中学受験
中学受験(ちゅうがくじゅけん)とは、中学校の入学試験を受験することである。特にこの試験を中学入試(ちゅうがくにゅうし)・中受(ちゅうじゅ)という。
日本においては、中学校とは、戦前は優秀な男子のみが進学する道であった。戦後の新制中学校は義務教育となり、入試を課す中学校を受験することで、選抜試験に合格するための準備が必要となる点で、戦前とは位置付けが異なる。
1998年(平成10年)6月の学校教育法改正により、中等教育学校の設置が認められ、中高一貫教育校の併設型・連携型が認められ、小学校を卒業見込みの者が受験できる入試は広がってきている。
本記事では狭義の中学校のみならず、広く前期中等教育の学校(中学校・中等教育学校前期課程・特別支援学校中学部など)の入学試験について取り上げ、特に断らない限り「中学校(等)」・「前期中等教育(の学校)」という表記は前掲の全てを含む。同様に「私立中学(等)」という表記は選抜制でない公立中学以外の全てを含む。
概要[編集]
中学受験の歴史は、近代教育制度である学制を導入した明治以降に始まる。明治末期の小学校の就学率は98%であるが、当時の義務教育は小学校までであり、官立の上級学校に進学できるのは富国強兵を支えうる優秀な男子のみで、少数であった。
大正に入ると、第一次世界大戦による国内好況で、富裕層が多くいる都市部で、中学への進学希望者が増加していく。
この頃に創立された公立校や私立校は多くあるが、進学希望者が増えても定員は急に増えるわけではないため、競争は鮮烈を極めた。先述の通り、義務教育は小学校までなので、浪人生がいた。1919年の中学合格者は、現役よりも浪人の方が多かったという。家庭教師をつけ、睡眠時間を削りながら一日のほとんどを勉強に費やす児童も少なくなかったという。
高等小学校は浪人生の受け入れ先としても機能していた。
1927年と1939年、文部省(当時)は、中学入試における学科試験を禁止し、代わりに小学校からの報告書、人物考査、身体検査によって選抜を行うよう通達、指示している。
戦時中は、物資や人手が不足し、筆記受験は行われず面接や作文のみで合否を判断する場合もあった。
戦前から戦後にかけて、旧制中学校のうち公立は多くは共学の新制高等学校となり、私学は、男子校・女子校の男女別学の形態を現在に至るまで継承した学校が多い。ミッションスクールの多くもその一例である。都市部の特に港町にキリスト教のミッション系女子校が多いのはそのためである。2020年3月現在、東京の私立女子中学校の9割近くは、戦前に創立されている。
戦後、富裕層が多い東京、阪神間では戦前とは比にならない中学受験ブームとなり、後述する御三家や国立大学附属中、早慶や関関同立の附属中が難関校となる。
全国の公立高校入試で総合選抜や学校群制度が敷かれ、実力があっても第一志望の公立高校には必ずしも入れないことに失望した受験生・家庭は、私学を目指した。これが現在の中学受験の基となる。
難関国立大学への合格実績における国私立中高一貫校の台頭と、中学受験の受験者数の増加および難化は強い正の相関があるといえる。
1998年(平成10年)6月、学校教育法が改正され、中等教育学校の設置、中高一貫教育校の併設型・連携型が認められるようになる。これにより、国公私立問わず、中学・高校課程を制度上弾力的に取り扱うことができるようになり、公立高校の制度上の中高一貫化が始まり出した。
出願資格[編集]
年齢[編集]
日本において、義務教育課程である中学校またはそれに相当する学校(中学校、中等教育学校前期課程、特別支援学校中学部など)に入学するには、通例、初等教育の課程(小学校、義務教育学校、特別支援学校小学部など)を修了する必要がある。したがって、日本では学齢により、初等教育課程を修了し、前期中等教育課程に入学する者は満12歳以上である。
法制度上は、12歳を越える年齢の者や既卒者の入学が禁止されているわけではない。
しかしながら、中学校の昼間課程においては、実際には、年齢に上限を設けたり、過年度卒業生の入学を認めていない場合がほとんどである。
ただし、帰国子女の場合は各国間で学校制度に違い(年度のずれなど)があることから、日本国内からの受験生とは異なり、ある程度年齢に幅を持たせて募集している場合もある。
中学校の夜間課程・中学校の通信教育においては、逆に生徒のほとんどが学齢超過者である(詳しくは「過年度生」を参照)。
性別[編集]
1947年(昭和22年)の教育基本法で推奨されてきた男女共学は、その使命は十分に果たされたとして、2006年(平成18年)の法改正で削除されることとなった。現在、国立と私立のそれぞれ中学校で男女別学の学校が存在する。
国立で男女別学の中学校は、男子校の筑波大学附属駒場中学校のみである。(お茶の水女子大学附属中学校、奈良女子大学附属中等教育学校は共学)
全国の私立中学校で、男女別学の学校は、戦前から続く学校が多い。ミッションスクールの特に女子校もその一例である。これは、学制改革で公立の旧制中学校の多くは共学になった(ただし、埼玉県、群馬県、栃木県は男女別学を受け継いでいる)のに対し、私学は、5年制である旧制中学校を6年制である中高一貫校にし、形態を継承したからである。ただし、21世紀に入って、西日本では私立男子進学校の共学化が見られ、女子校の共学化は首都圏などで見られる。
学区[編集]
学校側が体力や時間の負担を考え、中学では学区を設けたり、通学時間を制限する(例えば新幹線通学などの遠距離通学を認めない)場合がある。国立中学校には多い。下宿については、中高一貫校においては高校生なら下宿を認めるが、中学は不可の場合が多い。
完全小中一貫校[編集]
完全小中一貫校へは、当然入学できない。そのような例は多くないが、例えば、田園調布雙葉中学校、聖心女子学院中等科は完全小中一貫校である。また、義務教育学校の場合も、第7学年時への編入を認めていない場合が多い。
学校側の指針への理解[編集]
加えて、学校側の指針への理解が特に求められる場合がある。例えば、国立大学教育学部附属中学の場合、教員・学生への教育研究協力への使命、私学ではキリスト教、仏教などの宗教教育への理解である。
また、学校の広告への協力、併設の高校に内部進学すること(特に、中等教育学校、中高一貫教育校)、大学進学希望を前提とすることなども挙げられる。
中学受験の現状[編集]
中学受験が盛んな地域は、首都圏、京阪神をはじめとする都市圏である。
国立中学は、各都道府県に分散している。対して私立中学は、2023年度時点では、日本に781校あるうち、首都圏では東京都187校、神奈川県63校、埼玉県31校、千葉県25校と1都3県で306校と全体の39%を占める。京阪神では大阪府60校、兵庫県43校、京都府26校と2府1県で129校に上り、全体の17%を占めている。
そのため、中学受験に対する情報量には地域によって差がある。都市部では小学生の半数以上が中学受験する地域もあれば、郊外などで皆無やそれに近い地域がある。地域によっては小学生の大部分が国私立中へ進学するため、地域の公立中学が大幅な定員割れを起こす地域もある。また、そもそも中学受験という選択肢自体を知らない人が大半という地域も多い。
中学校は義務教育であり、小学校では、一部の私立小を除き、中学受験を前提にしていないカリキュラムが組まれる。そのため、一般には、塾や個別指導なしに有力な中学校に合格するのは無理といわれており、進学後の学費だけでなく塾や個別指導の学費も必要である。
したがって、中学受験は、教育の機会均等を奪っているのではという指摘もある。
質の高い小学生が中学受験で他地域の中学へ流れ、無試験である地域の公立中学校の質の低下を見たときに、いっそう中学受験が過熱するのではという指摘もある。
1999年度より、全国の一部の公立高校で附属中学を設置したり、中等教育学校に改組する学校も出てきた。公立中では「学力検査を行わない」としており、入試に当たるものは「適性検査」・作文・面接など、受験に当たるものは「受検」としている。出題内容・形式は科目横断型、記述式であり、知識の暗記を積み重ねなければ対応できないものではないという、国私立中の従来の入試とは大きく異なるのが特徴である。一見機会均等に見えるが、難関私立中学に合格する程度の学力が必要との指摘もある。入試倍率が10倍を超える公立中高一貫校もある。
公立中高一貫校の数は、地方自治体の取り組みや方針によって差がある。
地域ごとの中受率[編集]
首都圏・京阪神をはじめとする都市部の中でも、地域によって中受率に差がある。
私立中学在籍率は、全国では7.8%であるが、首都圏では東京都は25.8%、神奈川県は11.2%、近郊では千葉県6.8%、埼玉県5.3%である。富山県は0.8%で圧倒的な格差がある。
さらに首都圏でも、郊外、下町では少ない。私立中学進学率は、2022年度では、文京区49.5%に対し江戸川区11.5%と大きな差がある。また、都心・山の手では、付属小学校からの内部進学も多い。
西日本の一部では首都圏・京阪神並みに中学受験が盛んである。高知県18.4%、広島県10.3%となっている。
東北・北陸では中学受験ができる学校は少なく、必然的に中受率も低くなる。2013年度以降、秋田、山形には生徒募集している私立中学校はない。
御三家[編集]
戦前[編集]
戦前では、高等学校(旧制)の中でも一高への合格者数の高さが中学入試での人気・難度の高さにもなった。高等教育校に進学できるのは男子に限られたため、進学校とは、当然男子校に限られた。当時の一高合格者数の上位は、官立のそれも「一中」など若い番号のナンバースクールであった(第一高等学校 (旧制)#一高生の出身校を参照)。その中でも、東京府立第一中、愛知県立第一中、兵庫県立第一神戸中は「一中御三家」と呼ばれていた(御三家#教育機関を参照)。
明治以来、公立よりも私立を優先するという歴史は、富裕層が多くいた東京と阪神間で始まった。私立の上位3校を称した「私立御三家」は開成中学、麻布中学、芝中学である。武蔵は戦前から公立に次ぐとされたが、当時は7年制高等学校であった。東京帝大への合格率では一高を上回ることもあったという(武蔵高等学校 (旧制)#設立と発展を参照)。
戦後[編集]
戦後すぐは、新制東京大学合格者数において、戦前の公立旧制中学校が改組した公立高校が上位を占め、共学化して校名が変わった以外は戦前とあまり変わらなかった。
しかし、全国の公立高校で総合選抜、学校群制度が導入された1960年代後半以降、東大合格者数で私立中高一貫校が台頭し始める。その頃から、開成、麻布、武蔵が「東京男子御三家」と呼ばれるようになる。
神奈川の男子校においては、栄光学園が、1980年〜1990年代の神奈川県公立高校の学区細分化により、県有数の進学校であった湘南高校を凌いだ。それに次ぐ進学校として、聖光学院がある。1990年代前半までは、マンモス校である桐蔭学園が台頭していたが、2000年以降、もともと実績のあった浅野が伸長し、桐蔭学園に代わって「神奈川男子御三家」と呼ばれるようになる。
関西においては、1980年代後半から2000年代前半まで、東大・京大合格者数が多い灘、甲陽、東大寺、洛星、大阪星光学院、洛南が6強と呼ばれていた。2000年代後半以降、東大・京大合格者数の漸増減、高校募集の停止、洛南の共学化により、6校で括るのが難しくなってきている。
西日本においては、関西の難関中学に落ちた者が、寮を設置している西日本の中学を受験し始めた。その結果、西日本の寮を設置しているラ・サール、愛光が台頭し始め、灘と合わせて「西の御三家」と呼ばれるようになる。
東京の女子校においては、日本人の女性のみの手で創設された桜蔭、日本で最初に創設されたミッションスクールである女子学院、外国人として初めて来日したシスターによる雙葉が進学実績、入試難度で上昇し「東京女子御三家」と呼ばれるようになる。神奈川ではフェリス、横浜雙葉、横浜共立学園が「神奈川女子御三家」と呼ばれるようになる。
全国の私立進学校は20世紀後半まで男子校が多く、成績上位の女子は公立高校に進学するしかなかった。2000年代以降、私立男子進学校の共学化が、少子化にあえぐ西日本で始まった。
九州においては、青雲、久留米大附設が共学となり、合格実績が上昇した。ラ・サールと併せて「九州私立御三家」と呼ばれるようになる。
進学校の大学合格実績は、成績上位の入学者数で変化する。合格実績によって括りが変わることもある。21世紀以降は旧帝大合格者数や率だけが上位の進学校であることを示す指標でもなくなってきている。例えば、国公立大医学部や海外大学への合格者数・率である。合格者数が下がっても、それまでの伝統かつ質のある教育を評価し、御三家に称されることがある。
1990年代末の制度改正以降、公立高校が附属中学を設置し、中高一貫教育を開始したり(最初は1999年の岡山市立岡山後楽館中学校・高等学校)、中等教育学校に改組する学校(最初は1999年宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校)が現れたりしている。
合格への準備[編集]
入試の偏差値[編集]
入試の難易度を表す指標として、これまでに批判も受けつつも学力偏差値が便利である。大手の学習塾では公開模試により広く大きい母集団から各学校の偏差値を割り出している。例えば、SAPIX小学部や四谷大塚、日能研、あるいは中小の学習塾の連合である首都圏模試センターである。これは学校が発表するものではない。定員が男女ごとに決まっている場合も多いため、偏差値は男女別で表示される。
京阪神では各学習塾が個別に模試を行うことが多く、複数の塾が開催するのは関西統一模試など少数である。また、関西だけは、社会を除く3科型または4科との選択が挙げられる。
日本の私立中学在籍率は、2023年の時点で8%弱でかなり少数精鋭の集団であるため、偏差値が例えば50でも、中学受験のそれと高校受験のそれでは指標はかなり異なる。
合格可能性の見定め[編集]
自分が合格する確率を見定めるには、以下の情報が必要である。
- 学校の形態や方針(国立・私立・公立、共学・男子校・女子校、併設学校への内部進学制度、進学校・附属校、宗教系校か、寄付金の多寡・有無)
- 入試日程や募集要項の変更の有無
- 学校説明会で説明された内容
- 文化祭、運動会、オープンスクールなどの公開行事の様子
- 学校の昨年度の合格実績、大きなニュースの有無
- 競合しうる他校の動向
- 模試の判定
- 過去問の傾向と自分の相性
学習塾による模試の結果は、独自に集計されたデータやアンケートなどを元に概算の値が算出される。
複数回の入試を設けている学校では、複数回受験すると点数を加算する学校と一切考慮しない学校がある。
また、両親や親戚、兄弟姉妹で同校出身の者がいれば加算する学校もある。
中学受験の利点と問題点[編集]
心身が発達の段階である小学生が、自律・自立して自身の努力だけで学習し、希望の中学校に合格するのは、並大抵のことではない。保護者や家族の協力が不可欠である。加えて、学費、時間を割いて塾、家庭教師の利用がほとんどである。
選抜試験を経た中学校に進学することで、質の良い教育、質の良い級友に恵まれることができる。ここでは、中学受験の利点と問題点を挙げてみる。
利点[編集]
学習課程[編集]
- 学力などで選抜されて入学した者しかいないため、自分の段階に合った教育課程の内容が期待できる。
- 中高一貫校においては、6年間で学びを俯瞰することができ、先取り学習、中学課程と高校課程の内容の重複を取り払うことができる。その結果、大学入試に有利である。多くの私立中高一貫校では、5年間で中学課程と高校課程の内容を修了し、最後の1年間を大学受験の学習に当てている。
- 希望して入学した者しかいない。志向を共有できる級友に恵まれる。
- 中高一貫校では、高校入試をしなくてよい。
- 私立大学附属校では、大学入試もしなくてよい。受験勉強にとらわれない真の学習ができる。
- 私立では、宗教教育を受けることができる。
部活動[編集]
- 施設が充実している所がめずらしくない。
- 中高一貫校では、高校受験に時間を取られず、中学と高校の部活動が一体となって運営でき、5年間で打ち込むことができる。
進路[編集]
- 私立大学附属校では、大学までエスカレーターで進学できるため、大学に入って行いたい研究内容を視野に入れて中学高校を過ごすことができる。
問題点[編集]
入学前[編集]
- 学習が競争原理に晒されるため、短期間で成果を出すことが求められる。
- 受験ストレスが心を不安定にし、また学校を息抜きの場と見て、荒れた行動を起こす。
- 受験勉強に時間を取られ、運動、稽古、趣味、睡眠に多くの時間を割くことはできない。
- 受身の学習が保護者や学習指導者に放置されると、自分から学ぶ態度と意欲が遅れる。
- 入試に優れただけでは、中学以降の課程において優れるとは限らないことを認識させる必要がある。
入学後[編集]
- 選抜試験を経ない公立中学と違い、家庭環境や境遇が似た者同士の集団に所属し、進路志向が大きく異なる同級生と学校で会うことがない。
- 地域の同級生と異なる中学校に進学する。
- 中高一貫校の場合、高校入試がないため、中だるみが起こりうる。
- ほとんどの場合、近隣の公立より通学時間がかかる。
- 学校の方針に極端に合わないと感じた場合、転校しなければならない。
- 私立では、学費が国公立より高い。
- 男女別学の場合、同年代の異性と交流する機会が少ない。
- 中高一貫校で系列以外の高校に進みたい場合、同級生と異なり自分で高校受験対策をしなければいけない。
入試日程[編集]
受験日[編集]
私立中入試においては、各都道府県の私学協会で入試解禁日を設けている。私立中の帰国入試は通常、解禁日以前の早期に実施されている。
首都圏などの都市部では、私立中の入試解禁日は曜日に関係なく設定されている。首都圏の場合、埼玉県…1月10日、千葉県…1月20日、東京都・神奈川県…2月1日となっている。埼玉・千葉の私立中入試には首都圏一円の受験生が腕試しに受験する。
入試形態の多様化などにより、入試を複数回実施している私立中学校が多い。現在入試回数が1回の学校は、国公立中、私立の難関校または伝統校などに限られている。
いわゆる御三家はすべて2月1日のみに入試を実施している。したがって、御三家を併願することはできない。ただし、2月1日が日曜日の年は、ミッションスクールで試験を翌日の月曜日に設定する学校がある。これは日曜礼拝との重複を避けるためである。これを「サンデーショック」という。サンデーショックの年は、1日校は集中するが、2日校は集中と分散がある。
また、21世紀初頭から、午後入試を実施する学校が現れ始めた。午後入試では2科目入試も多く、また、2010年代末に算数1科目入試を午後入試で実施する学校も現れ始めた。
合格発表[編集]
通常、公立中高一貫校を除く国私立中は、最大で2日後、早い学校は当日の夜に発表する。
発表の形式は、近年では、校内掲示板またはインターネットの専用ページで発表する学校がほとんどである。かつては、発表日の所定時間にFAX、電子メール、レタックス、電報にて個別送信する学校もあった。
2020年3月以降の新型コロナウイルスの流行を受けて、合格発表を伝統的に校内掲示としていた学校も、人の殺到を避けるため、インターネットでの発表も行うようになってきている。
合格者全員が入学するわけではないため、過年度のデータを基に、若干多めに発表される。見込んだ人員以上に辞退者が出た場合、繰り上げ合格者を出すことがある。それにより入学手続済みの学校で新たな辞退者を生み、順次波及して年度末の一定期日まで繰り上がり合格者を出していくことがある。
逆に、入学辞退者が見込みより少なかった場合、学級数増で対応し、次年度募集人員を減らす形で翌年の受験に影響することがある。
入学手続[編集]
合格発表後、学校側が定めた一定の期間で合格者からの入学手続きが行われる。難関校や名門校とされる学校の中には、受付期間を短く設定しているものもあり、中には受付が1日限りで終了する学校もある。逆に合格者の併願校の合否を待つため、長期間や二段階で入学受付を行うところもある。
手続きは合格証書他、手続き書類一式を受け取る。多くの場合、入学金とその他初期費用を学校または指定の金融機関の口座に事前に納付しておき、必要書類と納付済書を提出して入学への手続きは完了する。入学手続きそのものは学校の受付窓口、事務所、郵送など学校ごとに異なる。併願している学校がある受験者については、まず一時金を納め、その後の合格発表の日程に合わせて残金延納可としているところもある。
合格発表日と入学手続開始日が異なることも多く、この場合、入学手続き用書類の受取期限に注意を要する。受取期限を過ぎても受領しなかったり、手続き期間ても入学の手続きを済ませなかった合格者は自動的に入学辞退として扱われ、定員に対して空きが発生した場合には補欠合格者に繰り上げ合格の通知が行われる。
学校で手続きを行う場合は併せて入学式までの日程の案内が行われることも多いが、これとは別に3月中に事前登校日を設定して入学予定者を召集する学校も多い。また、入学手続きの際や事前登校日には、制服の採寸を行ったり、学校生活やカリキュラムについての説明が行われることもある。特に名門校や伝統校の場合には、別途保護者を集めて学校関係者との事前の懇談会が行われることもある。また保護者に対しては生徒を狙った学習塾などの勧誘や寄付金詐欺などに対する注意をしたり、幼稚園受験や小学校受験などと同様にほかの保護者への対応の心得などの説明を行ったり、これらをまとめた冊子が配布される場合もある。
なお、他校への入学が決まった場合、入学手続き後であっても辞退を申し出ることはできる。受付期間後に生じた繰り上げ合格者については学校側の都合であるので別途受付を行う。
出題範囲と内容[編集]
国公立中学校は、小学校課程を超えない範囲で出題しなければいけない。 私立中学校では、小学生の言葉で誘導することで、事実上中学課程以上の内容が出題されていることが多く見られる。
公立小学校の学習のみで難関中学校の入学試験に合格するのは事実上不可能に近い。
科目・配点[編集]
4科目入試が主流であるが、2科目入試の学校も一部見られる。ただし、関西は社会を除く3科目入試が主流である。
4科目の配点は、4科目均等である学校(一部の国立中学、慶應普通部、女子学院、鷗友、頌栄、鎌倉女学院、市川、東大寺、東海、南山、西南学院、片山学園など)は少なく、また100点満点ではない学校も多く、科目ごとの配点は学校によってまちまちである。
また、下記の学力以外の要素を判定に加味する学校もある。一部の国立中学や私立中学では体育、図工、音楽などを課している。
公立中高一貫校との併願を想定した、「適性検査型入試」を実施する私立中学が2010年以降増え始めており、その名称は学校ごとに様々である。
国語[編集]
国語は漢字、語法、ことわざなどの基礎的な国語力を問われるほか、読解力を見る長文読解問題が出題される。アドミッションポリシー(どんな生徒に入学して欲しいか)を伝えやすい科目であることから、工夫を凝らした出題をする学校が見受けられる。
近年、有名作家の文を使用した入試問題をそのままウェブサイトや過去問集に掲載したとして、複数の会社の出版物などが問題となった。
- 文法
- 漢字
- 四字熟語
- 文節
- ことわざ
- 外来語
- 長文読解(説明文、論説文、物語文、随筆文、韻文の出題率が非常に高い)
- 指示語
- 接続詞
- 記号選択
- 抜き出し
- 記述問題(10字ほどに簡単にまとめる記述から、200字以上の作文まで非常に幅広い)
算数[編集]
算数は点数の差がつきやすいことが多く、そのため難度の点でも話題に上ることが多い。出題形式は大むね、問題数が多く、正確さとスピードが重視されるタイプの学校と、3~6題程度の応用問題のみ出題する学校とに分かれる。
文章題では、方程式だけに頼らず、単元に固有の性質に着目して解くことが求められる。小学校では方程式を習わないため、方程式だけを使おうとすると、文字数や等式が多くなったり、立式が困難になる問題がほとんどである。
- 計算問題
- 四則混合、逆算
- 単位の換算
- 虫食い算
- 論理的思考・場合分けが問われ、難問もある。
- 覆面算(同じラベル(文字や記号)には同じ数字が入る)
- 小町算もどき
- 小町算とは、123456789の数字に四則などの演算記号やかっこを挿入して計算結果が100(99という説もある)になる計算式を作る問題。
- 小町算は、小野小町が、言い寄って百夜通いをしていた深草少将の死を悼んで考え出した計算といわれる。
- 挿話の出典は世阿弥の浄瑠璃による架空のものであるとする説がある。
- 転じて、いくつかの数字に演算記号やかっこを挿入して与えられた数にする問題を小町算と称する、あるいは区別して、小町算もどきと称する。
- 魔方陣
- n×n個の小正方形に、縦・横・対角線の列内の和が互いに等しくなるように数を入れる。また、対角線については仮定しないものや、和でなく積とするといった変則的な問題もある。
- 魔方陣もどきもある。例えば、いくつかの互いに交わる円があり、その円周や交点に書かれた空欄に、各円周上に並ぶ数の和が互いに等しくなるように埋める問題である。形状はさまざまのものがある。
- 約束記号
- 四則混合に加えて、ガウス記号が挙げられる。
- うるう年に関する問題
- 数論
- 約数・倍数に関する問題
- 3数以上の最大公約数 (GCD)、最小公倍数 (LCM) には、素因数分解が有効である。
- ユークリッドの互除法(数が大きく素因数分解が困難な場合に使う)
- オイラー関数は、証明が容易ではないが、検算用に利用できる。
- ルジャンドルの公式:自然数 n の階乗が素数 p で割り切れる回数を求める問題。
- 求める回数は、n 以下の自然数が p で割り切れる回数の合計である。
- 1. を分布にしたとき行ごとに数えることにより、n から p で割った商と余りを求めることを繰り返していったときの商の総和に等しい。
- 問われているのが「割り切れなくなるのは何回目か」だと(上記の回数+1)となり注意が必要である。
- 応用問題として
- 階乗を十進法表示したとき、末尾に続く0は何個か
- 合成数では何回まで割り切れるか
- 階乗でなく任意の自然数から掛けた場合だと何回か
- などがある。
- 商・余りに関する問題
- 1次不定方程式
- 特定の整数の特別の性質について解く問題
- 西暦の数字など
- 位取り記数法
- 0なし位取り記数法(「繰り上がって0」にだけならない)
- カードのシャッフル
- カードの束を枚数の等しい2組に分け、一定の規則で並べ直すときの、カードの配置を問う問題。
- 位置番号の置換をとらえる。
- 中学入試では1982年に麻布中に出たものが初出とされる。2002年に東京大学で出たことを受けて、2004年から中学入試に再浮上してきた。
- ままこ立て
- 継母の子と先妻の子を混ぜて輪状に並ばせ、10人ごとに取り除いて最後に残った者を後継者にするというもので、最後に残るのは誰かを問う問題。
- 江戸時代の塵劫記、鎌倉時代の徒然草に出ている。室町時代の書にも、西行が源頼朝からもらった猫の置物を道すがら遊んでいた子に与えるのに、子たちを環に並べて、いくつかずつに数えながら順次環から出して最後に残った子に与えたという風聞が載っているが出典は特定できない。
- 西洋ではヨセフスの問題ともいわれている。
- 2009年に開成中で出題されて以来、他の中学校でも出題されている。
- 中学入試では「輪状に並べた番号を1つおきに除く」、「1列に並べた番号を端から1枚ずつ、除く、他端に置くを交互に繰り返す」の2形態があり、最後に残る番号が問われる。
- 最初を「除く」か「残す」かで2タイプある。
- 約数・倍数に関する問題
- 数と規則性(数列、数表)
- 階差数列
- 漸化式
- 等差数列
- 等比数列
- 図形数
- 三角数(=1から連続する自然数の総和)
- 四角数(=1から連続する奇数の総和)
- 連続する2つの三角数の和に等しくなる。
- 五角数、矩形数、三角錐数など
- 群数列
- 数表
- フィボナッチ数列
- 自分の値が前の2項の和に等しい数列のことである。
- 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144, 233, …
- レオナルド・フィボナッチが自著『算盤の書』でうさぎの増え方を例にとり説明している。生物が増えていくときのさまざまな場面でこの数列が見られることが知られている。
- 中学入試では、次の形態で出題される。
- フィボナッチ数列の性質そのもの(項や番号、偶奇性など)について問うもの
- うさぎ算 - しばらくして自己増殖していくもの(うさぎのつがい、微生物など)の個数
- 一辺が2の長方形を1×2の長方形で充填する場合の数
- 階段上り - 階段を1段か1段飛ばして2段ずつ上る場合の数。発展問題として、最近1, 2, 3段の3種を混ぜてよいとする問題も出始めた。これはトリボナッチ数列を使う。
- 連絡網の伝わる時間 - 現在ではあまり行われなくなった転送方法。かかる人数は、1人のノルマ人数が2だとフィボナッチ数列、3だとトリボナッチ数列となる。
- パスカルの三角形
- 文章題
- 和や差、周期に着目して解く問題
- 植木算
- 和差算
- 周期算
- 鶴亀算・平均算
- 過不足算・差集め算
- 年齢算
- 割合を求める問題
- 相当算・還元算
- 分配算
- 消去算
- 割合に関する問題
- 割合についての条件は、はじき図、面積図、てんびん図などでまとめると分かりやすくなる。
- 濃度算
- 損益算
- 仕事算
- 帰一算
- 和や差、周期に着目して解く問題
- 速さに関する問題
- 変速に関する問題
- 速さと比
- 速さの平均(→往復なら調和平均になる)
- 峠・坂・平地の往復
- 旅人算
- 直線運動・往復運動・周回運動
- 通過算
- 流水算
- 時計算
- ニュートン算
- 動く歩道、エスカレーター
- 3人旅人算
- これらの混合問題
- 場合の数
- 和の法則・積の法則
- 順列・組合せ
- 「しきり」の利用
- 経路の数
- カタラン数
- 分割数
- ペントミノなどの図形の種類、配置
- 平面図形
- 特殊角の性質
- 図形の折り返し
- 三角形の相似
- 三角形の面積比
- 等高三角形・等底三角形の面積比
- 等角三角形・補角三角形の面積比
- ベンツ切り - 三角形を3個の小三角形に分割し、それらの面積比を求める。これにより、本来は小学校の範囲外であるメネラウスの定理、チェバの定理を使わずに線分比、面積比を求めることができる。
- 動点問題
- 図形の移動
- センターラインの公式
- パップス=ギュルダンの定理の2次元版である。
- 線分が滑らかに移動し、通過領域が重ならなければ、その通過面積は、中点が描く長さ(「センターライン」)と直径の積に等しい。
- 空間内でも成り立つ。(応用例:円錐台の側面積)
- 証明には、大学課程の極限が必要である。
- 転がる円の中心が描く長さが分かれば、円の通過面積はこれにより容易に求まる。
- 移動が滑らかでなくても、区分的に滑らかなら、区分ごとに適用できる。
- センターラインの公式
- 立体図形
- ブロックの積み上げ
- 立体のくり抜き
- 立体の切断
- 回転体
- 影の長さ、面積、体積
- 水の問題
- 給水・排水
- 水槽に立体を沈める問題
理科[編集]
理科は、知識を問うもの、実験を要約・考察させるもの、論理や計算により答えを求めさせるもの、などからなる。どの分野が出題されるかは、学校、年によってまちまちである。
パターン問題からなるセットに加えて、誘導文から答えを探す・推測するセット、計算問題の比重が多いセットがある。比較的文章が長いセット、1つのテーマに沿って話を展開するセット、配られた物を考察する問題、自分の意見を問う問題、といったユニークな出題をする学校もある。
理科系の時事が問われることも多い。誘導文により中学課程以上の話題を展開する場合も多く見られ、範囲は多岐にわたる。そのため、用語、結果、解法を覚えるだけでなく、因果関係の筋道を立てられるようにすることが、未知の問題を解く鍵となる。
理科でも社会(地理など)、国語(文学作品など)の内容から出題された事例がある。
社会[編集]
社会は地理・歴史・公民から出題される。時事問題の出題が多く、四谷大塚の調査では、時事問題を出題する中学は8割にも上り、年々増加傾向にあるといえる。
地理・歴史の、複合的な出題が見受けられる。例えば、地理の問題からそこを舞台とした歴史を問い、さらに現在の社会の仕組みと結びつける、などである。
英語[編集]
かつては、私立中学の帰国入試で英語を取り入れる場合があったが、2014年から一般入試でも試験科目に英語を取り入れる学校が出てきた。試験科目に英語を導入した学校数は、2014年は15校であったのがその後急激に増加し、2015年には33校、2016年64校、2017年95校、2018年112校、2019年125校、2020年141校となり、その後は上げ止まっている。特に女子校に多く見られる。国立中では東京学芸大学附属国際中等教育学校が採用している。公立中高一貫校ではさいたま市立大宮国際中等教育学校(2019年4月開校)が採用している。
2020年現在、英語入試の形態は大きく
- 2教科または4教科試験+英検等の資格による加点優遇
- 国算英から2科を選択受験
- 国算英の3科・国算社理の4科のどちらかを選択
- 英語のみの試験
となっており、英語の試験内容は大きく分けてインタビュー形式とペーパーテストの2つの型がみられる。
- インタビュー形式の実技テスト
- ネイティブの教員や英語科の日本人の教員と受験生が英語で会話をする。近年、新しいタイプの英語入試として注目を集めている。
- 英語の「聞く」「話す」能力が求められる。
- 時間は10~15分程度で、個人インタビューや、グループ形式、スピーチ形式など学校ごとに特色がある。
- 筆記試験形式のテスト
- いわゆるペーパーテストのスタイルの試験。
- 英語の会話を聞いて後に続く質問に当てはまるイラストや語句を選ぶ、質疑応答の英文を読みながら、後に続く会話文を完成させる、といった筆記試験である。
- 英語の「聞く」「読む」「書く」能力が求められる。
学力以外の要素[編集]
実技試験[編集]
- 体育(例:マット、短距離走、球技)
- 音楽(例:放送で流された音を配られた紙に音符にして書く)
- 図工(例:配られた折り紙で形を作り、それを別に配られた紙に描く)
面接[編集]
実施する学校によって、親子面接、志願者・保護者別の面接、志願者のみの単独・グループ面接などがある。
志願理由書[編集]
受験生または保護者が記載する。出願時または受験時に提出。面接を課す場合はその内容を照合しながら行われる。
抽選[編集]
国立中学では応募者が多すぎる場合に抽選を実施する。実施時期は第1次選考と称して学科試験の前に行う場合と、学科試験などによって選抜したあとに行う場合とがある。
報告書、通知表のコピー[編集]
報告書は小学校に依頼して担任が作成する書類であり、高校受験における調査書に相当する。中学校独自の様式もあれば、地域で統一した様式もある。厳封したまま志望校に提出する。通知表のコピーで代用できる場合も多い。これは欠席日数や成績を確認するためのものであり、受験率の高い地域にあっては短期間に仕上げなければならない担任の事務負担が高い。この2つは不要の場合もある。