動機付けられた忘却
動機付けられた忘却 (Motivated forgetting) とは、人が意識的または無意識的に望まない記憶を忘れてしまうという、理論化された心理学的行動である[1]。人が許容できない衝動や潜在的に有害な衝動から生じる不安を軽減するために用いる、無意識的または意識的な対処技法であるため、ある意味では防衛機制の一種であるとも言える[2]。防衛機制は、意識的な対処 (コーピング) 戦略と混同されることはない[3]。
思考の抑制 (thought suppression) とは、このような不安を喚起する記憶の想起をブロックすることで、人が自分自身を守る方法である[4]。 例えば、何か嫌な出来事を思い出させるものがあると、その人の心は関係のない話題に向かうことがある。これは、忘れようとする意図がなくても、忘却を誘発する可能性があり、動機づけられた行動となる。抑圧 (repression) は無意識的な行為であり、思考の抑圧 (suppression) は意識的な形で、思考や記憶を意識から排除する行為である。
歴史[編集]
神経学者ジャン＝マルタン・シャルコーは、19世紀後半に精神疾患としてのヒステリーの研究を初めて行った。ジークムント・フロイト、ジョセフ・ブロイヤー、ピエール・ジャネは、シャルコーが始めたヒステリーの研究を継続した。この3人の心理学者は、ヒステリーが何らかの深刻な心理的障害に対する、激しい情動反応であると断定し、近親相姦やその他の性的トラウマが、ヒステリーの最も可能性の高い原因であると提唱した[5]。フロイト、ブロイヤー、ピエールが合意した治療法はトーキング・キュアと名付けられ、患者につらい記憶の回復と話し合いを促す方法であった。この時期、ジャネットは様々な記憶の統合の欠如を指す、「解離」という言葉を生み出した。彼は、トラウマとなった記憶が他の記憶とは別に保存される方法を説明するために、解離を用いた[5]。
動機付けられた忘却という考え方は、1894年に哲学者のフリードリヒ・ニーチェによって始まった[6]。ニーチェとジークムント・フロイトは、自己保存の一形態としての記憶の抑圧という考え方について、同様の見解を持っていた。ニーチェは、人間は前に進むために忘れなければならないと書いた。彼は、防衛機制として特定の出来事を忘れるという点で、このプロセスは能動的であると述べている[6]。
1896年にフロイトの有名な論文『ヒステリーの病因』が発表されると、これらのトラウマ的記憶に関する話題について、多くの論争が巻き起こった。フロイトは、「神経症は抑圧された性的記憶によって引き起こされる」と述べ[7]、「近親相姦や性的虐待はヨーロッパの上流階級や中流階級に共通しているはずだ」と示唆した。心理学界はフロイトの考えを受け入れず、このテーマについては引き続き研究が行われることなく、数年が過ぎた。
記憶障害への関心が再び高まったのは、第一次世界大戦と第二次世界大戦の時期であった。この時期、戦争からの帰還兵、特に砲弾ショックを経験した帰還兵の間で、記憶喪失の症例が多く現れた。朝鮮戦争の退役軍人からも同様の記憶障害の症例が現れたことから、外傷後ストレス障害（PTSD）という言葉が登場した。物忘れ、つまり外傷的出来事の一部を思い出すことができないことが、PTSDの診断の重要な要因と考えられた[8]。
アン・バージェスとリンダ・ホルムストロム[9]は1970年代に、レイプ被害者のトラウマに関連した、記憶喪失について調べた。これによって、幼少期の性的虐待に関連する体験談が数多く発表されるようになった。すべての深刻なトラウマによる記憶喪失が、同じ一連のプロセスであることが判明するまでには、1980年までかかった[10]。
虚偽記憶症候群財団（FMSF）は、1992年に、回復したと主張される多数の記憶への対応として設立された。[5]FMSFは、記憶が特定の技術を用いて回復できるという考えに反対するために設立され、その代わりに、そのメンバーは「記憶」は実際には、催眠術のような不適切な技術の使用によって「作られた自白である」と信じていた。
理論[編集]
動機付けられた忘却のプロセスに関連する理論は数多くある。
その主な理論である、動機付けられた忘却理論 (motivated forgetting theory) は、人が物事を忘れるのは、それを思い出したくないか、あるいは別の特別な理由があるためであると示唆する。苦痛や不穏な記憶は無意識化され、回収することは非常に困難であるが、それでも記憶には残っている[11]。検索抑制（記憶が意識に想起されないように抑制的制御を利用する能力, Retrieval Suppression）[12]は、認知的制御を用いて、不快な記憶への検索を阻止することができる方法の一つである。この理論はアンダーソンとグリーンによってThink/No-Thinkパラダイム (TNTパラダイム) を用いて検証された[13]。
減衰理論 (decay theory) は、時間の経過とともに記憶が失われていくことを指す、忘却に関する、もう一つの理論である。情報が記憶に入ると、ニューロンが活性化される。これらの記憶は、ニューロンが活性化している限り、保持される。活性化は、リハーサルや頻繁な想起によって維持できる。活性化が維持されないと、記憶の痕跡は薄れ、減衰する。減衰理論は、現代の心理学者の間で論争を呼んでいる。バリックとホールは減衰説に反対している。彼らは、「人は学校で習った代数を、数年後でも覚えている」と主張している[15]。これらの発見は、人間の記憶における痕跡崩壊の理論には、もっと多くのことがある可能性を示唆している。
動機付けられた忘却のもう一つの理論は、干渉理論 (interference theory) であり、「その後の学習が人の記憶を妨害し、劣化させる可能性がある」と仮定する[16]。この理論は、参加者に10個の無意味な音節を与えるという方法で検証された。その後、参加者の何人かはその音節を見た後に眠り、他の参加者はいつも通り一日を過ごした。この実験の結果、起きていた参加者は音節をあまり思い出せなかったが、寝ていた参加者は音節をよく覚えていた。これは、実験中に睡眠中の被験者には干渉がなかったが、他の被験者には干渉があったために起こった可能性がある。干渉には2つのタイプがあり、積極的干渉と遡及的干渉である。積極的干渉とは、すでに学習した古い課題に干渉され、新しい課題を学習できなくなることである。研究により、同じ時期に同じような科目を勉強している学生は、干渉を経験することが多いことが示されている[17]。遡及的干渉は、新しい課題の学習のために以前に学習した課題を忘れてしまう場合に起こる[18]。
ゲシュタルト心理学によって生み出された、忘却のゲシュタルト理論は、記憶は歪曲によって忘れ去られることを示唆している。これは偽記憶症候群とも呼ばれる[19]。この理論によると、記憶の細部が欠けている場合、記憶を全体的なものにするために他の情報が入れられる。その結果、記憶が正しく想起されなくなる。
批判[編集]
回復された記憶 (recovered memory) という用語は、場合によっては虚偽記憶 (false memory) としても知られているが、ある記憶が個人によって抑圧され、後に回復されることがあるという理論を指す。回復された記憶は、被告が性的虐待やその他の児童虐待で訴えられ、抑圧されていた虐待の記憶を最近になって取り戻したような場合に、しばしば証拠として用いられる。このことは多くの論争を巻き起こしており、この種の証拠の使用が法廷で増加するにつれて、回復された記憶が実際に存在するかどうかという疑問が生じている[20]。虚偽の記憶の事実性を決定するために、いくつかの研究室は、意図的に虚偽の抑圧された記憶を被験者に植え付けることができるかどうかを検証するためのパラダイムを開発した。その結果、言語パラダイム (verbal paradigm) が開発された。このパラダイムは、ある人が、提示されていない1つの単語から連想される数多くの単語を提示された場合、提示されたその単語を誤って記憶する可能性が高いというものである[21]。
言語的パラダイムと類似しているのがファジートレース理論 (fuzzy-trace theory) であり、これは記憶について、2つの異なるもの、つまり実際の情報そのものと、それを取り巻く意味情報（または要点）を符号化することを指示する[22]。時間や場所など、虚偽の出来事を取り巻く一連の意味情報が与えられると、私たちはその出来事が起こったと誤って記憶する可能性が高くなる。情動はまた、出来事から発生源を記憶する能力を弱める[23]。発生源のモニタリング機能は、前帯状皮質 (anterior cingulate cortex, ACC) に集中している。
抑圧記憶療法 (repressed memory therapy) は、人に意図的に記憶を植え付けるために使われる手法とよく似ていると言われ、大きな批判を浴びている。その手法とは、ある出来事の要点について質問し、その要点に関するイメージを作り、そこからその出来事を発見しようとするものである。抑圧された記憶の多くは感情的なものであるという事実が重なると、出所の混同が起こる可能性が高くなる。人は、聞いた児童虐待事件が実際に自分の身に起こったと思い込み、セラピーによって確立されたイメージで、それを思い出すかもしれない[24]。
抑圧[編集]
心理的抑圧 (psychological repression) という考え方は、ジークムント・フロイトの精神分析モデルに基づく、自動的な防衛メカニズムとして1915年に開発された。
対処できない状況や記憶が起こると、私たちはそれを押し殺してしまう。これは第一次的な自我の防衛機制であり、多くの心理療法家が容易に受け入れている[26]。殺人、幼少期のトラウマ、性的虐待は一定期間抑圧され、その後セラピーで回復することができるとする精神分析理論を支持する研究が数多くある[27]。
抑圧された記憶は無意識のうちに行動に影響を及ぼし、私たちの議論、夢、感情的反応に現れる。抑圧の例としては、親から虐待を受けた子供が、後になってその出来事を全く覚えていないにもかかわらず、人間関係をうまく築くことができない場合などがある [27] 。治療の目的は、抑圧された記憶、恐怖、思考を意識レベルに戻すことであった。
抑制[編集]
思考の抑制 (thought suppression) とは、自分の思考や記憶を意識的かつ意図的に抑制しようとする努力のことである。例えば、誰かが不快な考えや、その場では不適切な考え、望まない行動を誘発するようなイメージを考えている場合、その考えを意識から 押し出すために、望まない考え以外のことを考えようとする。
思考を抑制するために人は、(a) その思考を抑制する計画を立て、(b) その計画を含め、その思考の他のすべての現れを抑制することによって、その計画を実行しなければならない[25]。思考の抑制は困難で、時間のかかる作業であるとさえ考えられる。思考が抑制されても、最小限の促しで意識に戻ることがある。これが、抑制が強迫性障害とも関連している理由である[28]。
指示忘却[編集]
抑圧には、意図的忘却 (directed forgetting) とも呼ばれる、指示忘却という用語が含まれる。この用語は、忘れようとする意識的な目標によって開始される忘却を指す[29]。指示忘却は個人レベルで重要であり、トラウマや喪失の不快な記憶を抑圧することが特に苦痛である。
指示忘却パラダイムは心理学用語であり、指示によって情報が忘却されることを意味する[31]。指示忘却パラダイムには、項目法とリスト法の2つの方法がある。どちらの方法でも、参加者はいくつかの項目、忘れるべき項目と思い出すべき項目を忘れるように指示される。
指示忘却の項目法では、参加者は一連のある記憶すべき項目と忘却すべき項目を提示される[32]。研究段階の後、参加者は項目の部分集合を記憶するか忘 れるかを指示され、提示されたすべての単語について、テストが 行われる[32]。忘却すべき単語に対する想起は、記憶すべき単語と比較して、しばしば有意に損なわれる。指示忘却効果は認識テストでも実証されている。このため研究者は、項目法がエピソード符号化に影響すると考えている[32]。
リスト法の手順では、リストの半分が提示された後にのみ、忘れるようにという指示が出される。この指示は、リストの中盤と終盤に1回ずつ出される[32]。参加者は、最初に勉強したリストは単なる練習リストであり、次のリストに注意を集中するように言われる。参加者が最初のリストの学習段階を行った後、2つ目のリストが提示される。最終テストは、1つ目のリストのみ、あるいは両方のリストについて行われる。参加者は、学習した単語をすべて覚えていることを求められる。リスト法の指示忘却は、意図的に記憶の検索を減少させる能力を示す[29]。この理論を支持するために、研究者たちは、5日間にわたって毎日自分に起こった2つのユニークな出来事を日誌に記録してもらう実験を行った。この5日間の後、参加者はその日の出来事を覚えているか、忘れているかを尋ねられた。その後、さらに5日間このプロセスを繰り返すように指示され、その後、先の指示にかかわらず、両週のすべての出来事を記憶するように指示された。忘れるグループの参加者は、2週目に比べて1週目の想起が悪かった[34]。
指示忘却を説明する理論には、検索抑制仮説 (retrieval inhibition hypothesis) と文脈転換仮説 (context shift hypothesis) の2つがある。
検索抑制仮説は、最初のリストを忘れるように指示することで、リスト1の項目の記憶が妨げられるというものである[29]。この仮説は、指示忘却は不要な記憶の検索を減少させるだけであり、永久的な損傷を引き起こすわけではないことを示唆している。項目を意図的に忘れると、その項目は想起されにくくなるが、再度提示されると認識される[29]。
文脈転換仮説は、忘れるように指示することによって、忘れるべき項目が精神的に分離されることを示唆している。その項目は2番目のリストとは異なる文脈に置かれる。被験者の心的文脈は1つ目のリストと2つ目のリストの間で変化するが、2つ目のリストの文脈は残る。これにより、最初のリストの想起能力が損なわれる[29]。
心因性健忘[編集]
動機付けられた忘却には、以下の用語が含まれる。心因性健忘 (Psychogenic amnesia) とは、生物学的な機能障害や脳の損傷ではなく、心理的な要因によって、個人情報の過去の経験を思い出せないことを指す[35]。
心因性健忘はフロイトの理論的枠組みには含まれていない[要出典]。記憶はまだ心の奥深くに埋もれて存在しているが、いつでも自分自身で、あるいはその人の周囲のきっかけに触れることで、再浮上する可能性がある。心因性健忘は一般に、個人的な生活の塊を深く驚くほど忘れてしまうような場合に見られるが、動機付けられた忘却には、臨床的評価を必要としないような方法で不快な記憶を忘れてしまうような、より日常的な例が含まれる[36]。
心因性遁走[編集]
心因性遁走 (Psychogenic fugue) は心因性健忘の一形態であり、DSM-IVの解離性障害の一つで、外傷後数時間から数日の間、自分が誰であるかを含む、個人史を忘れてしまうものである[37]。うつ病の既往歴だけでなく、ストレス、不安、頭部外傷も遁走状態につながる可能性がある[38]。回復すると個人史を思い出すことができるが、遁走状態中に起こった出来事については健忘となる。
神経生物学[編集]
動機付けられた忘却は、前頭前野内で起こる活動の結果として起こる。これは、被験者の脳の機能的MRIを撮り、テストすることによって発見された[39]。前頭前野は、前帯状皮質、頭頂溝内、背外側前頭前野、および腹外側前頭前野から構成されている[40]。これらの領域は、不要な行動を止めることとも関連しており、不要な記憶と行動の抑制が同様の抑制プロセスに従うという仮説を裏付けている[41]。これらの領域はまた、脳内で実行機能を持つことが知られている[40]。
前帯状皮質は、意欲と情動に関連する機能を持つ[42]。 頭頂溝内は、知覚と運動活動の間の調整、視覚的注意、記号的数値処理、[43]視空間ワーキングメモリ、[44]他の生物の行動における意図の判断などの機能を持つ[45]。背外側前頭前野は、複雑な認知活動を計画し、意思決定を処理する[46]。
動機付けられた忘却に関与する、もう1つの重要な脳構造は、記憶の形成と想起を担う海馬である[47]。動機付けられた忘却のプロセスが働いているとき、つまり私たちが望まない記憶を積極的に抑制しようとするとき、前頭前野はベースラインよりも高い活動を示し、同時に海馬の活動を抑制する。[39]。動機づけと意思決定を司る実行野は、忘却の動機づけを受けて選択された記憶の想起を阻止するために、海馬の機能を低下させることが提唱されている[40]。
事例[編集]
戦争[編集]
動機付けされた忘却は、レイプ、拷問、戦争、自然災害、殺人などのトラウマ体験に関連する心理学的研究の重要な側面である。[48]
記憶の抑圧や抑圧に関する最も古い記録例は、第二次世界大戦の退役軍人に関するものである。主に塹壕生活の困難さ、負傷、砲弾ショックに関連した要因によるものである。これらの症例の多くが記録された当時、これらの兵士の精神的健康に対処するための医療資源は限られていた。 また、記憶の抑圧と抑圧の側面に対する理解も弱かった[50]。
ある兵士の場合（1917年）[編集]
記憶の抑圧は、多くの医師や精神科医によって処方された治療法であり、これらの記憶の管理には効果的であると考えられていた。残念なことに、多くの兵士のトラウマは、リヴァース博士の手記にあるように、この方法で対処するにはあまりに生々しく強烈だった。ある兵士は、砲弾の爆発で意識を失った後、病院に入ったが、一般的には快活な態度だったと記述されている。それが、およそ10日ごとに起こる突然の抑うつ症状によって崩壊した。この激しい抑うつ状態は自殺願望につながり、彼は戦争に戻ることができなくなった。これらの症状は、患者の抑圧された考えと戦争に戻ることへの不安によるものであることが、すぐに明らかになった。スミス博士は、自分の考えと向き合い、自分の感情や不安に対処することを、この患者に勧めた。その結果、この兵士はかなり元気のない状態になったが、うつ病の軽い発作をもう一回経験しただけであった。
虐待[編集]
幼少期の虐待の回復記憶に関しては、動機付けられた忘却の事例が数多く報告されている。虐待の多くは、特に親族や権力者によって行われたものであり、様々な期間の記憶の抑圧や抑圧につながる可能性がある。ある研究によると、虐待被害者の31％が虐待を少なくともいくらか忘れていることを自覚しており[51]、7つの研究の共同研究によると、虐待被害者の8分の1から4分の1は、事件や一連の出来事について完全に気づいていない（健忘）時期があることが示されている[51]。[例えば、近親相姦の記憶の回復は、近親相姦に関するテレビ番組、加害者の死、対象者自身の子供の虐待、虐待現場の目撃などによって、引き起こされることが示されている[51]。ハーマンとシャッツォによる研究では、虐待の継続的な記憶を持つ人の割合と、回復した記憶を持つ人の割合が、同じであるという確証が得られた。メアリー・デ・ヴリースとクラウディアの事例では、性的虐待の記憶の回復が確認されている。
法的論争[編集]
動機付けられた忘却と抑圧された記憶は、裁判制度の中で非常に議論の的になっている。裁判所は現在、歴史的事件、特に歴史的児童性虐待（HCSA）として知られる、比較的新しい現象を扱っている。HCSAとは、起訴される時点より数年前に起きた児童虐待の申し立てを指す[54]。
アメリカのほとんどの州と異なり、カナダ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドには、歴史的犯罪の訴追を制限する時効がない。そのため、各事件の法的決定者は、何年も前にさかのぼる可能性のある申し立ての信憑性を評価する必要がある。このような歴史的虐待事件では、証拠を提出することはほぼ不可能である。したがって、被告人の有罪性に関する判断を下す際には、目撃者と被告人の信用性を考慮することが極めて重要である[55]。
抑圧された記憶の想起を伴う、歴史的主張の信憑性に反対する主な論拠の一つは、虚偽記憶症候群にある。虚偽記憶症候群は、セラピーや暗示的なテクニックの使用を通じて、クライエントが子供の頃に性的虐待を受けたと誤って信じるようになると主張する[54]。
米国では、時効は、関心のある事件から3年から5年以内に法的措置をとることを要求している。未成年者については例外があり、18歳に達するまでである[56]。
児童虐待の事例が提示される年齢には、多くの要因がある。賄賂、脅迫、加害者への依存、児童の被害状態に対する無知などである[57]。以下のジェーン・ドウとジェーン・ローのケースに見られるように、虐待の記憶が抑圧または抑圧されている場合、時間が必要になることがある。1981年、この法律は、自分の置かれた状況が有害であることを意識的に認識していなかった個人を例外とするよう、調整された。この規則はディスカバリー規則と呼ばれる。この規則は、その事件の裁判官が必要と判断した場合に、裁判所が使用するものである[56]。
心因性健忘[編集]
心的外傷の重症例では、心因性健忘、すなわちその出来事の周辺で起こったすべての記憶を喪失することがある[35]。
参照[編集]
- 認知的不協和
- 情動記憶
- 動機付けられた推論
- 癒す勇気
出典[編集]
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