朝鮮民主主義人民共和国
朝鮮民主主義人民共和国(ちょうせんみんしゅしゅぎじんみんきょうわこく、朝: 조선민주주의인민공화국、英: Democratic People's Republic of Korea, DPRK)、通称北朝鮮(きたちょうせん、英: North Korea)は、東アジアに位置する社会主義共和制国家。首都は平壌市。
1953年7月に朝鮮戦争休戦協定が締結されて以来、朝鮮半島は38度線を境に北側の北朝鮮と南側の大韓民国 (以下、韓国)に分断され、ドイツ再統一以後は双方が国連に加盟している国家では唯一の冷戦分断国家となった。朝鮮労働党による一党独裁体制下にあり、軍事境界線を挟み韓国と、豆満江や鴨緑江を挟んで中華人民共和国及びロシアと接している。
概要[編集]
政治体制[編集]
朝鮮労働党を執権政党とするヘゲモニー政党制であり、最高指導者は金日成、金正日、金正恩と親から子への世襲が続いている。冷戦期に中ソ対立の狭間で非同盟運動を推進し、「自主、自立、自衛」を掲げて主体思想を唱えた。以来「マルクス・レーニン主義を創造的に朝鮮に適用した」とする主体思想を党と国の「指導的指針」と定め、その中で「主体的な革命観を立てるためには、党と首領の指導が必要」として首領の指導への忠実性を人民に要求し、極端な個人崇拝と独裁政治(1代限りの独裁というよりも専制政治に近い政治体制)が現在に至るまで続いている。
北朝鮮の政治体制について、百科事典マイペディアは「『共和国』とは名ばかりの3代にわたる世襲独裁体制」と評価する。日本の防衛省のシンクタンク、防衛研究所は2017年に「独裁化と粛清を通じた恐怖政治が続いている」と分析している。ヒューマン・ライツ・ウォッチは「世界で最も抑圧的な国の1つ」「あらゆる基本的な自由を大幅に削減し、政治的反対、独立したメディア、市民社会、労働組合を禁止している」「秘密裏に強制収容所を運営し、そこでは政府への反対者と見なされた人々が拷問、飢餓、強制労働を強いられている」と分析している。エコノミスト誌傘下の研究所エコノミスト・インテリジェンス・ユニットによる民主主義指数は世界最下位(2019年度)、国境なき記者団による世界報道自由度ランキングも世界最下位を記録している(2020年度)。実際は人民の一挙手一投足まで徹底的に監視する警察国家の様を呈している。
外交[編集]
外交面では常に対外的攻撃姿勢(概ね西側諸国に対して)を貫き、ラングーン事件や大韓航空機爆破事件、近隣諸国民拉致など、国家ぐるみの国際的テロ事件を多数引き起こし、また20世紀末から核実験やミサイル発射を断続的に実施しているため、国際社会から非難されている。また、外貨獲得のためには手段を選ばず、通貨偽造や麻薬製造などの犯罪行為に手を染め、サイバーテロにも注力し、外国銀行への不正アクセスによって資金を盗んでいる。このように、北朝鮮はならずもの国家と見做されており、国際連合から厳しい制裁が行われているにもかかわらず、国際社会に対する挑発的姿勢や、犯罪行為の改善は全く見られず、アメリカ合衆国からはテロ支援国家に指定されている。
東西冷戦下で誕生した分断国家であり、朝鮮戦争において朝鮮人民軍、中国人民志願軍両軍とアメリカ軍を中心とした国連軍の間で朝鮮戦争休戦協定が結ばれて以来、法的には現在に至るまで休戦中であるが、軍事的対立や小規模な衝突はその後も断続的に発生している。他方、1972年の南北共同声明を画期として、南北対話の流れも断続的に発生している。1991年には国連に南北同時加盟した。しかし、中韓国交樹立には反発したこともある。
韓国や日本、アメリカ、フランスなどは、北朝鮮を国家承認していないが、中華人民共和国、ロシア、イギリス、ドイツ、イタリア、インドネシア、インド、ベトナム、キューバなどは国家承認しており国交がある(世界全体では、約120ヶ国と国交がある)。
軍事[編集]
軍事面では、世界最長の兵役(男性は8年(かつては13年)、女性は5年(かつては8年))を人民に課すことで100万を超える軍隊を維持し、韓国内の米韓軍(60万人弱)を兵力で圧倒しているが、兵器の近代化の遅れが目立ち、それを補完するために核兵器を含めた大量破壊兵器とミサイル開発・配備を進めている。
経済[編集]
経済面では一人当たりのGDPにおいて、北朝鮮と韓国は1980年代半ばまでほぼ同水準で、稀に北が上回ることもあったが、1980年代後半に非同盟運動の分裂と対外債務の膨張で、北朝鮮の経済の停滞が目立つようになり、1990年代以降はさらに低落。この間、韓国側が急速な経済成長を遂げたため、南北の所得格差が大きく開いた。2016年時において、南北間には20倍以上の所得格差があると見られる。
医療[編集]
病院はすべて国が管理し、医療費は無料である。しかし、1990年代以降は経済の疲弊により病院には薬が入らなくなった。薬や栄養剤、医療器具はおろか、電力の供給も不足しているため、多くの人々が命を落としているとされている。また、平壌には産科もあるが、地方では出産も自宅で行われるため、死亡率が高い。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行にあたっては情報統制もあり、政権内部は2022年に入るまで感染者の存在を否定し続けてきたが、2022年5月12日に感染者の発生を公式に認め、朝鮮中央通信によれば同月15日までに171万5950人余りの発熱者と62人の死者が出たことが伝えられた。新型コロナウイルス対策として国境の封鎖などを取り続けている一方、脆弱な医療体制から有効な感染抑制策が打ち出せず感染者の増大を続けており、労働新聞で軽症者にはショウガやハニーサックル(スイカズラ)の茶、ヤナギの葉の飲み物の飲用など民間療法を推奨する記事も掲載されている。また、国際的なワクチン供給プログラムである「COVAX」による、中国シノヴァク製のワクチン300万本の供給申し出を拒絶するなど、国際的な医療援助を受け入れていないことも明らかになっている。その後、8月になり金正恩が全国非常防疫総括会議で「防疫戦争」の終息を宣言し、コロナとの戦いに勝利したことを一方的に宣言している。
人口[編集]
人口は、2020年時点で約2,578万人である。現在は国民のほぼ全てが朝鮮民族であるが、よど号ハイジャック事件で亡命した日本人など、極少数の外国人居住者も存在する。北朝鮮の男女別人口構成比は、外貨獲得のための出稼ぎ労働者男性の死亡や、軍隊入営中の事故による若い男性の死亡が多いことが原因で、若い女性人口がやや多い傾向にある。
地理[編集]
地理としては、北部は豆満江を挟んで中華人民共和国及びロシア連邦と、鴨緑江を挟んで中華人民共和国と接し、咸鏡山脈・白頭山脈・蓋馬高原など北東部が高い。白頭山一帯は金日成の「抗日革命運動」の「聖地」にされており、その戦跡が多い。狼林山脈や太白山脈の支脈が南西方向に並走して西海岸に至る。西海岸に通じる河川には大同江・清川江を含み、流域には準平原と沖積平野が広がっている。東海岸側の河川は短くて平野も規模が小さい。南は東朝鮮湾の湾奥に達し、その南にある太白山脈も一部が領域下にある。南側は軍事境界線(38度線)を挟んで韓国に接しているが、北朝鮮の憲法上は、韓国の統治領域を含めた朝鮮半島全体を領土と規定している。気候は寒暑の差が大きく、月平均気温で南部平壌は1月には-8℃、7月には24℃。北部中江で1月には-21℃、7月には22℃になる。年降水量は800~1,500ミリメートルであり、うち6割は6月から8月にかけて降る。
行政区画は1直轄市・3特別市・9道に分かれ、首都は直轄市の平壌である。