技術者
技術者(ぎじゅつしゃ、英: engineer)は、専門の技術を備えるもしくは、工学に関する専門的な才能や技術を持った実践者のことである。
なお日本においては、名称独占資格である「技術士」英: Professional Engineer(プロフェッショナル・エンジニア)および「技能士」英: Technician(テクニシャン)と違って、名称独占資格ではなく明確な定義のない呼称でもある。
実際的に、スキルを持つものの呼び名として呼されるため、工学以外の技術・tech(テック)分野も含め広く用いられている。
技術者に対応する英語として、または同じ意味合いの外来語として、エンジニア (engineer) の呼称も用いられる。ただし、一般的な語の対応としては、「工学」が「エンジニアリング」で「技術」が「テクノロジ」であるため、どう対応あるいは同じなのかは微妙である。ウィキペディア日本語版では工学者の記事を、工学分野の研究者の記事としている。
また、日本以外の国においては「エンジニア」の称号には工学士の学位が必要とされるなど明確な制限がある場合が多く、日本語での「技術者」「エンジニア」は、こうした国においては別の職種とみなされる「テクニシャン」(技能者)に相当することも多いため注意が必要である。ただし、研究所によってはエンジニアの上位の者をテクニシャンと呼んだり、定型的な技能で作業をする者を「ラボラトリーエンジニア」と呼ぶ。
また別の類義語として「技師」や「技士」も存在するが、こちらは日本では役職名や資格名に用いられることが多い(例、臨床工学技士、臨床検査技師、診療放射線技師、施工管理技士)。
概説[編集]
技術者は製造業一般、サービス産業など製品やシステムなど、また農林水産分野など、モノやことを生み出される、生産が伴う、あるいはその逆に、モノやことを消す(有害物質の無害化など)あるいは廃棄物処理などといった言わば生産の逆工程など、あらゆる技術が必要な場面に、技術者は存在している。
通常、工学(機械工学、電子工学、情報工学、化学工学など)や理学(数学、物理学など)にまつわる知識について、知識だけではなくそれを実践できる能力を持ち、有用な物・工程・システムなどを設計・開発・製造する[要出典]。
20世紀後半以降、物のなかには具体的な実体をもつハードウェアだけでなく、コンピュータプログラムのようにして手順などといった形態で具体性をもつ「モノ」も含まれる(アルゴリズムの歴史としてよく挙げられるユークリッドの互除法のことを考えれば、20世紀後半よりは二千数百年程度以前からだが)。また、製造に限らず、製造されたものを正しく動作させるための運用・保守に関わる職種も(産業革命の時代の機械の運用者の頃、あるいはそれ以前の「エンジニア」の語義が「工兵」だった頃から)技術者に含まれる[要出典]。
各種の技術者[編集]
技術者は製造業一般、サービス産業など製品やシステムなど、また農林水産分野など、モノやことを生み出される、生産が伴うすべての産業に存在している。
電気工学分野に電気技術者、機械工学分野に機械技術者などと工学分野の数だけ分野ごとの技術者が存在し、自動車技術者、銃器設計者、情報技術者、鉄道技術者、土木技術者などとテクノロジー産業ごとに技術者が存在する。またそれぞれの分野ごとに、調査計画から分析、設計から製作や施工という一連の工程においてそれぞれ技術者が存在するほか、製品の品質管理、維持管理、製造のための設備保守、メンテナンス、ものの修理修繕および修復、施設の運営のためといった業務などに従事する技術者も数多い。
技術者の一例としてパンや菓子を製造する製パン・製菓技術者、被服分野の縫製技術者、洋服など仕立ての技術者[要出典]、ボウリングのドリラー、照明技術者、環境分析技術者、環境保全技術者、搭乗運用技術者、農業技術者、森林・林業技術者、食品製造に従事する食品技術者、和装式服のしみ抜き技術者、細菌検査技術者、レントゲン技術者、検品技術者、ビル管理技術者(建築物環境衛生管理技術者、ビル管理士、ビル管理者試験)などといった具合で様々である。
さらにはメカニック、そして汎用機オペレータ、CADオペレータなどの「オペレーター」やコンピュータ技術者としてシステム監査技術者、ソフトウェア開発者もソフトウェア技術者という技術者であるほか、コンピューター分野のプログラマー、デザイナーも、他に、ピアノ調律師、楽器製作者、PAミキサー、MAミキサーなど、さらに医療分野の義肢装具士、歯科技工士なども技術者と認識される[要出典]。
また、技術部門以外の接客業などにおいても「接客技術者」のように技術者という表現を使うケースがみられる 。
その他公務員として奉職する各種の技術者、例えば技術陸曹・海曹・空曹など特殊な任務を負う技術者も存在するほか、宇宙飛行関係者や宇宙飛行士、消防士、警察官(例えば交通管理分野の技術者)などでも、技術者の場合がある。
技術者の定義と実情[編集]
「技術者」という呼称に明確な定義は存在しないが、国語辞典『デジタル大辞泉』では技術者を「科学上の専門的な技術をもち、それを役立たせることを職業とする人。技術家」と記述している。
技術者に対応する英語としては「エンジニア」が用いられる。「エンジニア」は、直訳するとエン=拡大する・実践するの接頭語、ジーニア=才能ある人・閃く人の意で、エンジニアリングに対応する語句である。エンジニアリングが工学と翻訳されることからエンジニアを「工学者」とする場合もあるが、日本語においては「技術者=エンジニア」とされることが多い。
技術者と技能者[編集]
技術者に類似した概念に「技能者」がある。技能者とは、機械の組み立てや精密加工などの、ものづくりの実作業を担当する者を指す。専門知識を応用して成果を出すことは求められない反面、極めて高度な技能が要求されることから、伝統的な職人の概念に近い[要出典]。技能者の国家資格に技能士がある。ただし技術者は試作といった作業の必要性から、実質的に技能者であることを求められることもあり、優れた技術者は同時に優れた技能者であることが多い[要出典]。
技能者に対応する英語としては「テクニシャン」が用いられる。テクニシャンは、マニュアルなどにより定められた経験的な実務を行う職種で、新たな問題に挑むエンジニアとは明確に異なる職種とみなされる。エンジニアの指示のもと、エンジニアの補助や実務を行う人々と称されることもあり、例えばアメリカにおいてはエンジニアとテクニシャンでは給与体系も大きく異なり、エンジニアがテクニシャンの仕事をすることは通常ない。
またエンジニアとテクニシャンの中間のポジションとして「テクノロジスト」という職種も存在する。テクノロジストに対応する日本語の定訳は存在せず、日本においては技術者の一部とみなされている。
技術者と職階[編集]
企業の一部には、下記の技術者の職階を有することが多い(組織によって名称や階級は一部変わる。)。また旧内務省では、技師・主任技師(現行の技官に相当)という職階が存在していた。
一例として、所長(または工場長) 技師長(所長級技術者) 副所長(または副工場長) 主幹技師(部長級技術者) 主任技師(課長級技術者) 技師(係長級技術者)技師補 など。
組織に所属する技術者は、職場においては横断的に仕事をこなすため、明確な職名が存在しないことが多い。
技術者と科学者[編集]
ヨーロッパでは研究者の方が工学技術者より格上であるという風潮がある。これは、もともと貴族が趣味として自然科学を探求し、先導してきた歴史背景があるためと言われ、実際、応用技術より基礎研究に対する関心が強い[要出典]。 逆にこのような歴史的背景が存在しないアメリカでは、社会での実践を担う技術者(エンジニア)は大きな影響力を持つため地位が非常に高く、管理職(マネージャー)よりも重視される[要出典]。指導者的な役割を果たすことが期待され、最高経営責任者(CEO)の多くが技術者出身となっている[要出典]。国内では、学会と社会が断絶構造となっているため、社会的に科学者は名誉しか存在しない。また技術者は手先の器用な低級労働者として認知されている[要出典]。
近年では学者・研究者であると同時に技術的・実働的な作業も兼ねる現場派 の学者・研究者も増加してきている[要出典]。技術者は理論的・実験的アプローチにより事前に設定された目標を達成する製品の設計・製作などを目指し、科学者は実験などから得た事象を系統的に整理し、理論体系の構築を目指す。
技術者は、産業界(主に企業)において実用的な技術を担う職務を担う一方で、研究者と言った場合、実用性以前に実現性の有無すら未知の領域を探求する職務であり、技術者とは棲み分けがなされている。技術者は主に産業界に属しているが、研究者といった場合は必ずしも属する組織が限定されない[要出典]。これは産業界で必要とされる研究と学術界で価値のある研究にも差異があるためである。さらに企業における新製品の研究開発と言う場合は、研究者というより高度な技術者が必要とされる傾向が強い[要出典]。
学者と言った場合、企業ではなく大学などの学術・教育機関に属している研究者を指すことが多い[要出典]。これは、教育サービスを提供するがどうかも学者・研究者を区別する一つの基準であることを意味する[要出典]。
公的な学術機関の場合は、学者ではなく研究者と呼称される[要出典]。私企業の場合、基礎研究に近い事業に関わっている場合のみ、研究者と呼称される(例: 日亜化学工業 勤務時の中村修二)[要出典]。
日本の建設業における技術者[編集]
日本の建設業においては、技術者という語に法律上明確な定義が存在する。建設業法第26条における「建設工事の施工の技術上の管理をつかさどるもの」というのがそれである。
日本の建設業における技術者の職務は、建設業法第26条の3において、「当該建設工事の施工計画の作成、工程管理、品質管理その他の技術上の管理及び当該建設工事の施工に従事する者の技術上の指導監督」と定義されている。建設業法を所轄する国土交通省は、「技術者とは施工管理を行う者であり、直接的な作業は基本的には行わない」との見解を示している。