北斗の拳
『北斗の拳』(ほくとのけん)は、原作:武論尊、作画:原哲夫による日本の漫画作品、およびそれを原作・題材としたテレビアニメ・ゲームなどのメディアミックス作品。
作品解説[編集]
世界的な核戦争によって文明と人々の秩序が失われ、争いが繰り返されるという最終戦争後の199X年(20世紀末)が舞台。暴力が支配する弱肉強食の世界に現れた伝説の暗殺拳"北斗神拳"の伝承者・ケンシロウの生きざまを描くハードボイルドアクション。1980年代の『週刊少年ジャンプ』を代表する作品の一つであり、漫画家・原哲夫と漫画原作者・武論尊の最大のヒット作にして代表作でもある。初出版である連載版は『週刊少年ジャンプ』(集英社)1983年41号から1988年35号に掲載され、当時一大ブームを巻き起こした。
内容的には北斗神拳を使うケンシロウをはじめとした登場人物たちが様々な拳法を駆使して戦いながら織りなす宿命的な物語の他に、北斗神拳で(主に悪党の)人間の頭や胴体が破裂する描写「ひでぶ」「あべし」「たわば」などといった断末魔の叫びや悲鳴やケンシロウが相手に対して「お前はもう死んでいる。」と死を告げる際の決め台詞、「秘孔を突く」といった表現などが人気を博した。
アニメのタイトルにもなった「世紀末救世主伝説」はその後のメディアミックス全体で使われるようになっている。
連載当時の単行本は1984年から1989年まで出版されたジャンプ・コミックス全27巻。その後も様々な出版社から物理的な紙製の本のみならず様々な媒体で刊行され続けている(詳細は#書籍を参照)。2019年11月時点で単行本や文庫本、愛蔵版、究極版、完全版等の関連書籍全てを合わした全世界累計発行部数は1億部を突破している[信頼性要検証]。
また2019年の時点でのメディアミックス(全収益)は218億$(2兆9000億円以上)を超えており、全世界のコンテンツで歴代17位(日本のコンテンツでは歴代8位)に位置する大ヒット作品となっている。
2023年9月13日、北斗の拳生誕40周年を記念して完全新作アニメ『北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-』が制作されることが発表された。スタッフ・キャストは一新され、原作に忠実にアニメ化される予定。
登場人物[編集]
- ケンシロウ
- 主人公。北斗の末弟。一子相伝の暗殺拳・北斗神拳の正統伝承者。数々の強敵(とも)たちと死闘を繰り広げる。
- バット
- 第一部では少年。たまたま知り合ったケンシロウと旅を続け、出会いと別れが続く過酷な旅の同行者となる。
- 成長した第二部では帝都の圧政と戦う“北斗の軍”の若きリーダーになる。リンを愛しながらも見守り続け、その愛と幸福を守ろうと闘い続けた。終盤では記憶をなくした2人のためにボルゲと対峙する。
- リン
- 第一部では少女。ケンシロウに救われ、バットと共にケンシロウの戦いを目撃する。
- 第二部では美しい女性に成長。バットと共に“北斗の軍”の若きリーダーとなる。修羅の国では囚われの身となる。
- マミヤ
- 村を守るリーダーの女戦士。レイが愛した女性。終盤でも登場し、ボルゲと闘うバットの手助けをする。
- レイ
- 南斗水鳥拳の伝承者でケンシロウの仲間。南斗六聖拳の一人であり、宿星は「義星」。
- ラオウ
- 北斗の長兄。カイオウ、トキとは実の兄弟。世紀末覇王として乱世に天を掴むという野望を抱く。ケンシロウの宿命のライバルであり、最大の強敵。その影響力は非常に大きく、死後も回想シーンで登場し続ける。
- ユリア
- ケンシロウの婚約者。南斗聖拳の秘密に関わり様々な運命に遭遇する。南斗六聖拳の一人であり最後の将を務める。
- トキ
- 北斗の次兄でケンシロウの師兄。心優しい人格者で弟たちを庇い被爆。不治の病に冒され伝承者候補から外れる。再会後はケンシロウを導く。
- シン
- 北斗神拳と対を成す南斗聖拳、南斗孤鷲拳の伝承者。南斗六聖拳の一人であり、宿星は「殉星」。
- ヒョウ
- 第二の羅将でケンシロウの実兄。北斗宗家の嫡男で北斗琉拳の伝承者。最初はケンシロウと敵対するが、戦闘後に和解し仲間になる。彼との戦闘が原因で重傷になる。再会後はリンを救うために奔走した。
- カイオウ
- 第一の羅将でラオウ、トキの実兄。北斗神拳と対を成す北斗琉拳の伝承者。実力のみが全てという「修羅の国」を作り上げる。
『週刊少年ジャンプ』での連載の経緯[編集]
『週刊少年ジャンプ』編集者の堀江信彦は、自らの趣味であるモトクロスを題材にした漫画を執筆することを新人の原哲夫に勧めた。そこで生まれたのが原のデビュー作である『鉄のドンキホーテ』であるが、人気が振るわなかったことと堀江の「もっと大きな話が書ける」という判断から僅か10回で打ち切りとなった。次回作として原が熱望した中国拳法のアイディアを元に、『北斗の拳』の原型となる読み切り作品「北斗の拳」「北斗の拳II」が『フレッシュジャンプ』1983年4月号と6月号に掲載された。両作品共に読者アンケート1位を獲得。巻末作品がアンケート1位を取るという事態を受け、西村繁男編集長の承認を経て本誌である『週刊少年ジャンプ』での連載が決定した。
読み切り版「北斗の拳」は、主人公霞拳四郎が北斗神拳で恋人ユキを殺した悪と闘うというもので、時代設定は現代である。秘孔や北斗七星などの要素はこの時から採用されており、「お前はもう死んでいる」の原型となった「あんたもう死んでるよ」という台詞も登場する。原はこの「お前はもう死んでいる」を堀江の発案としている。『週刊少年ジャンプ』での連載にあたり、時代設定は核戦争後の近未来となり、奪われた恋人を探す設定となった。読み切り版「北斗の拳」は『鉄のドンキホーテ』単行本巻末に収録されている。
週刊連載にあたり、原哲夫の「作画に時間が掛かるため、1人で週刊連載はできない」との意を汲み、堀江は原作者として候補の中から武論尊を起用。武論尊が「現代劇では無理、今の高校生のままでは俺は書けない」「肉体的・拳法の強さを出すには近代兵器が無い方がいい、武器のない時代にしよう」と提案したことで、核戦争後の世紀末を舞台とした作品となった。以降、武論尊の原作をベースに3人でストーリーを作る制作体制が確立し、堀江はストーリー制作に関与するため連載終了まで担当編集者を務め、連載中は原と武論尊はほとんど会うことなく堀江が仲介者として調整する方式となった。本作の最終回には原哲夫や武論尊と同等の扱いで堀江の名前がクレジットされている。武論尊のストーリー作りは即興的で伏線の張り方も直感頼りであり、武論尊は「当時はよく先の展開が分からないと言われたけど当然だよね。だって作者が分かってないもの」と冗談交じりに語っている。これには「先の展開をあまり決めずに読者の反応を見ながらストーリーを作る」という当時のジャンプ編集部の方針もあった。
『週刊少年ジャンプ』での読者アンケートでは初回で2位を獲得。2回目以降は3年間にわたり1位を維持する人気作品となり、落ち込み傾向にあった『ジャンプ』を救う看板作品となった。一方で褒められると調子に乗る原の性格を考慮した堀江は、連載中にこれらの投票結果を原に一切伝えなかった。ラブコメ路線で30万部差までに追撃していた『週刊少年サンデー』を突き放し、1984年末に『ジャンプ』が400万部を達成。後の600万部体制の足がかりとなった。これについて西村は、書籍『さらば、わが青春の「少年ジャンプ」』において、「サンデーのラブコメ路線を北斗の一撃が粉砕した。これにより、他誌の人気ジャンルには正反対のジャンルの作品をぶつけるというパターンができた」と語っている。
武論尊と原は後述するケンシロウとラオウとの闘いの決着をもって物語を完結させる意向だったが、当時の『ジャンプ』編集部の業務命令(この時点の編集長は後藤広喜)により連載は延長される。武論尊はラオウの死後、新展開の構想のため2ヶ月間は休載できると思っていたが、実際には翌週から開始せねばならず、連載終了後は「ラオウ編以降はあまり覚えていない」と発言している。