マンゴー
マンゴー(檬果・芒果、英: Mango、学名: Mangifera indica)は、ウルシ科マンゴー属の果樹、またその果実。別名で、菴羅(あんら)、菴摩羅(あんまら)ともいう。マンゴーの栽培は古く、紀元前のインドで始まっており、仏教では、聖なる樹とされ、ヒンドゥー教では、マンゴーは万物を支配する神「プラジャーパティ」の化身とされている。
リンネの『植物の種』(1753年) で記載された植物の一つである。
名称[編集]
日本語のマンゴーは、英語の mango から、さらには、ポルトガル語の manga、マレー語(現代マレーシア語・インドネシア語でも同じ)の mangga、タミル語の மாங்காய் (māṅkāy マーンカーイ) から伝わった。
漢字表記の「芒果(現代中国語拼音: mángguǒ)」は、マレー語の mangga もしくは他の東南アジアの言語からの直接の音写である。
仏典の菴羅・奄羅・菴摩羅・菴没羅などは、サンスクリットの āmra(アームラ)の音写である。ただし、同じウルシ科のアムラタマゴノキ (Spondias pinnata) を意味する amra(アムラ)との混同が見られる。
植物学上の特徴と分布[編集]
原産地はインドからインドシナ半島周辺と推定されている。そのうち、単胚性(一つの種から一個体繁殖する)の種類はインドのアッサム地方からチッタゴン高原(ミャンマー国境付近)辺りと考えられ、多胚性(一つの種から複数の個体が繁殖する)の種類はマレー半島辺りと考えられている。インドでは4000年以上前から栽培が始まっており、仏教の経典にもその名が見られる。現在では500以上の品種が栽培されている。インド・メキシコ・フィリピン・タイ・オーストラリア・台湾が主な生産国で、日本では沖縄県・宮崎県・鹿児島県・和歌山県・熊本県で主にハウス栽培されている。
マンゴーの木は常緑高木で、樹高は40メートル以上に達する。開花と結実時期は地域により差がある。枝の先端に萌黄色の複総状花序を多数付ける。花は総状花序と呼ばれる小さな花が房状で咲く状態になり、開花後に強烈な腐敗臭を放つ。この腐敗臭により受粉を助けるクロバエ科などのハエを引寄せている。マンゴーの原産地の熱帯地域は、ミツバチにとって気温が高すぎるため、マンゴーは受粉昆虫としてハエを選んだと考えられている(日本のハウス栽培では受粉を助ける昆虫としてミツバチをビニールハウス内に飼っている)。果実は系統によって長さ3-25センチ、幅1.5-15センチと大きさに開きがあり、その形は広卵形とも勾玉形とも評される。果皮は緑色から黄色、桃紅色などと変異に富むが、果肉は黄橙色をしていて多汁。果皮は強靱(きょうじん)でやや厚く、熟すと皮が容易に剥けるようになる。未熟果は非常に酸味が強いが、完熟すると濃厚な甘みを帯び、松脂に喩えられる独得の芳香を放つ。
マンゴーとかぶれ[編集]
マンゴーはウルシオールに似た「マンゴール」という接触性皮膚炎(かゆみ)の原因となる物質が含まれており、高率にかぶれを引き起こすため注意が必要である。痒みを伴う湿疹などのかぶれ症状は食べてから数日経って発症・悪化する場合があり、ヘルペスなどと誤診されることもある。
食材としての利用[編集]
100 gあたりの栄養価 | |
---|---|
エネルギー | 250 kJ (60 kcal) |
炭水化物 | 14.98 g |
糖類 | 13.66 g |
食物繊維 | 1.6 g |
脂肪 | 0.38 g |
飽和脂肪酸 | 0.092 g |
一価不飽和 | 0.14 g |
多価不飽和 | 0.071 g |
タンパク質 | 0.82 g |
トリプトファン | 0.013 g |
トレオニン | 0.031 g |
イソロイシン | 0.029 g |
ロイシン | 0.05 g |
リシン | 0.066 g |
メチオニン | 0.008 g |
フェニルアラニン | 0.027 g |
チロシン | 0.016 g |
バリン | 0.042 g |
アルギニン | 0.031 g |
ヒスチジン | 0.019 g |
アラニン | 0.082 g |
アスパラギン酸 | 0.068 g |
グルタミン酸 | 0.096 g |
グリシン | 0.034 g |
プロリン | 0.029 g |
セリン | 0.035 g |
ビタミン | |
ビタミンA相当量
β-カロテン ルテインと ゼアキサンチン |
(7%)
54 µg (6%) 640 µg 23 µg |
チアミン (B1) | (2%)
0.028 mg |
リボフラビン (B2) | (3%)
0.038 mg |
ナイアシン (B3) | (4%)
0.669 mg |
パントテン酸 (B5) | (4%)
0.197 mg |
ビタミンB6 | (9%)
0.119 mg |
ビタミンB12 | (0%)
0 µg |
コリン | (2%)
7.6 mg |
ビタミンC | (44%)
36.4 mg |
ビタミンD | (0%)
0 IU |
ビタミンE | (6%)
0.9 mg |
ビタミンK | (4%)
4.2 µg |
ミネラル | |
ナトリウム | (0%)
1 mg |
カリウム | (4%)
168 mg |
カルシウム | (1%)
11 mg |
マグネシウム | (3%)
10 mg |
リン | (2%)
14 mg |
鉄分 | (1%)
0.16 mg |
亜鉛 | (1%)
0.09 mg |
マンガン | (3%)
0.063 mg |
セレン | (1%)
0.6 µg |
他の成分 | |
水分 | 83.46 g |
| |
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 出典: USDA栄養データベース(英語) |
熟した実を中心にある種に沿って切り、生のまま食用にするのが一般的だが、ジュース・ラッシー・ピューレ・缶詰・ドライフルーツなどにも加工される。香港では果肉またはピューレにゼラチン・砂糖・生クリームなど、ほかの材料を合わせたマンゴープリンが有名である。そのほか、ムース・ケーキ・シャーベット・スムージー・グミなどの洋生菓子も盛んに作られている。また、未熟果を塩漬け・甘酢漬け・チャツネにする。東南アジアでは未熟果に唐辛子入りの砂糖塩につけて食したり、炒め物などの料理に使用したりする。
栄養面では、特にカロテンが豊富で、ビタミンAやビタミンCが多く、抗酸化作用が効果が期待できる。また葉酸も含まれ、貧血や口内炎予防もなる。
地域によってはパパイヤのようにマンゴーの未熟果実を野菜として、おやつとして食する文化が一般的である。タイとベトナムでは緑色の未熟果実が庶民のおやつとして食べられている。これには塩をつけて食べる。ほとんど甘みはなく、未熟な果実の鮮烈な酸味と歯ごたえを楽しむ。台湾では小ぶりのマンゴーの未熟果実を丸ごとシロップ漬けにしたおやつが食べられている。インドではマンゴーの未熟果実を乾燥させ粉末にしたものはアムチュールと呼ばれ、酸味付けのスパイスとして使用される。ガラムマサラにアムチュールを加えた複合スパイスはチャットマサラと呼ばれ、インド料理では広く使用される。
種類[編集]
- アップルマンゴー
- メキシコ産アーウィン種で、果実は大型で重さ400 - 500グラムにもなる。熟すと果皮が赤くなる。果肉はオレンジ色で、濃厚な甘味が特徴。日本でも宮崎県、沖縄県で栽培されている。
- タイマンゴー
- ペリカンマンゴー(フィリピンマンゴー)に似た姿で、平たくて黄色い品種。甘さとやや酸味がある。
- フィリピンマンゴー(ペリカンマンゴー)
- カラバオ種で、果実が平たくて黄色い。
- ブラジルマンゴー
- アップルマンゴーのケント種。ブラジル産のため、北半球では輸入物が冬に出回る。
- キーツマンゴー
- 果皮が緑色のまま完熟するのが特徴。繊維が少なくて甘い。
- オーストラリアマンゴー
- 果皮が黄色地にピンク色を帯びた色になるため、「ピーチマンゴー」ともよばれる。口当たりが良く、やさしい甘さがある。