることがある。
板紙[編集]
紙の中で、主に包装用に使われる厚い紙を板紙(ボール紙)という。紙は和紙・洋紙・板紙に分類されることがある。