暴れん坊将軍
『暴れん坊将軍』(あばれんぼうしょうぐん)は、1978年から2002年にかけてテレビ朝日系列でレギュラー放映されたテレビ朝日、東映制作の時代劇シリーズ。舞台版も上演されている。
概要[編集]
徳川吉宗が貧乏旗本の三男坊「新さん」として庶民の暮らしに紛れながら、江戸にはびこる悪を斬る痛快時代劇。ナレーターは全作一貫して若山弦蔵が担当。
毎週土曜日午後8時に放送されていた番組は、フジテレビの『欽ちゃんのドンとやってみよう!』とTBSの『8時だョ!全員集合』がファミリー層、日本テレビの『全日本プロレス中継』が高年齢層から人気を得る一方で、テレビ朝日は土曜時代劇枠の『人形佐七捕物帳』(松方弘樹主演版)が視聴率一桁台に低迷していた。このため新人を起用することになり、勝プロダクションから売り込みがあった松平健が主役に選ばれた。
松平の起用に際し、新たな企画が起こされた。「将軍徳川吉宗が江戸市中を徘徊し大立ち回りを演じる」という内容は局内でも物議を醸したが、視聴率はスタート時の9%から徐々に数字を上げ、1年後には15%を超える人気番組となった。
足掛け24年にわたりシリーズ12作が制作され、2003年に最終回スペシャルが放送され一度は終了。その後、2004年と2008年に2本のスペシャルが制作された。全放映回数は計832回と、同じ俳優が演じた単一ドラマとしては大川橋蔵の『銭形平次』888回に次ぐ長寿番組で、主演の松平健の代表作となった。
新作の制作とレギュラー放送は終了して久しいがその人気は根強く、テレビ朝日を始めとする地上波や衛星放送などで頻繁に再放送が実施されている。特に2010年代の時代劇専門チャンネルにおいては、シリーズ各作がほぼ常時放映されている。
基本ストーリー[編集]
江戸幕府の第8代将軍・徳川吉宗が町火消“め組”に居候する貧乏旗本の三男坊・徳田新之助に姿を変え、市井(しせい)へ出て江戸町民と交流しながら世にはびこる悪を斬る勧善懲悪ものである。
事件の発端[編集]
物語は、江戸や諸藩における諸問題について南町奉行・大岡忠相や高級幕臣(この高級幕臣が事件の黒幕であることが多い)などから報告を受けた吉宗が、事態の深刻さに憂慮することから始まる。ここで吉宗に報告される又は吉宗が「め組」などで見聞する諸問題の代表例を以下に挙げる。
- 連夜発生している辻斬や盗賊団による凶悪事件
- 塩や米などの買占め・卸値吊り上げによる小売価格高騰
- 偽小判の流通
- 公儀発注の公共工事を巡る汚職の疑い
- 旗本の横暴に苦しむ江戸町民や、諸藩・天領代官の搾取に苦しむ農民による目安箱への訴え(及びその直前での斬殺)
- 御家騒動に敗れて各藩国元から江戸へ逃げ込んだ忠義・改革派藩士との遭遇
- 幕府内の権力抗争や公家絡みの朝廷との対立問題。特に大岡忠相の失脚を狙うものが多い
- 爆薬密造、鉄砲の江戸搬入や外国からの密輸入などによる大藩やその家臣達による将軍暗殺や倒幕クーデターの陰謀
- 放送時期と前後して話題となっている時事問題(リクルート事件、いじめ、登校拒否など)を翻案したネタ
- 吉宗から寵愛されている爺や忠相の事を妬んだ幕臣が、爺や忠相を失脚(処罰内容によっては切腹)させようとして、わざと事件を起こす(爺に対する話と忠相に対する話の二種類)
事件の調査や気分転換などを理由に江戸市中に出た吉宗は、ストーリーの中心人物が悪人の手下に襲われている現場に遭遇、その優れた剣術で手下たちを撃退する(回によっては「正義」と記された扇子、または柔術や拳打で敵を倒すこともある)。その後被害者から襲われた事情や身の上話を聞き出し、め組の頭や若い衆をはじめ、南町奉行・大岡忠相、公儀御様(おためし)御用(後に浪人)・山田朝右衛門らと協力して問題解決にあたることとなる。
事件の真相究明[編集]
吉宗に撃退された手下たちは現場から逃走し、周囲に十分な注意を払わぬまま商人や要人の屋敷へと逃げ込む。しかし彼らは吉宗の御庭番によって尾行されており、屋敷の主が事件の黒幕として特定される。また、回によっては波止場で待つ黒幕が手下の口を封じて船で逃亡することもあり、遺留品などをもとに地道な捜査を余儀なくされることもある。
黒幕の例として、以下のようなものがある。
- 権力争いから幕政の中核に昇りつめようと企んだ高級幕臣(勘定奉行の地位を狙う大身旗本、老中職を狙う若年寄など少禄の譜代大名)
- 私腹を肥やすことを目論んだ閑職の高級幕臣(番方)
- 閑職に追われ、私怨で復讐する大身旗本(なお、追われた理由は大抵自業自得である)
- 吉宗の将軍就任後の改革によって地位を追われ復権を図る元権力者の幕臣(医官など)
- 各藩の実権掌握や私腹を肥やすことを目論んだ各藩の高級陪臣(江戸家老、江戸留守居役など)
- 寺社や京との関係を利用して私腹を肥やすことを目論んだ高家職の幕臣
- 京都所司代などの京と近しい高級幕臣と結託して権力争いに加わった公家関係者(武家伝奏など)
- 寺社奉行と結託し私腹を肥やすことを目論んだ寺院の住職
- 汚職の贈賄側の悪徳商人
- 長崎貿易において高級幕臣や悪徳商人と結託して私腹を肥やすことを目論んだオランダ人などの貿易関係者
- 尾張大納言宗春を将軍にすることを目論む尾張藩関係者
- 尾張藩所属ではないが、宗春を将軍にすることで復権を図る元権力者の幕臣(徳川家宣・家継時代の権力者)
これらの他に、以下のようなものも黒幕として登場したことがある。
- 悪女に惑わされ政治的意味のない小事件を起こした中堅旗本
- 閑職に追われ素行不良の果てに辻斬りなどの犯罪を犯した不良旗本
- 吉宗の与り知らぬところで幕府や徳川家に恨みを抱き、吉宗を殺すことで復讐を果たそうとする者
- 善人のふりをした盗賊の頭
悪党一味に協力を拒んだり抵抗したりした町人や、新之助に頼らず独力で悪党一味の打倒に向かった武士が殺害されることも多い。駆け付けた吉宗は悲嘆し、自責の念にかられるが、この時はメインテーマをスローテンポにした悲しげなトランペットソロが流れることが多い。これは番組中盤で話のテンポを落とし、ドラマにメリハリをつける重要な「つなぎ」の場面である。これによって同時に「かたき討ち」という時代劇になくてはならない要素に深みが加えられていることはいうまでもない。なお、被害者の親族・いいなずけなどが吉宗を将軍と知らずなじり、これに立腹しため組の頭などが介入するのを吉宗が制止し非難を敢えて受ける、という演出パターンが多用される。
また、「中盤の悲嘆」ロングヴァージョンとも言うべき別パターンもある。この場合、松平健のシングル「夜明け」「夢灯り」「ぬくもり」などが流れると、懐手(和服を着たとき手を袖から出さずに懐に入れていること)などで黒幕の屋敷に向かうシーンへと切り替わる。「夜明け」が流れる場合は善人が斬られる比率が非常に多い。