知事
知事(ちじ)は、地方行政区画を統轄する官庁の長のことである。英語では governor というが、古代ローマの属州や、イギリスの海外領土の governor は、「知事」ではなく「総督」と訳されることもある。
語源[編集]
「知事」という漢字語彙は、中国において地方行政官庁の長を指す官職名になるより以前に、仏教寺院で雑事や庶務をつかさどる役職の名として用いられていた。このため「知事」は仏教用語であると紹介されることがある。
仏教が中国に入った際、インドの僧院に置かれたサンスクリットで「カルマ・ダーナ」 karma-dāna と呼ぶ役職に対してさまざまな漢訳語が与えられたが、その中に「知院事」「知事」がある。「知」は「つかさどる」の意であり、「知院事」で院(僧院)のことをつかさどる役職を意味する。「知事」はこの「知院事」の省略形とされる。中国では唐代に禅宗が発展するとともに寺院の管理運営業務も複雑化したため、分掌が行われて6つの「知事」と呼ばれる役職(総称して六知事)が置かれた。
宋代には官僚制度の用語に用いられ、地方の府・州・県の長官を「知某州事」「知某県事」などと呼ぶようになり、短縮されて「知県事」「知府事」などと呼ばれるようになった。宋代には正式な中央官制に組み入れられており、中央の官職を持たない県の長官は「県令」と呼ばれた。
日本では、明治維新の過程で地方行政単位の名称に中国の制度が参考され(府藩県三治制)、同時に行政の長を「知事」と呼ぶ(当初は「知県事」など)ことが導入された。
各国の知事[編集]
日本[編集]
日本では、広域自治体である都道府県の首長を都道府県知事(都知事、道知事、府知事、県知事)という。一方、基礎自治体である市町村の首長は市町村長(市長、町長、村長)という。太平洋戦争前は知事は内務省管轄であり、勅任官であったが、現在は選挙により選出される。知事のもとに置かれる部局を知事部局という。
明治維新直後、府藩県三治制が布かれた時期には、知藩事(藩知事)が各地の藩に置かれた。これは江戸時代以来それらの藩を治めた大名(藩主)がほぼそのまま任命されたが、廃藩置県により県令、のち県知事に置き換えられた。
日本統治時代の台湾では、台湾総督府の下の地方行政区画5州に首長として州知事が配置された。同じく日本統治時代の朝鮮では、朝鮮総督府の下に地方行政区画13道があり、当初は道長官が配置されたが、1919年からは首長として道知事が配置された。