法務省
法務省(ほうむしょう、英: Ministry of Justice、略称: MOJ)は、日本の行政機関のひとつ。法の整備、法秩序の維持、国民の権利擁護、出入国管理等を所管する。
概説[編集]
国家行政組織法および法務省設置法に基づき省の一つとして設置されている。任務は「法務省は、基本法制の維持および整備、法秩序の維持、国民の権利擁護、国の利害に関係のある争訟の統一的かつ適正な処理ならびに出入国の公正な管理を図ること」である(法務省設置法第3条)。司法制度、民事行政(国籍、戸籍、登記、供託)、刑事、民事制度の企画、立案、検察、矯正、更生保護、行政訴訟、人権擁護、出入国管理、破壊的団体の規制、司法書士および土地家屋調査士に関することなどを管轄する。
法務省では桐紋を省の象徴として使用することが多い。桐紋は内閣や法治国家の象徴としても扱われるが、法務省では桐紋のなかでも主に五三桐を用いる。五三桐は省の標章として使用されており、法務省旧本館(中央合同庁舎第6号館赤れんが棟)の正門などに掲げられている。また、近年では、法務省の英語名称「Ministry of Justice」の頭文字「MOJ」を配置した図案もシンボルとして用いられている。
人権への配慮[編集]
1954年(昭和29年)に初めて国会に提出された人権委員会設置法案は、日本が人種差別撤廃条約に加入したのちの、2002年、2005年には人権擁護法案、2012年には人権委員会設置法案として新たに提出されたが、衆院解散などの理由により未だ成立していない。
ただし、少年犯罪に対する加害者への人権には配慮しており、1997年の神戸連続児童殺傷事件の際、実名報道をした『FOCUS』などの複数の雑誌に対し法務省が削除要請を行った。また、『週刊新潮』の実名報道に対しても、たびたび是正勧告を行っている。
女性や在日外国人などの人権にも配慮がされており、毎年11月の人権週間では女性の人権を真っ先に取り上げ、DVやセクハラの無料相談を受け付けている。在日外国人に対しても人権侵害の問題を多く取り上げ外国人差別をしてきたホテル・銭湯等に是正を勧告したことがある。2023年までに、ある自民党国会議員にたいし、法務局が人権侵害の警告を発したこともある。
更にインターネット上の書き込みについても名誉毀損として法務省は厳しい姿勢を見せている。
しかし刑務所や入国者収容所といった「人権に制限を加える機関(死刑のように人命までをも奪う)」を持つ官庁が「人権擁護活動」を行うのは問題があるという意見もある。
歴史[編集]
法務省の起源は、1869年(明治2年)に設置された刑部省にまで遡るが、直接の前身は1871年(明治4年)7月9日に設置された司法省とされている。司法省は、裁判所の監督など、司法行政事務を含む広範な法務、司法に関する事務を司っていた。
司法省の中でも検事局が主流を成しており、平沼騏一郎による検事主導の積極介入主義のもと、検事は、政党、軍部、官僚と並ぶ一大勢力に成長し、検察権力を第一義とする司法権の独立が明確化する。大正期から昭和戦前期には、「検尊判卑主義」が公然と囁かれるようになり、検事局、司法省、裁判所の要職を、検事がほぼ独占するようになっていた。
1940年前後には、「司法権の独立」は、軍部の「統帥権の独立」と並ぶ政治的イデオロギーとなり、陸軍三長官会議をモデルに、司法大臣、大審院院長、検事総長による三長官会議の設置まで提唱されるようになる。
1947年(昭和22年)4月の裁判所法及び検察庁法の成立、また三権分立体制を謳った日本国憲法の施行、また12月の法務庁設置法の成立に伴い、司法官僚は、司法省、検察庁、最高裁判所事務総局など、大きく分けて3つに分散し、裁判所関係の司法行政事務は最高裁判所事務総局の所管に移されることになった。
翌1948年(昭和23年)2月15日、司法省は廃止され、内閣法制局を統合して、法律問題に関する政府の最高顧問とされる法務総裁を長とする法務庁が設置された。法務庁設置法(昭和22年12月17日法律第193号)はその後に改正を重ね、中央省庁再編が始まる1999年まで存続した。
その中で、1949年(昭和24年)6月1日の行政機構改革では、法務庁は法務府に改称され内部部局が簡素化された。また、法務省を所管とする人権擁護委員法が成立した。この時施行された国家行政組織法別表において府省本部が列記された。この配列順(いわゆる建制順)は、府省本部の順であったため、法務府は、内閣総理大臣が主任の大臣を務める総理府に次ぐ位置となり、各省がそのあとになり、最後は唯一の本部である経済安定本部となった。
1952年(昭和27年)8月1日の行政機構改革では、法務府は法務省と改称され、法制に関する事務を内閣法制局に再び移管するなど、機構の大幅な整理が行われた。このとき、国家行政組織法別表では、法務府をそのまま法務省に改正したため、法務省は建制順で、総理府の次となり各省の筆頭となった。
1954年(昭和29年)、国会に人権委員会設置法案が提出されるが廃案となる。1995年に日本が人種差別撤廃条約に加入したのち、2002年、2005年には人権擁護法案、2012年には人権委員会設置法案として新たに提出された。
2001年(平成13年)1月6日の中央省庁再編により、法務省設置法(昭和22年法律第193号)に基づく法務省が廃止され、法務省設置法(平成11年7月16日法律第93号)及び法務省組織令(平成12年6月7日政令第248号)に基づく法務省が設置され、各種の部局や審議会、施設機関が再設置された。建制順は総務省に次ぐ2番目となった。
2017年(平成29年)6月15日、改正組織犯罪処罰法にテロ等準備罪が新設され、日本国は国連の組織犯罪防止条約及び腐敗防止条約を受諾することとなった。
2012年(平成24年)11月9日、三条委員会である人権委員会設置を目的とする人権委員会設置法案が再度提出された。同法案の趣旨は、同委員会は、(1) 政府からの独立性を有する立場で、公権力による人権侵害行為を始めとする人権侵害行為についてより実効的な救済を図る、(2) 新たに調停・仲裁の制度を取り入れて救済を推進する、(3) 国内の人権状況等を踏まえ、内閣総理大臣、関係行政機関の長又は国会に対し意見を提出することができるというものであったが、同月16日の衆議院の解散により廃案となり、国内人権機関は未だ設置されていない。
2019年 (平成31年) 4月1日内局である入国管理局が廃止され、新たに外局に出入国在留管理庁を新設する組織改編を行った。
現行の司法法制部は、国内外の法令、法務に関する資料の整備、編纂、司法省であった1921年(大正10年)に始まる『法務資料』の刊行、霞が関の法務図書館の運営、2009年(平成21年)からは『日本法令外国語訳データベースシステム』(Japanese Law Translation)の運営などを行い、また日本司法支援センターの運営に関する業務を行っている。
沿革[編集]
- 1869年(明治2年):維新後の初代刑部卿に正親町三條實愛が任ぜられる。
- 1871年(明治4年) :刑部省を廃止し司法省となる。
- 1872年(明治5年) :初代司法卿に江藤新平が任ぜられる。
- 1885年(明治18年)12月22日:内閣設置により司法大臣に山田顯義が任ぜられる。
- 1947年(昭和22年)5月3日:日本国憲法と裁判所法の施行に伴い司法行政権を裁判所へ移管。
- 1948年(昭和23年)2月15日:法務庁設置法により、司法省を廃止し法務庁となる(長は法務総裁)。
- 1949年(昭和24年)6月1日:行政機構改革により、法務庁を法務府と改称(前同)。
- 1952年(昭和27年)7月21日:破壊活動防止法の施行と同時に、同法に関する業務を行う外局として、公安調査庁と公安審査委員会を設置した。
- 1952年(昭和27年)8月1日:行政機構改革により、法務府を法務省と改称(長は法務大臣)。
- 2001年(平成13年)1月6日:中央省庁再編における(新)法務省設置法により、(旧)法務省を廃止し(新)法務省発足。訟務局を廃止して、大臣官房の訟務部門とする。初代大臣は高村正彦、初代副大臣は長勢甚遠、初代法務大臣政務官は大野つや子。
- 2004年(平成16年)1月1日:外局の司法試験管理委員会を廃止して、審議会等の一つとして司法試験委員会が設置した。
- 2015年(平成27年)4月10日:大臣官房の訟務部門を移管し、訟務局を設置した。
- 2019年(平成31年)4月1日:入国管理局を格上げする形で外局として、出入国在留管理庁を設置した。
所掌事務[編集]
上述の法務省設置法3条に規定された任務を達成するため、同法4条は計40号にわたって所掌事務を列記している。具体的には以下に関することなどがある。
- 民事法制(1号)
- 刑事法制(2号)
- 司法制度(3号)
- 司法試験(4号)
- 内外の法令及び法務に関する資料の整備及び編さん(5号)
- 法務に関する調査及び研究(6号)
- 検察(7号)
- 司法警察職員の教養訓練(8号)
- 刑事に関する国際間の共助(9号)
- 犯罪の予防(10号)
- 刑事一般(11号)
- 刑及び勾留など矯正一般(12〜12号の2)
- 恩赦(13号)
- 仮釈放、仮出場、仮退院、不定期刑の終了及び退院(14号)
- 保護観察、更生緊急保護及び刑事施設等(15号)
- 保護司(16号)
- 更生保護事業の助長及び監督(17号)
- 更生保護一般(18号)
- 心神喪失状態で重大な他害行為を行った者の精神保健観察(18号の2)
- 破壊的団体の規制(19号)
- 無差別大量殺人行為を行った団体の規制(20号)
- 国籍、戸籍、登記、供託及び公証(21号)
- 司法書士及び土地家屋調査士(22号)
- 民事一般(23号)
- 外国法事務弁護士(24号)
- 債権管理回収業(25号)
- 民間紛争解決手続の業務の認証(25号の2)
- 人権侵犯事件(26号)
- 人権啓発及び民間における人権擁護運動の助長(27号)
- 人権擁護委員(28号)
- 人権相談(29号)
- 総合法律支援(30号)
- 国の利害に関係のある争訟(31号)
- 出入国管理(32号)
- 外国人の在留(33号)
- 難民認定(34号)
- 国際連合に協力して行う研修、研究及び調査(35号)
- 所掌事務に係る国際協力(36号) - 法整備支援
- 法科大学院への検察官の派遣(38号)