澤田純
澤田 純(さわだ じゅん、1955年〈昭和30年〉7月30日 - )は、日本の実業家。
日本電信電話株式会社(NTT)代表取締役社長などを経て、同社取締役会長、日本経済団体連合会(経団連)副会長、IPA産業サイバーセキュリティセンター長、京都哲学研究所共同代表理事。
経歴[編集]
大阪府出身。京都大学工学部土木工学科卒業後、1978年に日本電信電話公社(現NTT)に入社。エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ代表取締役副社長を経て、2014年に日本電信電話株式会社代表取締役副社長、2018年に代表取締役社長就任。菅義偉内閣が発足した2020年9月からは政府総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員も務める。
上場子会社だったNTTドコモを約4兆円かけて完全子会社にするなど、グループ再編を進めた。2022年代表取締役会長。2023年経団連副会長。2024年取締役会長。
代表権のある会長に就任[編集]
2022年5月12日、澤田純は代表権のある会長に就き、副社長の島田明が社長に昇格する人事を発表。澤田について「海外事業の再編に始まり、次世代情報通信基盤「IOWN(アイオン)」構想の発表、NECとの資本業務提携、NTTドコモの完全子会社化、そして直近のNTTデータによるNTTリミテッド統合など、澤田の繰り出す大胆な改革に驚かされ続けてきた4年間だった」「保守的ともいわれるNTTグループの空気を一新し『破壊者』とも呼ばれた澤田は、大胆なビジョンとスピード感を持った実行力、そして強じんな精神力を持った経営者だった」と日経クロステックの堀越功は述べている。
社長を経て代表権のある会長に就く人事は、NTTでは26年ぶり。1985年に民営化したNTTの8代目社長にあたる。社長退任後、代表権のある会長に就いたのは2代目社長(任期は1988年~1990年)の山口開生以来となる。2024年6月、代表権を返上し取締役会長に就く。
著書「パラコンシステント・ワールド」の中でも触れているが、国際博覧会には特別な思い入れもあるようだ。1970年に大阪で万国博覧会があった時、中学生だった澤田は、会場の近くに住んでいたことから頻繁に博覧会に通っていたこと、未来の技術に興奮したことを振り返り、今回は未来のテクノロジーを子供達に見せたい」と述べている。
名誉大英勲章OBEを授与[編集]
2024年6月24日、チャールズ3世国王陛下より名誉大英勲章OBE(Honorary Officer of the Most Excellent Order of the British Empire)をNTT関係者としてはじめて授与された。
澤田氏は、これまでNTTグループの代表取締役社長兼最高経営責任者ほか経営幹部として英国での事業への積極的な投資を主導し、日英のビジネス関係の強化に大きく貢献した。
サン&スターレガシーアワード受賞[編集]
2024年4月22日、テキサス州フリスコのオムニフリスコホテルでダラスフォートワース日米協会主催のサン&スターレガシーアワードディナーで、日米関係強化に向けた積極的な取り組みと顕著な功績が評価され、サン&スターレガシーアワードが授与された。
同月10日、ワシントンD.C.でのメディアインタビューでは、ホワイトハウスの日米首脳会談で初めて確認された「光半導体=IOWN」について「提携を広げていきたい」などと事業を拡大させていく考えを明らかにしていた。
今回の日米首脳会談での合意内容をまとめた政府文書では、NTTの光半導体=IOWNに初めて言及し、「日米両国企業は光半導体を通じて得られる幅広い可能性を模索している」などと強固な協力を歓迎するとした。
京都哲学研究所の共同代表理事[編集]
一般社団法人京都哲学研究所(Kyoto Institute of Philosophy)は、国内外の産官学民からなる多様な人々の参加を得て、歴史文化都市・京都の地から、多様な価値の提案を通じて、価値多層社会を目指す、国際的な訴求力を持った運動体を形成することを目指して設立された。澤田氏は京都大学哲学専修教授の出口康夫教授と共に、同研究所の共同代表理事をつとめており、共同代表理事挨拶の中で次のように述べている。
「2019年夏、京都大学の出口教授を訪ね、新しい情報通信基盤(IOWN)について議論した折、「新しい社会インフラには新しい哲学が必要」と明確な示唆をされました。現在、生成AIや新情報通信基盤により、社会や人々の生活が大きく変化する可能性が高くなっています。さらにコロナパンデミック、ロシアのウクライナ侵攻など、世界の安全保障は厳しくなり、冷戦構造、南北構造など社会の分断構造が多くみられるようになっています。これらの状況への建設的な対応は、多様な価値の同時両立を認め合う、パラコンシステントの考え方の適用、そして西洋の価値と東洋の価値を共存させるような、新しい哲学の実現が必要であると考えます。価値多層社会の創造を京都から提案し、技術革新の成果をより豊かな社会形成に生かした希望のある未来を創っていきたいと考えています。その第一歩が、京都哲学研究所の創設なのです。」
澤田氏の青年時代から社会人、経営者としての幅広い知見、経験を踏まえ様々な活動に取り組んでいる。
NTT代表取締役社長就任[編集]
2018年4月27日にNTT社長に就任。傘下のNTTコミュニケーションズで企画部門の経験が長く、2014年からNTT副社長に転じ、事業戦略担当として鵜浦を支えた。
また、かつては事務系と技術系の出身者が交互にNTTのトップを務めるという暗黙のルールもあったが、02年に就任した和田紀夫元社長以降、3代連続で事務系出身者がトップを務めており、久々の技術系トップの誕生となった。澤田は、技術系出身ながら10年の南アフリカ共和国のIT大手、ディメンション・データの買収など、複数の海外企業のM&Aに関わっており、NTTグループが中期戦略で重点目標に掲げた海外ビジネス強化の先導役を担ってきた。
16年ぶりに技術系出身の社長就任となった澤田は「現場の技術者の気持ちもわかる。事務系と橋渡しができれば」と抱負を述べている。
社長就任会見では、鵜浦体制の経営方針を踏襲する形として、スローガンも従来と同様「Your Value Partner」とした。「顧客企業に選ばれ続ける価値あるパートナー。この方針を引き継ぎながら新たな展開を加え、NTTグループの発展・成長に寄与していく。株主の皆様、日本社会、そしてグローバル社会に貢献する会社となるよう努力していきたい」と述べている。また新たな中期経営戦略では、顧客のデジタルトランスフォーメーションのサポート、自らのデジタルトランスフォーメーションの推進、人・技術・資産の活用の3点を骨子とした。さらに「海外事業の競争相手は米デロイトや米アクセンチュア、米IBMになる」と述べ、「海外事業の競争力をもっと高めないといけない。自らの付加価値を明確にするためにも、内部のプロセス改革が重要になる」と述べている。
人物[編集]
吹田市立第一中学校を出て、京都府立桂高校に進学。1年生の時同級生であったLIXILグループ副社長八木洋介の回顧録である2015年5月13日日本経済新聞「違うからいい、八木洋介(交遊抄)」の中で、「いつも酒を飲むようなべったりした関係ではなく、約10年前に再会してから年に数度食事をしながら話をしている。それでも見えを張らずに、個人的なことも相談できるのは高校時代の素顔を知り合う仲間ならではだ。純と私には共通点があまりない。純は器用で勉強もできたが、必死で勉強している感は皆無だった。人当たりも良く、どんな人とも友達になれ、彼の周りにはいつも人が集まっていた。」「風変わりな求道者だった私と比べて、ひょうひょうと何でもこなす純は格好よかった。共に実行委員を務めた文化祭で、彼はフォークギターを弾いて場の空気を盛り上げてくれた。人を盛り上げて引っ張っていく彼の魅力はその頃から変わらない。」「お互いに違うことを認め尊敬し合える真の友だ。」と当時を述懐している。
2014年8月21日付け日刊工業新聞では、中学生の頃から日米の海戦史を読み、勝敗の構造に関心が強かったと伝えられている。特に失敗の中から何を学ぶかという考えが意識づけられたようだ。学生時代を通じて活発だった様子も伝えられている。京都府立桂高校では拳法を嗜み、京都大学でアメリカンフットボール部に所属していた。体格的に身長が高くがっしりしている印象があるのも理解できる。また社内では、NTTの展開する買収案件に従事し、法人営業や経営企画部門などNTTで要職を歴任する中、「エネルギッシュで議論好き。仕事も大好き」「明るい性格は、部下もついてくる」との評が聞かれる。1978年当時の日本電信電話公社(現NTT)に入社し、電柱などの開発、現場保守の部署などに所属。その頃の逸話で1985年兵庫県宝塚市の電報電話局時代、澤田が社内の承認を得ずに、身障者用にヘッドホンが使える公衆電話を改造したことがあったそうだが、それは社内での対応が遅く自分でやってしまったそうだ。社内で問題になったが、結局当時の関西支社で横展開することになった。澤田は「失敗するリスクがあっても世の中に合わせて行動すべきだ」という後の同氏の経営哲学にも影響を与えたようだ。
新著のパラコンシステント・ワールドの中で、澤田は京都の学生時代に学びへの刺激を受けたと記している。工学、歴史、哲学、生物と知的好奇心も旺盛、読書家である。著書の中で、生物学者の福岡伸一に「澤田さんは大変な読書家ですね!工学部出身の人での本を読んでいる人はほとんどいませんよ」と驚かれている。
保守的ともいわれるNTTグループの空気を一新し「破壊者」とも呼ばれた澤田は、大胆なビジョンとスピード感を持った実行力、そして強じんな精神力を持った経営者だったと改めて感じている。ビジョナリーで大胆な改革もいとわない。
主要な提携案件[編集]
澤田体制で、海外を含めた提携は急速に増えて、北米で大型案件を相次ぎ獲得する快進撃がメディアで報じられた。
ラスベガスでのスマートシティー(次世代都市)受注[編集]
2018年12月7日、人工知能(AI)を活用したスマートシティを2019年春から本格提供することで米ラスベガス市と合意したと発表した。街中の交差点に設置したカメラ映像などのデータを集約して分析、事故の回避や防犯に役立てる。ラスベガス市には複数のIT企業が提案していたが、「収集したデータの所有権はあえて主張しない」(澤田純社長:当時)という同社の姿勢が評価された。同市は収集データをオープンデータとしてAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)などを介して市民や企業に公開し活用していく考えで、NTTの方針と合った。
MLBとの協業[編集]
2019年9月4日、米大リーグ機構(MLB)と技術面でのパートナーシップ及び3年間のスポンサー契約を締結した。日本のIT企業がMLBとパートナーシップを締結するのはNTTが初めて。NTTが持つ「ウルトラ・リアリティー・ビューイング」と呼ばれる先端技術を使い、立体感・臨場感のある映像を中継できるようにする。澤田はNTTの技術力を世界に発信し、ブランド力も強化することで世界でのプレゼンスをより向上させることに意欲を見せる。(MLBとNTTがテクノロジーパートナーシップを締結 NTTニュースリリース 2019年9月4日)
米マイクロソフトとの提携[編集]
2019年12月10日、NTTと米マイクロソフト(Microsoft)はクラウドサービスやセキュリティー、研究開発などで複数年にわたるグローバルな戦略的提携を結ぶことで合意したと発表した。
トヨタ自動車との提携[編集]
NTTはAI・IoTなどを活用した街づくり「スマートシティー」の分野でトヨタ自動車と資本・業務提携すると発表した。NTTの澤田社長(当時)は、記者会見で「(トヨタとNTTが提携するという構図は)GAFAの対抗になり得る」と語った。トヨタの豊田章男も「2社が手を組むことで、日本もなかなかやるなと思ってもらいたい。対抗はウエルカムだ」と意気込んだ。今回の提携では、建物やクルマなどがネットでつながる都市の基盤「スマートシティプラットフォーム」を共同で構築・運営する。
三菱商事との業務提携[編集]
三菱商事とNTTは、産業界の物流コスト削減に向けたデジタルトランスフォーメーション(DX)で業務提携に合意。 また、NTTと三菱商事はデジタル地図の世界大手ヒアテクノロジーズに共同出資すると発表。発行済み株式の3割を取得。この理由を澤田は、「小売の段階でのいろいろなデータの重ねあわせで、どういう要求があるかをマーケティングしていかなければならない。同時に人や車の位置情報も必要になる。そのため、HEREという会社にNTTと三菱商事が出資して経営参画し、位置情報を起点としたDXを考えていく。たとえば、ナビなどの運転支援、輸送・交通マネジメント支援、小売のターゲティングマーティング支援で利用できる」と語っている。
富士通との業務提携[編集]
NTTと富士通は2021年4月、「持続可能な未来型デジタル社会の実現」に向けた戦略的業務提携を発表、6Gに向けた光電融合技術を共同開発する。共同研究を進める分野は、光電融合製造技術の確立、通信技術のオープン化の推進、低消費電力型・高性能コンピューティング(ディスアグリゲーテッドコンピューティング基盤)実現の3点。 澤田は、「両社の強みを生かせる分野において共同研究を進め、その成果を活用しグローバルでオープンなイノベーションを推進する。それにより、低エネルギーで高効率なデジタル社会を実現する」と語った。
著書[編集]
単筆[編集]
- 『パラコンシステント・ワールド 次世代通信IOWNと描く、生命とITのあいだ』(NTT出版、2021年)
澤田純の新著『パラコンシステント・ワールド』は難しいが面白い。まず驚かされるのは「森羅万象をあまねく観察記述し、すべてをロジック化することは現在の科学技術の粋を集めても不可能」「シンギュラリティはやって来ない」などと、データ利用やAI(人工知能)、ロジックやアルゴリズムなど、いわゆる「デジタル」と総称される取り組みの限界をはっきり指摘していることだ。その通りと思うが土木工学専攻の理系経営者で技術の会社の社長がこう言い切るのは珍しい。 もちろんデジタルを全否定しているわけではなく「デジタルで『できること』と『できないこと』の『あいだ』を考えていくことが非常に大切」という主張である。さらに驚くこととして澤田の関心の広さがある。専門が異なる識者たちとの対話には一貫した主題があり、それが書名にある「パラコンシステント・ワールド」である。パラコンシステント(paraconsistent)とは哲学、数理論理学に由来する概念であり、しばしば「矛盾許性」と訳される。「個を重んじつつ、社会を維持していくためのガバナンス」の仕組みを実現する、といったように対立しがちな2点を両立させる姿勢を澤田はパラコンシステントと呼ぶ。 つまり個と社会、自然界と技術文明、グローバルとローカル、デジタルとアナログ、これらを対立させず、矛盾したまま許容できるのがパラコンシステントな世界となる。
略歴[編集]
- 1978年(昭和53年)3月 - 京都大学工学部土木工学科卒業
- 1978年(昭和53年)4月 - 日本電信電話公社入社
- 1985年(昭和60年)4月 - 日本電信電話株式会社設立 入社
- 1998年(平成10年)2月 - NTTアメリカ・インク バイスプレジデント
- 2000年(平成12年)5月 - エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社 経営企画部担当部長
- 2002年(平成14年)6月 - 同社 コンシューマ&オフィス事業部 企画部部長 兼 経営企画部担当部長
- 2002年(平成14年)8月 - 同社 コンシューマ&オフィス事業部 企画部部長 兼 IPサービス部部長
- 2003年(平成15年)8月 - 同社 IPインテグレーション事業部 関西支店支店長 兼 経営企画部新関西支店準備室室長
- 2003年(平成15年)10月 - 同社 関西支店支店長
- 2004年(平成16年)9月 - 同社 関西営業本部本部長
- 2006年(平成18年)6月 - 同社 経営企画部部長
- 2008年(平成20年)6月 - 同社 取締役 経営企画部部長
- 2011年(平成23年)6月 - 同社 常務取締役 経営企画部部長
- 2012年(平成24年)6月 - 同社 代表取締役副社長 グローバル、コーポレート担当兼経営企画部部長
- 2013年(平成25年)6月 - 同社 代表取締役副社長 グローバル、コーポレート担当
- 2014年(平成26年)4月 - 同社 代表取締役副社長 グローバル、コーポレート、オペレーション担当
- 2014年(平成26年)6月 - 日本電信電話株式会社 代表取締役副社長兼CFO兼CCO兼CIO 事業戦略、リスクマネジメント担当
- 2016年(平成28年)6月 - NTTセキュリティ株式会社設立 代表取締役社長 兼 CEO
- 2018年(平成30年)6月 - 日本電信電話株式会社 代表取締役社長兼CEO
- 2018年(平成30年)6月 - 内閣府 中央防災会議委員
- 2018年(平成30年)8月 - NTT株式会社設立 代表取締役社長兼CEO
- 2019年(令和元年)6月 - 一般社団法人電気通信事業者協会会長
- 2019年(令和元年)10月 - 健康長寿産業連合会会長(現任)
- 2021年(令和2円)12月 - 日米経済協議会 会長(現任)
- 2022年(令和4年)6月 - 日本電信電話株式会社 代表取締役会長
- 2023年(令和5年)5月 - 日本経済団体連合会 副会長/産業競争力強化委員会委員長/アメリカ委員会委員長(現任)
- 2024年(令和6年)6月 - 日本電信電話株式会社 取締役会長(現任)
監修[編集]
- 『IOWN構想―インターネットの先へ』(NTT出版、2019年)