教皇
教皇(きょうこう、ラテン語: Pāpa / Pontifex、イタリア語: Papa、ギリシア語: Πάπας Pápas、英語: The Pope / The Pontiff)は、カトリック教会の最高位聖職者の称号。
一般的にはカトリック教会のローマ司教にして全世界のカトリック教徒の精神的指導者であるローマ教皇(ローマきょうこう)を指す。バチカン市国の元首。教皇の地位は「教皇位」あるいは「教皇座」と呼ばれる。また「聖座」あるいは「使徒座」という用語も使われる。「聖座」と「使徒座」は中世の教会法学者たちによって形成された概念で、第一に教皇を指すが、広義においては教皇庁をも指す。2013年3月13日からはフランシスコが教皇を務めている。
日本語では「ローマ法王」(ローマほうおう)と表記されることも多いが、日本のカトリック教会の中央団体であるカトリック中央協議会は「ローマ教皇」の表記を推奨しており、日本政府は2019年に「法王」から「教皇」へ呼称の変更を発表した(後述)。また、カトリックの内部では「教父」「パパ様」の呼称を用いる場合もある。なお、退位した教皇の称号は名誉教皇(名誉法王とも)ともいわれる。
概説[編集]
初期のローマ司教たちはペトロの後継者、ペトロの代理者を任じていたが、時代が下って教皇の権威が増すに従って、自らをもって「イエス・キリストの代理者」と評すようになっていった。「キリストの代理者」という称号が初めて歴史上にあらわれるのは495年で、ローマの司教会議において教皇ゲラシウス1世を指して用いられたものがもっとも初期の例である。これは五大総大司教座(ローマ、アンティオキア、エルサレム、コンスタンティノープル、アレクサンドリア)の中におけるローマ司教位の優位を示すものとして用いられた。
教皇はカトリック教会全体の首長という宗教的な地位のみならず、ローマ市内にある世界最小の独立国家バチカンの首長という国家元首たる地位をも担っている。1870年のイタリア半島統一以前には教皇の政治的権威の及ぶ領域はさらに広く、教皇領と呼ばれていた。教皇領の成立の根拠とされた「コンスタンティヌスの寄進状」が偽書であることは15世紀以降広く知られていたが、教皇領そのものはイタリア統一まで存続した。1870年以降、教皇庁とイタリア政府が断絶状態に陥ったため、教皇の政治的位置づけはあやふやであったが1929年に結ばれたラテラノ条約によってようやくイタリア政府との和解を見た。
現在の教皇はアルゼンチン出身のフランシスコ(在位:2013年 - )である。史上初のアメリカ大陸出身の教皇でありイエズス会出身の教皇である。先代の教皇のベネディクト16世(在位:2005年 - 2013年)はドイツ出身であり、先々代の教皇ヨハネ・パウロ2世(在位:1978年 - 2005年)はポーランド出身とイタリア人・イタリア以外の地域の出身の教皇が3代続いている。それ以前の非イタリア人の教皇の先例は、ドイツ人ともオランダ人ともいえるハドリアヌス6世の16世紀、非ヨーロッパ出身の先例はシリア出身のグレゴリウス3世まで遡る。
称号[編集]
「教皇年鑑」によれば現在、教皇に用いられる公式な称号には以下のようなものがある。
- キリストの代理人(ラテン語: Vicarius Christi)
- ローマ司教(ラテン語: Episcopus Romanus)
- 使徒のかしら(頭)の継承者(ラテン語: Successor principis apostolorum)
- 全世界のカトリック教会の統治者(ラテン語: Caput Universalis Ecclesiae)
- イタリア半島の首座司教(ラテン語: Primas Italiae)
- ローマ首都管区の大司教(ラテン語: Archiepiscopus et metropolitanus provinciae ecclesiasticae Romanae)
- バチカン市国の首長(ラテン語: Princeps sui iuris Civitatis Vaticanae)
- 神のしもべ(僕)のしもべ(ラテン語: Servus Servorum Dei)
バチカン年鑑2006年版からは、ローマ教皇の保持していたタイトル「西方の総大司教」(ラテン語: Patriarcha Occidentis)が「不正確で、歴史的にも時代遅れ」との教皇の指示で削除された。
ラテン語が公式言語である教会法の正文の中では、教皇は「Romanus Pontifex(ロマヌス・ポンティフェクス)」という名で表される。「Pontifex」は、古代ローマ時代の最高神祇官から引き継がれた名称である「Pontifex Maximus(ポンティフェクス・マクシムス)」の略称である。「Pāpa(パーパ)」という呼称は教皇に対する非公式な呼び方であり、ローマ教皇の他にもアレクサンドリア総主教に対しても用いられる(後述)が、「Pontifex」という称号は専らローマ教皇にのみ用いられる。公式な呼び方を全て挙げるなら、「ローマ司教、キリストの代理者、使徒の継承者、全カトリック教会の統治者、イタリア半島の首座司教、ローマ首都管区の大司教、バチカン市国の首長、神のしもべのしもべ」となる。このような長大な正式名称でよばれる機会はほとんどない。
教皇の署名は通常「教皇名○○、PP、○代」という形で行われる。たとえばパウロ6世なら「Paulus PP. VI」である。PPは Papa の略である。また、Pontifex Maximus の略号である「P.M.」あるいは「Pont.Max.」という称号が書き加えられることもある。回勅などの公式文書には正式に「教皇名、カトリック教会の司教 (Episcopus Ecclesiae Catholicae)」と署名される。
文頭にはよく「教皇名、司教にして神のしもべのしもべ (Episcopus Servus Servorum Dei)」という署名が書き込まれる。この形式は大教皇とよばれたグレゴリウス1世にまでさかのぼる古い呼び名である。そのほかの称号として「summus pontifex」、「sanctissimus pater」(至聖なる父)および「beatissimus pater」(もっとも祝福された父)、「sanctissimus dominus noster」(われらがもっとも聖なる君主)などがある。中世においては「dominus apostolicus」(使徒である君主)も使われ、現在でもラテン語の荘厳な連祷の中で、その格変化型である「dominum apostolicum」と呼ばれている。