乗数効果
乗数効果(じょうすうこうか、英: Multiplier effect)とは、一定の条件下において有効需要を増加させたときに、増加させた額より大きく国民所得が拡大する現象である。国民所得の拡大額÷有効需要の増加額を乗数という。マクロ経済学上の用語である。リチャード・カーンがもともとは雇用乗数として導入したが、ジョン・メイナード・ケインズがのちに投資乗数として発展させた。
概要[編集]
生産者(企業や政府)が投資を増やす→国民所得が増加する→消費が増える→国民所得が増える→さらに消費が増える→さらに国民所得が増加する→さらに消費が増える→・・・という経済上の効果を意味する。この増加のサイクルは投資の伸びに対して乗数(掛け算)的な伸びとなることから、乗数効果と呼ばれている。
ケインズ派の乗数理論においては、不完全雇用の経済が前提とされている。
歴史[編集]
乗数効果を根拠として、企業による投資(特に設備投資)は好景気を喚起すると考えられている。政府による投資(公共事業)が景気対策となると考えられているのも乗数効果を根拠としている。
19世紀のイギリスでは、戦争の勃発で軍艦などの建造が盛んになると、直接造船業に関わっていない産業や労働者もそれとなく景気がよくなるという事例が記録に残っており、乗数効果の理論化以前にも、人々がその効果を実感として感じていたことが分かる。現代でも、実際の経済を見てみると、確かにこの乗数効果を観察することができる。
1990年代の日本では、公共事業の乗数効果が低下していたと言われる。公共事業の多くが土地収用(既存資産の取得)に用いられたために純粋な投資の割合が低かったこと、企業の純投資が縮小したことが理由として考えられる。後者については以下のように説明される。総投資は企業のあげる利益と投資額によって決まるが、1990年代の日本企業は投資を大きく差し控えたため、民間部門でのマイナスの乗数効果が働いていた。政府のプラスの効果は確実に存在したが、民間部門によって相当部分が相殺された。とくに、1990年代末期は企業財務の改善から有利子負債の圧縮が重視され、小渕恵三首相による大規模な財政出動はほぼそのまま企業の債務返済によって吸収され、家計に回らなかったため乗数効果の発生に至らなかった。