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洪水

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洪水(こうずい、英語: flood)とは、通常の境界・範囲を超え、大量の水があふれることである。特に通常は乾いている土地へと水があふれ出すことが多い。常態では水が無い陸地が水によって覆われること。河川管理上においては単純に豪雨などで水位が上昇し流速が速くなることを洪水と呼ぶことがある。日本の国土交通省の定義もこれに準じ、河川から水のあふれ出す氾濫(はんらん)は洪水のうちの一つの現象となる。一方日本国気象庁の定義においては、増水により河川敷内部、さらには堤防の外にまで水があふれ出すことを指す。

原因[編集]

河川氾濫[編集]

洪水の最も主な原因は、台風や集中豪雨、前線の停滞による大雨などによって多量の降雨が河川に集中することである。

本来自然状態においては、低地の河道は不安定であり、洪水を繰り返してきた。河川によって運ばれてきた土砂は下流部に堆積して氾濫原となり、長い年月の間に沖積低地として広い平野を形成した。本来氾濫原であるため、沖積低地は洪水の被害を受けやすく、自然状態での定住は非常に困難であったが、水利がよく肥沃な土地が広がっていることから、人類はこの低地へと進出し定着した。しかしこのため、沖積低地に定住した人類は頻繁な洪水に悩まされることとなり、さまざまな治水の試みが行われてきた。また自然状態では、幾度も繰り返された洪水の際に運ばれた土砂が河道からやや離れた地点に堆積し、微高地を形成することがある。これは自然堤防と呼ばれ、洪水の影響を受けにくいため人類が沖積低地に進出する際の居住地とされることが多かった。

河道を溢れた水が氾濫しやすい場所としては、河道の勾配が急にゆるくなる地点、河道の蛇行する地点、河道が分流または合流する地点、河道の幅が急に狭まる地点があげられる。例えば扇状地の扇端は河道の勾配が急に緩くなるため、自然状態では非常に洪水と河道変遷が起こりやすい。氾濫した水は、氾濫した先の地形に応じて広範囲に拡散したり、輪中のように堤防に囲い込まれている地点においては低地に滞留したり、大規模な洪水の場合は拡散した洪水が何十kmも流れ下って低地の堤防内に滞留することもある。また、土砂堆積量が多く、古くから堤防が築かれて河道が固定されている河川においては土砂が河道内に蓄積され、周囲の平野よりも川の水位の方が高い天井川となるが、この場合洪水が起きると水が引きにくいため大きな被害をもたらす。このほか、河道内に障害物が存在すると水位が上昇しやすくなり、なかでも河川敷に樹木が繁茂している場合は洪水時に水がせき止められ、水位上昇を顕著に引き起こす。

融雪・鉄砲水[編集]

積雪地では、冬季の異常な気温上昇、暖かい強風、降雨や、季節変動による春季の気温上昇により融雪を要因とする洪水が発生する。このほか、ダムやため池などの崩壊で貯留されていた水が一気に流れ下り下流に洪水をもたらすこともある。氷河地域では溶けた水が氷によってせき止められ氷河湖・氷底湖を作る場合があり、これが決壊すると同様に下流に被害をもたらす。この洪水は氷河湖決壊洪水と呼ばれ、近年の地球温暖化によって発生件数は増加傾向にある。こうした急な増水は鉄砲水と総称される。鉄砲水の被害が特に大きいのは、一度の降水量が非常に大きい砂漠地帯である。

内水氾濫[編集]

堤防の外側、すなわち河川敷から堤防内部の居住地域に水が溢れることを外水氾濫と呼ぶのに対し、堤防の内側、すなわち居住地域内の支川や水路で氾濫が起きることを内水氾濫と呼ぶ。

都市部においては地表のほとんどが建物やアスファルトなどによって覆われ、河道の直線化や水田の減少などにより雨水の貯留機能も落ちているため、降雨が河道へと殺到しやすく、これまで問題のなかった降雨量でも都市化によって洪水が頻発するようになった。これを都市型水害と呼ぶ。またこの洪水は河川だけでなく、排水用の水路や下水道から水が逆流して起きることも多い。都市には地下街や地下鉄など地下空間を利用した建造物が多く、ここに洪水が流入した場合大きな被害をもたらす。

水位変化[編集]

洪水時の水位変化は、河川の長さと勾配に大きく左右される。日本の場合においては河川の長さが短く勾配も急であるため、上流の洪水が下流に到達するのは数時間、長くても1日から2日程度がほとんどであるが、大陸の長大な河川の場合は時期が大幅にずれ、1か月から2か月後に洪水が到達することすら珍しくない。また、これに関連して、日本の洪水は低地に水が滞留してしまった場合を除けば水が引くのも早いが、大陸においては洪水が収まるまで数日、長いものでは数か月かかることもある。また、洪水時の水位変化は、上流から下流に洪水波と呼ばれる波として伝わる。

洪水の害[編集]

ひとたび洪水が発生すると、該当地域に大きな被害をもたらす。死亡者は溺死が多く、家屋の浸水・流出のほか、自動車などで洪水に巻き込まれ、脱出できなくなり死亡するケースも発生している。内水氾濫の場合、家屋内での被害は少なく、歩行者が冠水地域で流されたり深みにはまって溺れることによる死者が多い。死者のほか、氾濫による家屋・住民の孤立も大きな問題となる。電気や水道などのライフラインも大きな被害を受け、特に水道は復旧までに長い期間を要する。浸水した地域では汚水による汚染が広範囲に広がっており、感染症の流行も起こりやすい。さらに浸水した家財道具のほとんどは以後使用することができないため被害額が大きくなるほか、それらが災害ゴミとして多量に排出されるため周囲の空間を埋め尽くし、通行や衛生の障害となり、さらにその処理にもまた多額の費用が必要となる。

洪水が引いた後に必要となる後始末や清掃作業が、時に作業者やボランティアの安全を脅かす場合がある。それは、下水道水と混ざり合い汚染された水との接触、感電、一酸化炭素中毒、運動器に関わる負傷、熱中症や逆に低体温症、自動車などの事故、火災、溺死、危険物が晒された状態など多岐にわたる。洪水が起こった地域は混乱した状態にあり、作業者は鋭くぎざぎざになった残骸類、溢れた水に潜むバイオハザード、露出した電線、動物や人間の血液や体液そして死体など通常ではありえない影響に脅かされかねない。被害地での対処を行うに当り、作業者には安全帽やゴーグル、重労働用の軍手、ライフジャケットや防水タイプのブーツ型安全靴などの装備を計画段階で整えられる。

洪水は世界各国で大きな被害をもたらしている。1980年代後半より世界の洪水発生件数は増加傾向にあり、2000年から2017年にかけて、世界では年間平均で約8669万人が洪水の被災者となり、5424人が洪水により死亡しているが、これは死者数では地震や暴風雨、異常気温などより少ないものの、被災者数では自然災害の中で最も多い数字である。2018年には世界の洪水被災者は約3538万人、死者は2859人だった。

なお、日本における洪水被害額は、1993年から2002年の合計で外水氾濫が1.3兆円(54%)、内水氾濫が1.1兆円(46%)であり、ほぼ同値となっている。

洪水がもたらす恵み[編集]

洪水は人間の生活面や経済面に多くの破壊的影響を与える。しかし、洪水によって農地に肥沃な土壌がもたらされたり、また生態系に適度な攪乱をもたらすことで豊かな動植物相が生まれるなどの利点も存在する。

こうした洪水による恵みで最も著名なものはエジプトのナイル川流域のものである。ナイル川下流域のエジプトでは7月中旬、エチオピア高原に降るモンスーンの影響で氾濫を起こすが、このナイル川の洪水(英語版)は水位の上下はあれど氾濫が起きないことはなく、鉄砲水のような急激な水位上昇もなく、毎年決まった時期に穏やかに洪水が起こった。そしてなによりも、この洪水は上流より肥沃な土壌を毎年ナイル河畔にもたらし、エジプトの豊かな農業生産を支えていた。この洪水の影響を調整するために文明が発達し、世界最古の文明であるエジプト文明が成立した。この洪水は19世紀末にいたるまでエジプトの経済を支えていたが、20世紀に入ると通年灌漑が可能となって逆に洪水はエジプト農業の障害となり、1970年のアスワン・ハイ・ダムの建設によってエジプトで洪水が起こることはほぼなくなった。

また、バングラデシュにおける洪水(英語版)ではガンジス川の氾濫によって例年のように被害が報告されるが、これは大規模すぎる洪水の場合であり、適度な洪水の場合は「ボルシャ」と呼ばれ、田畑に肥沃なシルトを運んできてくれる恵みの存在であると考えられている。

乾燥地帯や亜乾燥地帯では、年間を通して降水量が不規則な中、非常に重要な水資源となる。淡水の洪水は、河川回廊の生態系を維持する重要な役目を持ち、流域の生物多様性を支える。また、洪水による氾濫は湖や川などに非常に多くの栄養素を供給し、そして捕食者が少なく栄養素に富む氾濫原が産卵に適する事もあり、数年間にわたり漁獲量を高める効果もある。ウェザーフィッシュのように洪水を使って生息域を広げる魚もいる。魚類だけでなく鳥類もまた、洪水によって引き起こされる利益を享受する。



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