アメリカ合衆国ドル
アメリカ合衆国ドル(アメリカがっしゅうこくドル、英語: United States Dollar)は、アメリカ合衆国の公式通貨である。通称としてUSドル、米ドル、アメリカ・ドルなどが使われる。アメリカ合衆国ドルは、その信頼性から国際決済通貨や基軸通貨として、世界で最も多く利用されている通貨である。
概要[編集]
アメリカ合衆国ドルは、その信頼性からしばしばアメリカ合衆国の国外でも使われ、特に輸出入など国際的な商取引の決済に多く使用されている基軸通貨である。
アメリカ合衆国ドルの記号は、ドル記号 ($) である。ISO 4217では、アメリカ合衆国ドルのコードはUSDである。補助通貨は、セント(記号は、¢またはc)で、1ドル = 100セント である。
1792年の貨幣法(Coinage Act of 1792)以来金銀複本位制であったが、1873年(Coinage Act of 1873)には完全に金銀複本位制が破棄され金本位制となり、1900年には法令で金本位制として1ドル=金20.67グラムが規定された。ただし兌換比率は歴史的に大きく変動している。第二次世界大戦後しばらくは、主要通貨で唯一の金本位制を維持していた通貨であり、各国の通貨は米ドルとの固定レートにより、35ドル=金1トロイオンスとして間接的に金との兌換性を維持していた(ブレトン・ウッズ体制)。1971年のニクソン・ショックまでは金本位制が続けられていた。その当時に形成された米ドルを基軸通貨とする体制は、金本位制停止および変動相場制導入の後も継続されている。現在は、貴金属などとの兌換制度は無く、中央銀行である連邦準備制度が発行を管理する管理通貨制度のもとにある。
発行と印刷[編集]
先述のとおりアメリカ合衆国ドル紙幣の発券管理は連邦準備制度が集中的に行っているが、法令上、個々の紙幣はアメリカ国内に12行ある連邦準備銀行が個々に発行している。
紙幣製造は製版印刷局と合衆国造幣局によって行われ、1日あたり6億5000万ドル相当の紙幣と硬貨が製造されている。従業員数は合計で5000人を超える。印刷工場はアメリカ国内に2か所ある。
偽造を防ぐ目的で、1ドル紙幣と2ドル紙幣を除く全紙幣のデザインが2000年代 - 2010年代に刷新されている。2012年12月31日現在の連邦準備制度の統計によれば、1ドル紙幣の流通量は103億枚、100ドル紙幣は86億枚、20ドル紙幣は74億枚である。
発券銀行[編集]
紙幣を発券した銀行がどの連邦準備銀行であるかは、その紙幣に記されたアルファベット記号で判別することができる。アルファベット記号以外の部分はどの発券銀行も額面ごとにすべて同じデザインであり、また発券銀行にかかわらず同一額面ならどの紙幣も等価である。
肖像の小さい紙幣(1・2ドル紙幣と、5ドル以上かつシリーズ1994以前の紙幣)には、肖像の左にアルファベットの記載された丸い部分があり、法令上の発券銀行がこの文字で判るようになっている。
- A:マサチューセッツ州 ボストン連邦準備銀行
- B:ニューヨーク州 ニューヨーク連邦準備銀行
- C:ペンシルベニア州 フィラデルフィア連邦準備銀行
- D:オハイオ州 クリーブランド連邦準備銀行
- E:バージニア州 リッチモンド連邦準備銀行
- F:ジョージア州 アトランタ連邦準備銀行
- G:イリノイ州 シカゴ連邦準備銀行
- H:ミズーリ州 セントルイス連邦準備銀行
- I:ミネソタ州 ミネアポリス連邦準備銀行
- J:ミズーリ州 カンザスシティ連邦準備銀行
- K:テキサス州 ダラス連邦準備銀行
- L:カリフォルニア州 サンフランシスコ連邦準備銀行
肖像の大きい紙幣(5ドル以上かつシリーズ1996以降の紙幣)では、左端のアルファベット(「B2」など)がこれに相当する。また紙幣シリアルナンバー(記番号)11桁のうち左から2桁目のアルファベットも同じことを表している。
印刷工場[編集]
紙幣の印刷はアメリカ合衆国製版印刷局が直営する工場2か所で行われている。
- ワシントンD.C.工場
- フォートワース工場
すべてのドル紙幣には小さな字で原版番号(どの凹版原版を用いて印刷したかを表す記号番号)が2か所ずつ印刷されているが、うち1か所の原版番号で例えば「FWD63」のように、「FW」が付いていればフォートワース工場で印刷された紙幣(前出の画像では1・2・5・10・50ドル)である。「B57」のように「FW」が2か所とも原版番号に付いていなければワシントンD.C.工場で印刷された紙幣(前出の画像では20ドルと100ドル)である。
流通硬貨[編集]
硬貨として発行されるのは1ドル(100セント)以下の通貨であり、アメリカ合衆国造幣局が製造している。
現在発行されている硬貨の金種は、
- 1セント(Penny、ペニー)
- 5セント(Nickel、ニッケル)
- 10セント(Dime、ダイム)
- 25セント(Quarter、クオーター)
- 50セント(Half Dollar、ハーフダラー)
- 100セント(=$1、シルバーダラー)
の6種類である。なお、シルバーダラーというのは1ドル銀貨の呼称で、現在の1ドル硬貨の呼称ではない。
今後の改刷計画[編集]
2016年4月20日に財務省のジェイコブ・ルー財務長官によって発表されたデザイン改定に関する一連の方針では、新たな20ドル紙幣の表側肖像を奴隷解放に尽力した黒人女性のハリエット・タブマンとし、ジャクソンの肖像は裏側にまわすこと、5ドル紙幣の裏側にはマーティン・ルーサー・キング・ジュニアを、10ドル紙幣の裏側には女性参政権獲得運動に尽力したルクレシア・モットら5人の女性の肖像を描くこととされた。具体的な新デザインは2020年に公表するとした。これにより、肖像の人物が全て白人男性で占められていた状況が解消されることになる。
しかし、後任のスティーヴン・マヌーチン財務長官は2017年8月のインタビューにて、いずれ議論する必要があると前置きをしつつも、現時点では偽造防止技術の向上などに焦点を当てていると語り、肖像の変更に関する検討が後回しにされていることを示唆した他、ドナルド・トランプ大統領は20ドル紙幣のデザイン改訂を「純粋なポリティカル・コレクトネス」として批判しており、「(ハリエット・タブマンは)滅多に使われない2ドル紙幣になら似合う」とまで発言した。
その後、後任のジョー・バイデン大統領とジャネット・イエレン財務長官は前政権によって凍結されていた改刷計画を再び推進すると発表し、以下のデザイン・スケジュールで改刷を実行するとしている。
- 10ドル紙幣 - 2026年発行予定。表側:アレクサンダー・ハミルトン、裏側:ルクレシア・モット、スーザン・B・アンソニー、ソジャーナ・トゥルース、エリザベス・キャディ・スタントン、アリス・ポール(英語版)と1913年の女性参政権行進(英語版)の様子
- 5ドル紙幣 - 2028年発行予定。表側:エイブラハム・リンカーン、裏側:リンカーン記念堂にて演説するマーティン・ルーサー・キング・ジュニア
- 20ドル紙幣 - 2030年発行予定。表側:ハリエット・タブマン、裏側:ホワイトハウスとアンドリュー・ジャクソンの銅像
- 50ドル紙幣 - 2032年発行予定。
- 100ドル紙幣 - 2034年発行予定。
また、以前より待望視されていた視覚障害者のための識別マークの追加もこの刷新で初めて実現される見込みである。