コンニャク
コンニャク(蒟蒻、菎蒻、学名:Amorphophallus konjac)は、サトイモ科の植物、あるいはその球茎から製造される食品である。以下、本項では植物としてのコンニャクを表記する場合は「コンニャク」、食品などの加工品としてのコンニャクを表記する場合は「蒟蒻」として区別する。
名前と分類[編集]
学名はAmorphophallus konjac。英名はelephant foot(ゾウの足という意味)あるいはdevil's tongue(悪魔の舌)とも言い、それぞれ芋と花の形態に由来する。
形態[編集]
サトイモ科の夏緑多年生植物で、扁平な円形の地下茎があり、地上には葉だけを出す。茎は高さ1mほどに伸び、先端は平らに開いて鳥足状に小葉をつける。小葉は柔らかくて、つやがあり、楕円形。株は次第に大きくなるが、ある程度大きくならないと花はつかない。栽培下では5-6年で開花する。開花する時には葉は出ず、また開花後に株は枯れる。花は全体の高さが2mほどにもなる。いわゆる肉穂花序の付属体は円錐形で高くまっすぐに伸び上がり、仏縁苞は上向きにラッパ状に開き、舷部(伸び出した部分)は背面に反り返る。花全体は黒っぽい紫。独特の臭いを放つ。果実は液果。
生態[編集]
イノシシやサルの採食試験の結果から、コンニャクイモは野生獣にとって嗜好性が低い植物とされている。
分布[編集]
原産地はインドまたはインドシナ半島(ベトナム付近)とされ、東南アジア大陸部に広く分布している。近縁種のヤマコンニャク(A. kiusianusまたはA. hirtus var. kiusianus)が、日本の四国南部から九州、南西諸島、台湾に自生している。
食用[編集]
芋の部分を食用にできるがサトイモ科の多くの植物同様シュウ酸カルシウムの毒性が強く生食は不可。食用とするためには茹でてアルカリ処理を行うなどの毒抜き処理が必須である。蒟蒻の原料となるコンニャクイモの2018年度(平成30年度)の日本での収穫量は55,900t。国内の主産地は群馬県 (93.2%) で、第2位栃木県 (2.7%) 、第3位茨城県 (1.4%) と続いており、日本では約97%が北関東で生産されている。世界的な生産量は中国が圧倒的に多く、芋もしくは粉砕した粉末状の形で流通しており日本にも大量に輸入されている。
基本的な毒抜きと蒟蒻の製法は芋を粉砕して粉にし、水とともにこねた後に石灰乳(消石灰を少量の水で懸濁したもの。水酸化カルシウム水溶液)、炭酸ソーダ(炭酸ナトリウム)水溶液、または草木の灰を水に溶いたものを混ぜて煮沸して固めたものが蒟蒻として食用にされる。日本だけでなく中国やミャンマーもほぼ同じ方法で食用にする。元々はそちらの料理であったとされ日本へは伝来したものと見られている。時期は諸説あり、飛鳥時代に医薬として仏教と共に伝来した説や縄文時代に伝来した説もある。鎌倉時代までには食品として確立し、精進料理に用いられるようになったと見られている。
粉末には2種類あり、球茎を粉砕した荒粉とマンナンを精製した精粉に分かれ、コンニャク製造の際は双方を混合して用いる。江戸時代中期の1776年(安永5年)、水戸藩那珂郡山方村農民の、後に苗字帯刀を許された中島藤右衛門(なかじま とうえもん)(1745年-1825年)が乾燥した球茎が腐らないことにヒントを得て、粉状にすることを思いついたとされる。
一般的な蒟蒻は、副素材としてひじきやアラメ、ヒトエグサなどの海藻粉末を加えて色をつける。江戸時代に製粉法が開発されて白い蒟蒻を作ることが可能になったが、蒟蒻らしくないと評判が悪かったため、意図的に色をつけるようになった。形状や調理法は様々なものがある。
食品以外の用途[編集]
耐水性高分子素材[編集]
布や紙等の防水・気密加工には軟質のゴムや合成樹脂などが利用される。しかし第二次世界大戦当時の日本では東南アジア方面のゴム資源が得られにくくなっており、合成樹脂の大量生産は技術的にも経済的にも確立されていなかった。そのため、煮溶かして塗り付けると防水性・気密性を発揮するコンニャクが防水加工素材の代用品として盛んに利用された。耐久性こそゴムに劣るものではあったが、国内調達が可能なことが大きな強みであった。元々は和傘などで「蒟蒻糊」として利用されていたものの応用だが、果ては風船爆弾のような兵器にまで利用された。今日見られる紙製バルーンなどの気密にはコンニャク芋原料の多糖類高分子素材ではないが、環境に配慮して生分解性のある素材が選択されている。
お化け屋敷の小道具[編集]
お化け屋敷や肝試しにおける恐怖演出の小道具として、蒟蒻が利用されることもある。糸などで蒟蒻をぶら下げ、通りかかる人の顔や首筋を狙ってぶつける。すると冷やっとした蒟蒻独特の質感で、何とも言いがたい気色悪さを与えることになる。
ただ今日では、このような用法は学園祭などのような「素人芸能」的な活動以外ではほぼ見られない。食品であることから、もったいないとして忌避されたり、衛生上の問題があるためである。代用としては、保冷剤や濡れふきんなども利用される。
温熱療法[編集]
民間療法として、蒟蒻を茹でて熱々にしたものを布(タオル)で何重にもくるみ、布(タオル)の表面が人肌よりやや熱いくらいにして、内臓など患部の上にのせて長時間ゆっくりと温める、一種の保温材としても使われる。蒟蒻は温め直せば何度でも再利用が可能。鮮度や衛生に問題がなければ使用後に食べてもよい。
その他[編集]
耳鼻咽喉科において、手術の際の止血材として氷蒟蒻が用いられる事がある。
手術練習用の常温長期保存が可能な模擬臓器が製造、市販されている。
人肌に温めたコンニャクが男性の自慰行為に使われることがある。