たばこ
たばこ(煙草、莨、tobacco)は、タバコ (Nicotiana tabacum) の葉を加工して作られる製品である。日本の法令では「たばこ事業法2条3号」より、「製造たばこ」と定義され、「葉たばこを原料の全部又は一部とし、喫煙用、かみ用又はかぎ用に供し得る状態に製造されたもの」とされる。
歴史[編集]
喫煙のはじまり[編集]
植物としてのタバコは、原産地のアンデス山脈地方から伝播して南北アメリカ大陸全域において使用されるようになった。7世紀ごろのマヤ文明・パレンケ遺跡においては発見された神がタバコを吸うレリーフは、同時期に既に喫煙の習慣がはじまっていたことを示している。たばこは嗜好品として使用されるほか、薬用や宗教行事においても多用されていた。
タバコの伝播[編集]
1492年、クリストファー・コロンブスがアメリカ大陸を確認してしばらくすると、新大陸中に普及していたたばこは新たにやってきたヨーロッパ人たちの目に留まるようになった。新大陸からたばこはヨーロッパへと伝播し、1571年にはスペインの医師であるニコラス・モナルデスが新大陸の薬用植物誌を書いた中でたばこの使用法や薬効を詳述している。
アジアへの伝播はスペイン人によって1575年にフィリピンに持ち込まれたものが最初であり、以後17世紀初頭までのわずかな間に福建省、インド、ジャワ、日本などにたばこが広まっていった。ほぼ同じ時期に、中東のサファヴィー朝やオスマン帝国にもたばこが広められている。1630年までには西アフリカに、1638年にはマダガスカルでもたばこが確認され、こうしてたばこは新大陸発見からわずか130年ほど、本格的に普及のはじまった1570年代からは60年ほどで全世界へと普及した。この伝播の過程においては、アフリカを除く伝播したほとんどの文化圏(ヨーロッパ諸国、アジア、中東等)においてたばこの薬効に触れた文献が存在しており、薬として受容された面が大きいと考えられている。ただしいったん受容されると、どの文化圏においてもたばこはすぐに嗜好品としての地位を確立するようになった。
急速に全世界へと広まったことでたばこは重要な換金作物となり、世界各地で生産が行われるようになったが、なかでもたばこ生産が経済の重要な地位を占めるようになっていたのはイギリスの植民地であったチェサピーク湾地方にあるヴァージニアとメリーランドの植民地だった。ここで生産された葉たばこはイギリスに輸入されたのちヨーロッパ大陸へと再輸出され、イギリス・西インド諸島・北アメリカ植民地を結ぶ三角貿易の重要な一角となっていた。このたばこ生産は北アメリカ植民地に独自の経済的基盤を与えることとなった。
1970年代ごろからたばこの有害性を主張する禁煙運動が盛んとなり、先進国を中心にたばこの消費は減少の一途をたどることとなった。多国籍企業による豊富な資金力は、開発途上国においてたばこの消費を増加させたため、2005年には世界保健機関 (WHO) が主導するたばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(たばこ規制枠組条約)が結ばれた。