漫画
漫画(まんが、英語: comic(コミック) / 複数形:英語: comics(コミックス)、cartoon、manga)は、狭義では笑いを企図した絵をいい、「戯画(カリカチュア)」の概念と近い。広義では、必ずしも笑いを目的としない「劇画」「ストーリー漫画」「落書き」「アニメ」なども含み、幅広い意味を持つ。マンガという表記も漢字以上に広く使われており、特に漫の字がユーモアを想起させることから、広義で用いる場合はその傾向がある。
日本では明治時代に輸入された"comic"、"cartoon"の日本語訳として「漫画」という言葉を北澤楽天や今泉一瓢が使用したことに始まって以後、漫画はcomicと同義として扱われるようになり、その意味での「漫画」が昭和初期に普及し、現代における漫画という語へ定着するようになった。本項では、日本の漫画のみではなく、漫画全般について説明する。
漫画の形式[編集]
漫画は、現時性と線上性とが複合した一連の絵である。現時性とは「そのすべてを一望して把握できること」、線上性とは「流れの中で部分をたどり、把握していくこと」である。法隆寺の落書きのような卑俗な笑いから、フランス革命前夜のビラのような体制への嘲笑であったり、また時に、ゴヤのような人間存在を揺るがす鋭いブラックユーモアであったりする。その歴史は長く、時代・地域・社会層によりさまざまな形で存在してきた。その形式はきわめて多様であり、厳格な定義はほとんど意味をなさない。
漫画は、簡略化と事象の抽象化が特徴とされる。現代漫画は、映画などの影響を受けて20世紀に世界的に発展した、ストーリーのある「コマ割り漫画」のcomics(コミック)と、「一コマ漫画」のcartoon(カートゥーン)に分類することができる。
定義[編集]
- 視覚情報を絵として提示する(文章による説明ではない)。
- 絵は話の展開を動的に描写し、情報の本質部分を占める(挿絵とは異なる)。
- 聴覚情報は人物のセリフは文字として、音が擬音として表現される。ただし、音楽は擬音ではなく絵やコマの行間のようなもので表現される場合が多い。
- コマやフキダシなど独特の形式を持っている。
漫画では情景や人物の動作などは情報伝達の際に、その絵を提示することで表現されることがある。視覚芸術の一分野に位置づけられるが、1つの画面で完結しない「時間の継起性」において、時間の一瞬を切り取った(近代以降の)絵画とは区別する傾向があり、1つの画面(フレーム)がコマを指すのか紙面を指すのか不確定なところに、フレームが1つしかない映画との区別がなされる。
本記事においては漫画と表記されているが、「マンガ」や「まんが」と表記される場合、これらの表記は意図的に用いられている場合もある。ただし個々の評論家や研究者によって定義は異なる。
各国の漫画[編集]
世界各国で漫画は発行されているが、なかでも日本・アメリカ・フランスの3か国は独自のアートスタイルと市場を持つ。
アメリカン・コミックスは、新聞漫画であるコミック・ストリップと、大手出版社からコミック・ブック形式で発行されるメインストリーム・コミック、そして独立系出版社のオルタナティヴ・コミックとに分かれる。スーパーヒーローもののコミックに代表され、アメリカ国内でもその認識が強い。コミック・ブックはカラーが中心である。
フランスの漫画はバンド・デシネと総称され、これにはフランスのみならず、ベルギー漫画などフランス語圏諸国のものが含まれる。フランスでは「第9の芸術」と呼ばれることもあり、エンターテイメント性の高いものが中心ではあるが、技巧や芸術性の高いものも存在する。
世界的にはカラーが主流であるが、日本の漫画はおもにモノクロで描かれ、独特のデフォルメされた絵柄や表現技法、ストーリーの長さ、そして老若男女すべてを対象とする読者層の広さと、ジャンルの多様性に特徴があるとされる。
産業[編集]
産業としての漫画の市場規模は、日本が突出して大きく、他国の数倍以上の規模を持っている。アメコミ・マンガ・バンドデシネなどすべての漫画を含めた2008年度の漫画の売り上げは、日本が4,483億円、アメリカが281億円、フランスが246億円と推定されており、そのほかの国はさらに小さなものとなっている。その後は日本が伸び悩む一方で世界的には市場は伸長し、2017年度には日本39億ドル、アメリカ10億ドル、中国8億ドルの順となっている。日本では出版物の3分の1を漫画が占めるほど大きな地位を占めているが、1995年以降漫画の売り上げは長期低落傾向にある。ただし2020年にはCOVID-19のパンデミックによる巣ごもり需要の急拡大や、電子書籍需要の急増、そして「鬼滅の刃」の大ヒットによって減少傾向が一転し、前年比23.0%増の6,126億円となって過去最大の売上高を記録した。
漫画は単体のみならず、アニメや映画のコンテンツ供給源としても重要である。これは日本のみならず、アメリカンコミックや中国においても同様の傾向がみられる。
日本では漫画家1人か作画とシナリオの2人にアシスタントが補助するスタイルで制作され、作家個人の才能に依存するという意識が強いが、近年ではアニメーション制作やアメリカン・コミックスのようにプロット、シナリオ、ネーム、下書き、背景、彩色などを分業化したスタジオ形式で制作される例もある。