マグロ
マグロ(鮪、黒漫魚、金鎗魚、眞黒、𩻩)は、スズキ目・サバ科マグロ族マグロ属(学名:Thunnus)に分類される硬骨魚類の総称。暖海性で外洋性、回遊性の大型肉食魚で、日本を始めとする世界各地で重要な食用魚として漁獲されている。
呼称[編集]
学名[編集]
属名 Thunnus (仮名転写例:トゥンヌス)は「マグロ」を意味するラテン語。
諸言語名[編集]
目が大きく黒い魚であることから(目黒 - まぐろ)と呼ばれる。日本ではマグロ属の中の1種であるクロマグロ(学名:Thunnus orientalis)のみを指して「マグロ」と呼ぶ場合も少なくない。また、「カジキマグロ」(カジキの俗称)および「イソマグロ」(イソマグロ属)は和名に「マグロ」を含むが、学術上はマグロ(属)ではなく、生物学の成立以前から存在した通俗名(梶木鮪、磯鮪、など)を引き継いだものである。
英語名 Tuna は「マグロ」と日本語訳されがちであるが、実際は上位分類群のマグロ族 (Thunnini) 全般を指し、マグロだけでなくカツオ、ソウダガツオ(マルソウダ、ヒラソウダ)、スマなどを含む(詳細はツナを参照)。
特徴[編集]
全長は60 cmほどのものから3 mに達するものまで種類によって異なる。最大種タイセイヨウクロマグロは全長4.5 m・体重680 kgを超える。
水中生物としてはかなり高速で遊泳することができる。全長1.7-3.3 mのタイセイヨウクロマグロの群れの遊泳速度を測定した結果、平均の遊泳速度は3.6-10.8 km/hと計算されている。また、瞬間的な最大速度は80 km/hに達すると推定されている。
体型は紡錘形で、体の横断面はほぼ楕円形、鱗は胸鰭周辺を除けばごく小さいかほとんど無く、高速遊泳に適した体型である。吻はわずかに前方に尖る。尾鰭は体高と同じくらいの大きな三日月形だが、それ以外の各鰭は小さい。第二背鰭と尻鰭の後ろにはいくつかの小離鰭(しょうりき)がある。ただし、種類や成長段階によっては胸鰭・第二背鰭・尻鰭などが鎌状に細長く伸びるものもいる。
筋肉内の血管は動脈と静脈が近接する、奇網(きもう : Rete mirabile)という構造を持つ。これで体内の熱が逃げるのを防ぎ、体温を海水温より高く保って運動能力の低下を抑える。
生態[編集]
全世界の熱帯・温帯海域に広く分布するが、種類によって分布域や生息水深が異なる。海中では口と鰓蓋を開けて遊泳し、ここを通り抜ける海水で呼吸する。泳ぎを止めると窒息するため、たとえ睡眠時でも止まらない。
食性は肉食で、表層・中層性の魚類、甲殻類、頭足類などを捕食する。海洋の食物連鎖においてはクジラ、アザラシ、カジキ、サメなどと並ぶ高次の消費者である。それ故に相対的に個体数が少なく、また、生物濃縮によって汚染物質を蓄積しやすいため、様々な問題も起きている(後述)。
マグロ属構成種[編集]
マグロ亜属[編集]
マグロ亜属(Thunnus)には下記の5種が含まれる。
- クロマグロ(黒鮪)
- 学名 Thunnus orientalis (Temminck & Schlegel, 1844)、英名 Pacific bluefin tuna
- 全長3 m・体重400 kgを超える。本種・タイセイヨウクロマグロ・ミナミマグロの3種はマグロ属の中でも胸鰭が短く、第二背鰭に届かない点で他種と区別できる。日本近海を含む太平洋の熱帯・温帯海域に広く分布する。
- 日本の地方名としては、若魚をヨコ、ヨコワ(近畿・四国)、メジ(中部・関東)、ヒッサゲ、成魚をホンマグロ(東京)、シビ、クロシビ(各地)などと呼ぶ。特に青森県大間町沖産の「大間まぐろ」が最上等種とされ、豊洲市場(築地市場から移転)の初競りでは1匹億円単位の値が付くこともある。魚体の色と希少価値から「黒いダイヤ」とも呼ばれる。タイセイヨウクロマグロと同種または亜種とすることがある。亜種の場合、学名はThunnus thynnus orientalisとなる。
- タイセイヨウクロマグロ(大西洋黒鮪)
- 学名 Thunnus thynnus (Linnaeus, 1758)、英名 Atlantic bluefin tuna
- 全長4.5 m・体重680 kgに達し、マグロ属、ひいてはサバ科でも最大種である。地中海・黒海を含む大西洋の熱帯・温帯海域に分布する。IUCNレッドリストでは絶滅危惧と評価されている。
- ミナミマグロ(南鮪)
- 学名 Thunnus maccoyii (Castelnau, 1872)、英名 Southern bluefin tuna
- 別名インドマグロ。全長2.5 mに達する。南半球の南緯60度までの亜熱帯・温帯海域に分布する。身の脂が豊富で、寿司種(寿司ネタ)に好んで用いられるが、IUCNレッドリストではCR(絶滅危惧IA類 : 最も絶滅が危惧される動物のランク)に記載されている。
- メバチ(メバチマグロ/目鉢)
- 学名 Thunnus obesus (Lowe, 1839)、英名 Bigeye tuna
- 全長2 mほどの中型種。他種より太いずんぐりした体型、大きな目、長い胸鰭を持つ。和名「メバチ」や英名"Bigeye tuna"は、大きな目に由来する。日中は他のマグロより深い層を泳ぐが、夜は表層に上がってくる。赤道から南北に緯度35度の範囲に多く生息する。世界的な漁獲量はキハダに次ぐが、日本での流通量は最多で、店頭に並ぶ機会も多い。地方名はバチ(東北・関東)、メブト(九州)、幼魚は各地でダルマとも呼ばれる。IUCNレッドリストVU(絶滅危惧II類)。
- ビンナガ(ビンナガマグロ/鬢長)
- 学名 Thunnus alalunga (Bonnaterre, 1788)、英名 Albacore tuna
- 体長1 m程の小型種。「ビンナガ」の称は長大な胸鰭を鬢(もみあげ)に見立てたもので、トンボの翅に見立てたトンボ、シビ等の異称もある。赤道から南北に緯度10-35度の熱帯・亜熱帯海域に広く分布する。身は淡いピンク色でやや水っぽく、酸味がある。鶏肉に似ることから欧米での需要が高く、缶詰などの加工食品で多く流通する。生食の需要も高まっていて、一部の寿司屋では「ビントロ」という名前で販売されている。IUCNレッドリストDD(情報不足)。
新マグロ亜属[編集]
新マグロ亜属(Neothunnus)はマグロ属のうちヒレに黄味があるものを指し、3種ある。
- タイセイヨウマグロ(大西洋鮪)
- 学名 Thunnus atlanticus (Lesson, 1831)、英名 Blackfin tuna
- 全長1 m程度とマグロ属で最小の小型種。大西洋西岸に分布する。日本の魚卸ではクロヒレと呼ばれる。
- キハダ(キハダマグロ/黄肌・黄鰭)
- 学名 Thunnus albacares (Bonnaterre, 1788)、英名 Yellowfin tuna
- 日本近海では全長1-1.5 mほどのものが多いが、インド洋産は全長3 mに達するものもいる。第二背鰭と尻鰭が黄色で鎌状に長く伸び、体表もやや黄色を帯びる。赤道から南北に緯度35度の範囲に多く生息し、マグロ類の中ではコシナガと並んで特に熱帯・表層を好む。漁獲量は8種の中で最多で、缶詰などの材料として重要である。身はトロに当たる部分がなく、脂肪が少ない。若魚はキワダ(東京都・和歌山県)と呼び区別され、地方名はゲスナガ(静岡県)、イトシビ(高知県)、若魚はキメジ(木目地)とも呼ばれる。IUCNレッドリストLC(軽度懸念)。
- タイヘイヨウマグロ
- 学名 Thunnus tonggol (Bleeker, 1851)、英名 Longtail tuna
- 全長1 mを超えるものもいるが、60cmほどのものが多く、マグロとしては小型種である。和名通り尾柄が長く、他種よりも体型が細長い。インド太平洋の熱帯・亜熱帯海域に分布する。日本近海では夏季に捕獲され、主に加工して用いられる。外観のよく似たヨコワ(クロマグロの幼魚)と混同されるが、ヨコワの漁期は春・秋であり、タイヘイヨウマグロは胸鰭が長いことでも区別できる。西日本ではヨコワの鮮魚としての消費があるが、タイヘイヨウマグロの食味はヨコワ。