ヘビ
ヘビ(蛇、英: snake)は、爬虫綱有鱗目ヘビ亜目(Serpentes)に分類される爬虫類の総称。トカゲとは類縁関係にあり共に有鱗目を構成している。体が細長く、四肢は退化しているのが特徴。ただし、同様の形の動物は他群にも存在。
分布[編集]
適応放散により地上から地中、樹上、海洋に至るまで生活圏を広げており、南極大陸・極地を除く全大陸に分布する(右の図)。毒蛇は熱帯・亜熱帯に多い。
形態[編集]
大きさも最大7m以上になるアミメニシキヘビから、10cm程のメクラヘビ類まで、様々な種類がある。なお世界最大の毒蛇は、全長5m以上になるキングコブラとされる。
胴と尾の区別は、一般に総排出口から先が尾とされる。骨格を見れば胴体と尾の境界はある。すなわち、胴体には肋骨があるが、尾にはない。
俗に顎を外して獲物を飲み込むとされるが、実際には方形骨を介した顎の関節が2つあり、開口角度を大きく取ることができる。さらに下顎は左右2つの独立した骨で形成され、靭帯で繋がっている。上顎骨や翼状骨も頭骨に固定されておらず、必要に応じて前後に動かすことができる。歯も喉奥に向かって反り返り、これらにより獲物を咥えながら顎を動かすことにより獲物を少しずつ奥に呑みこむことができる(後述のように歯の他に牙を持つものもいる)。
鱗には厚さ数ナノメートルの剥がれない脂質が潤滑油として分泌されており、これは2015年12月9日付の「Journal of the Royal Society Interface」誌で発表された研究論文によって明らかになっている。
穴を掘ることができるヘビは、変形した頭や尻尾、荒い鱗など、形態が特殊な形状となっていることが多い。
感覚器[編集]
視力は人間などに比べると弱い。それは、目全体を1枚の透明な鱗で覆っているためで、そのためにまばたきの必要もなく、脱皮の際には目の部位も脱皮する。現存する種にも目が退化したものは多い。ただし、立体的な活動を行う樹上棲種についてはこの限りではなく、視覚が発達し大型の眼を持っている種もいる。
また口内にはヤコブソン器官という嗅覚をつかさどる感覚器を持つ(ヘビ固有の器官ではない)。本科の構成種が舌を頻繁に出し入れするのはこの器官に舌が付着させた匂いの粒子を送っているためである。また一部の種では赤外線(動物の体温)を感じ取るピット器官という感知器官を唇にある鱗(上唇板、下唇鱗)や目と鼻孔の間に持つ。耳孔や鼓膜は退化しているため、地面の振動を下顎で感知する。
進化[編集]
ヘビの進化的起源には不明な点が多いが、有鱗目のうち、トカゲ亜目の一部から進化したと考えられている。1億4500万年前から1億年前の白亜紀前期に派生したと推測されている。Parviraptorなどジュラ紀の初期のヘビ類とされた化石はいくつか知られるものの、これらが実際にヘビに関連しているかについては否定的な意見もある。
トカゲ類の中ではオオトカゲ下目に近いとする説がもっとも有力であったが、近年の分子系統解析から、オオトカゲ下目+イグアナ下目から成るクレードと姉妹群を成すことがわかっており、有毒有鱗類と呼ばれる。(かつてはヘビと同じく四肢の退化したヒレアシトカゲ科やミミズトカゲ亜目を姉妹群とする説もあったが、分子系統解析からこれらは否定され、肢の消失は有鱗類の複数の系統で独立に起こった平行進化であることが確定した。)
ヘビの祖先がどのような生活をしていたかについては、水生だったとする説と陸生・地中生だったとする説が対立しており、決着は着いていない。水生説では、ヘビがモササウルス科 やドリコサウルス科 のような海生オオトカゲ類に近縁であることから、オオトカゲから派生して海中で自在に動けるように進化したと考える。特に、約9800万年前の地層から見つかったパキラキスがオオトカゲ類の特徴を残す祖先的なヘビであるとする研究は、水生説を強く支持している。パキラキスは前肢を持たず後肢のみを持つヘビで、形態的な特徴から水生であったと考えられる。しかし、パキラキスが祖先的であることを疑う意見もある。
水生説に対して、ヘビが中耳と鼓膜を失っていることや、進化過程で一度網膜が退化したとみられること、脳頭蓋が骨で保護されること、瞼が無く眼が透明な鱗で覆われていることなどは、ヘビの祖先が地中生活をしていたことを強く示唆する。ただし、固い地面を掘り進んでいたとすれば生じたはずの頭蓋骨の強化(ミミズトカゲ類には生じている)はヘビには見られず、地中起源だとしたら軟らかい土壌に住んでいたか、既にある穴や割れ目を利用する半地中生だったと考えられる。化石では、後肢と椎骨を残すナジャシュ、四肢を完全に失ったヘビの中では最古であるディニリシア(英語版)、頭部にトカゲの特徴(上顎の骨が頭骨に固定されている)を残し地中生だったと推測されるコニオフィスが陸生であることが、陸生説を支持している。
2015年には四肢を残す初期のヘビ類としてテトラポドフィス(英語版)が記載された。しかしながら、この化石は分類が不確実であり、いくつかの研究はこの標本は実際にはドリコサウルス科の一種である可能性が示された。化石はブラジルからドイツに不法に輸出されたものとみられており、他の研究者は実際の標本が研究できないことがその分類の混乱を引き起こした(当該化石は2024年にブラジル国立博物館に寄贈された)。
体形に合わせて内臓も細長くなっており、2つの肺のうち左肺は退化している。原始的なヘビほど左肺が大きい傾向にある。
一部のヘビには、総排出腔の両脇に後ろ足の名残として蹴爪が見られる。